【記事のポイント】
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納豆人気は一過性のブームではない
TV番組で盛り上がる納豆消費
以前の記事で紹介しましたが、コロナ禍で私たちの食事は自宅で食べる内食が中心になりました。普段は外食やコンビニで済ます若い人も調理の楽しさを覚え、近所のスーパーで食品を買う姿がみられるようになりました。
内食シフトが進む中で特に売れた食品、それが「納豆」です。
巣ごもり生活で健康意識が高まる中、納豆は免疫力を強化する食品として注目されています。20年初めに国立ガン研究センターが納豆の死亡リスク低下を発表。さらに納豆に含まれる5-ALAというアミノ酸の一種が新型コロナウイルス感染に強力な抑制効果があるという研究結果が発表されました。
こうした情報を追い風に納豆はテレビなどメディアでも頻繁に取り上げられます。人気情報番組の「林修の今でしょ!講座」では21年1月12日の放送で納豆を取り上げ、納豆が心筋梗塞やがんの死亡リスクを低下させる効果があることを紹介、SNSでも大きな話題となりました。
下のグラフは家計の納豆支出を日次でみたものです。「林修の今でしょ!講座」の放送日を機に納豆の支出が急増しているのがわかると思います。
家計の納豆支出額の日次推移

納豆人気は10年以上続く現象
テレビで紹介された食品がスーパーの棚からなくなる。こうした現象は過去何度も繰り返されてきた「あるある現象」の一つです。ブームはたいてい一時的なもので翌週にはしっかり在庫の山になっているのが通常パターンです。
しかし納豆は例外です。納豆はメディア露出によるブーム&バーストのない稀な食品です。私が毎日通うスーパーの納豆売り場ではいつも複数のお客さんがお目当ての納豆をカートに入れています。ルーティン作業のごとく華麗にカートに入れる様は他の売り場にはみられない光景です。
納豆人気はテレビで紹介されて慌てて買いに行くような一過性のブームではない。このことは納豆の市場規模を簡易推計した下のグラフをみるとわかります。2011年以降、右肩上がりで市場が伸びています。コロナ禍で急増した納豆消費は右肩トレンドの中で起きたものであり、納豆ブームと言われても「何を今さら」と感じる人も多いでしょう。
納豆の市場規模の推移

関西の人は本当に納豆が嫌いなのか
昨今の納豆人気はテレビで紹介されたからという、あるある現象ではない。では今の納豆市場をけん引しているのは誰なのでしょう。
納豆市場がこれだけ伸びている最大の理由。それは「すそ野」が広がっていることです。
(理由1)地域のすそ野が広がる ~九州が納豆市場をけん引?
納豆市場のすそ野の広がり。一つめは地域です。納豆に関する一般常識と言えば、
西の人は納豆が嫌い
でしょう。しかしこれはもはや一般常識ではなくなりつつあります。下のグラフは家計の納豆消費の動きを都道府県別に捉えたものです。縦軸は家計の食品支出に対する納豆の割合(納豆をどれだけ食べているか)、横軸は家計の納豆支出額の過去の5年間の伸び率(納豆をどれだけ食べるようになったか)です。
都道府県別にみた納豆の支出割合と伸び率

縦軸の納豆支出割合が最も高いのが、福島や岩手をはじめとする東北地方です。東北が納豆王国であることに異論のある人はいないでしょう。
驚くべきは横軸の納豆支出の伸び率です。どの都道府県もここ数年で急速に納豆支出を伸ばしているのがわかります。
なかでも突出しているのが九州地方です。鹿児島、大分、熊本の3県は納豆の支出割合でみても東北と同水準になりつつあるのです。
「納豆は東の食べ物」はもはや過去の常識。九州は東北の次ぐ納豆王国なのです。「東北は不動の納豆王国」と信じ切っていた私も、九州の人がこれだけ納豆を食べていることに衝撃を受けました。
関西地方の納豆支出もプラスの伸びとなっています。和歌山県は「お金をやると言われても食べない」と言われるほど納豆嫌いで知られる県でしたが、納豆支出の伸び率は高知に次ぐ2位です。
過去の常識が覆される中、安定の納豆嫌いを示しているのが「大阪」です。支出額の伸び率こそプラスですが、支出割合は都道府県で最下位です。大阪の納豆嫌いはいまだ顕在のようですが、大阪の人が和歌山のように納豆好きに転身できるのか。今後注目したいところです。
(理由2)年齢層のすそ野が広がる ~若者層も関心を示す
納豆市場のすそ野の広がり。2つ目は年齢層です。
下の表にあるように、食品支出に占める納豆の割合が最も高いのが高齢層です。これは疑いようがありません。
一方、ここ数年で納豆の支出を急速に伸ばしているのが30-40代を中心とする若者層です。背景にあるのが健康意識の高まりです。特にコロナ禍で外出機会が減ることで運動不足となり、体調不良を訴える人も少なくないようです。私もさすがに身の危険を感じ、最近はウォーキングを日課にするようにしました。
健康不安が広がる中、納豆は手軽に摂取できる健康食品として年齢を問わず広がりをみせているわけです。
年齢別にみた納豆の支出額と変化率
29歳以下 | 30-39歳 | 40-49歳 | 50-59歳 | 60-69歳 | 70歳以上 | |
納豆の月次支出額 (2020年) | 6,574円 | 10,473円 | 13,181円 | 14,364円 | 15,713円 | 14,552円 |
納豆支出額の変化率 (15-20年の年率) | 2.17% | 3.15% | 3.59% | 1.12% | 3.11% | 1.77% |
納豆人気に死角はあるか
このようにここ数年の納豆人気の特徴は地域と年齢層のすそ野が広がることで起きています。では今後も納豆人気は継続すると言い切れるのか。納豆人気に死角はないのでしょうか。
「コメ離れ」をどう克服するか
納豆人気に死角があるとすれば、納豆とは切っても切り離せないパートナー、すなわち「お米」の存在です。
納豆の食べ方として「納豆ごはん」は鉄板です。消費者がお米を食べなくなると納豆は必然的に影響を受けざるを得ない運命にあります。
納豆人気の鍵を握るお米。「主食」争いでここのところ分が悪い勝負を強いられています。競争相手は言うまでもなく「パン」です。周知のようにパンブームは息の長いブームを続けていますので、お米が主食の座を奪われると納豆は今ほど食べられなくなる可能性があるのです。
下のグラフは食費に占める納豆の支出割合とパンとお米の支出割合(米÷パン)を都道府県別にみたものです。米の支出割合と納豆の支出割合はプラスの相関関係にあることがみてとれます。つまり、
お米を多く食べる地域では納豆を多く食べる
という自明の結果がデータからも確認できます。
納豆と米の相関性(都道府県別)

ただこのグラフはあくまで納豆とお米の相関性(納豆:お米)を示したもので、因果関係(納豆⇔お米)を示すものではありません。
「納豆を多く食べるからお米を食べる」のか(納豆⇒お米)
「お米を多く食べるから納豆を食べる」のか(お米⇒納豆)
皆さんはどちらだと思いますでしょうか。私はよほどの納豆マニアでない限り、お米を多く食べるから納豆も食べる(お米⇒納豆)という人が多いように思えます。つまり「コメ離れ」が進めば納豆の消費にも少なからずマイナスの影響が出る可能性があるということです。
「納豆ごはん」以外の食べ方を探る
ではコメ離れの影響を回避するにはどうしたらいいでしょう。
考えられる選択肢は、
①お米の魅力を高めてコメ離れを食い止める
②お米以外に納豆のパートナーを探す
の2つです。
①はどうでしょう。パンブームの勢いが強い中でお米の魅力を高めるのはなかなかの高いハードルです。最近は高級米をお取り寄せで購入する人も増えているようですが、パンを凌駕する勢いに発展するかどうか未知数です。
ただコロナ禍の健康志向を追い風にする手はあります。健康志向の高まりで「和食」を再評価する動きが高まっています。和食の魅力が高まればコメ離れは食い止められます。納豆は和食の魅力を高めるパーツとして重要な存在だからです。
②はどうでしょう。納豆ごはん以外の食べ方。お米以外の納豆のパートナーとして、パン、そば、うどん、デザートまで試みられてきました。納豆そばは私も好きですが、納豆ごはんを超えるパートナーかと問われると厳しいものがあります。
ただ食はどんどん進化していくもの。今後、お米以外の最強のパートナーが生まれる可能性は十分あるでしょう。私も色々な組み合わせを試しながら、納豆の新しい食べ方を探っていきたいと思います。