日本企業の「日本丸出し戦略」が刺さる理由 -「日本ロス」に対応する

【記事のポイント】

  • 海外進出の鉄則とされる「グローカリゼーション」が機能しなくなっている。
    自社商品を現地市場に合わせようとしてもうまくいかない。
  • むしろ「日本を丸出し」にしたほうが現地の消費者に刺さっている。
    -ドンキの海外店では日本の菓子や化粧品が人気
    -蔦屋書店では建築家の安藤忠雄氏設計の書店が中国に次々オープン
  • コロナ禍で日本に行けない「日本ロス」が一因になっている。
  • コロナ終息後も日本丸出し戦略は有効性を持つ。
    海外の消費者は日本企業に「非日常空間」を求めるようになっている。
    -日本で経験した日本そのものに対する思い(経験価値)が競争力の源泉になる。

 

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グローカリゼーション無視の「日本丸出し」がウケる!?

企業が海外進出する際に経営学の教科書などでよく出てくるキーワード、それが

「グローカリゼーション」

です。

グローカリゼーションとは、グローバリゼーション(Globalization)ローカリゼーション(Localization)が合わさった造語です。グローバルに通用するサービスや商品を展開しながらも、「進出国の文化やニーズに寄り添った商品・サービスを展開することが大事」という意味で使われます。

日本企業にとってグローカリゼーションは非常に大きな意味を持っていました。日本がモノづくり大国と言われていた70~80年代。「いいものさえつくれば売れる」とばかりに進出国の文化や消費者をよく調べもせず、自国で売れている商品をそのまま持ち込んだ結果、現地の消費者から相手にされませんでした。グローカリゼーションはこの時の苦い教訓が詰まった言葉なのです。

こうした経験を踏まえ、食品メーカーなどは進出国の食文化や味の好みを入念に調べ上げ、「現地の消費者の舌に合う商品」を開発・提供し成功を収めてきたわけです。

しかし、です。

ここにきてグローカリゼーションが裏目に出るケースが多くなっているそうなのです。自社の商品を現地の生活風土に合わせても消費者は振り向かなくなってきている。むしろ最近は、

日本で提供している商品・サービスをそのまま持ち込んだほうがウケがいい

こうした状況になっています。グローカリゼーションどころか「日本を丸出し」にしたほうが現地の消費者に刺さっている。いったい何が起きているのでしょうか。

「日本丸出し戦略」で成功する2つの企業

「ドンキ」の日本丸出し戦略

現地に忖度することなくあえて日本色を丸出しにして海外展開に弾みをつけているのがディスカウント店「ドン・キホーテ」(以下、ドンキ)を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスです。

ドンキの海外事業の業績をみると、2021年6月期第2四半期(2020/7-12月)の売上高は717億円と前年同期比で36%増加しています。

ドンキの海外進出は2006年にダイエーのハワイ法人を買収したのが始まり。海外事業では北米の売上が7割を占めるが、ここにきて順調に売り上げを伸ばしているのがアジアです。下の表にあるように、2020/7-12月の北米の売上高は前年比12%増なのに対し、アジアでは前年比176%増と急増しています。

ドンキ海外店の売上高

ドンキ海外店の売上高

ドンキの海外店舗の売り場は、ここが海外店と言われなければわからないほど

日本国内の店舗空間とほぼ同じ

なのです。

陳列された食料品のほとんどはジャパンブランドで、土産品として人気の日本の菓子や化粧品も売られている。マレーシア店ではハラル認証を取得した「和牛」が堂々と売られています。ドンキの海外店は「あえて日本を丸出し」することで現地の顧客ニーズを掘り起こそうとしているようです。

「蔦屋書店」の日本丸出し戦略

コロナ禍の海外進出で勢いづいているのはドンキだけではありません。中国で次々と店舗開設を進めている本屋さん。それが

蔦屋書店(ツタヤ)

です。

蔦屋は2020年10月に杭州に1号店、同年12月末に上海に2号店、21年3月には西安に3号店をオープンさせています。

中国では今「書店ブーム」が起きています。ネット通販が主流の中国でリアル書店が注目されているのは、楽しさやワクワク感を求める消費者が増えているからです。

ネットでお目当ての本を買うだけでは味気がない。そこで、

最近はどんな本が発売されているか」「自分が知らなかった本と出会えるかも」

こうしたワクワク感を求める空間を求めているのです。

その中国のリアル書店ブームを象徴するのが蔦屋書店なのです。日本旅行の際に東京・代官山の蔦屋書店に立ち寄り、コーヒーを飲みながら気分の良い買い物体験をした中国人は少なくありません。日本でしか手に入らない本を買い込んだという人も多いと聞きます。

コロナ禍で日本の書店へ行くことができない中、「自国に蔦屋書店がオープンした」となると行かないわけにはいかないわけです。最近は建築家の安藤忠雄氏が設計した書店が次々と中国にオープンして話題になっているそうです。

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海外の消費者は「日本ロス」に陥っている

ドンキと蔦屋書店がこれ見よがしに日本を丸出しにするのは明確な理由があります。ドンキや蔦屋の例をみてもわかるように、海外の消費者の多くはコロナ禍で

日本ロス

に陥っています。

新型コロナウイルスの影響で日本のインバウンド客はストップしたままです。2019年に3,188万人だったインバウンド客数は2020年に411万人に急減。インバウンド客の9割近くが消滅したのです。

順調に伸びてきた日本のインバウンド市場が蒸発したことで海外で起きている現象。それが「日本ロス」です。特に爆買いブームなどでインバウンド需要を支えてきたアジアの人々は日本に行けなくなったことで禁断症状に陥っています。

SNSで日本の観光地の様子などを投稿するといち早く反応するのは日本人より中国人である。「そこに行ったことがある!」「もう一度あそこで写真を撮りたい!」といった具合です。

日本丸出し戦略は「コロナ禍限定」なのか

日本丸出し戦略が奏功しているのは日本ロスが原因。となるとここで一つ疑問が生じます。

日本丸出し戦略は「コロナ禍限定」なのか?

今は日本ロスで日本を味わえる店舗に魅力を感じている海外の消費者も、コロナが終息して再び日本に自由に行けるようになれば、ドンキや蔦屋の現地店に足を運ばないようになるのでしょうか。

私はそうはならないと思っています。

日本丸出し戦略はコロナ終息後も現地の消費者を惹きつける。現地の消費文化に合わせたグローカリゼーションは海外戦略としてオワコン化する可能性が高い。このように考えています。

その理由は、

海外の消費者は日本企業に「非日常空間」を求めるようになっているからです。

商品・サービスに日常性を求めるのなら、食品の場合は普段から食べ慣れた味の食品を購入するでしょう。日本の食品メーカーが提供する商品にも「自国の味に日本のテイストを加える」グローカリゼーションを求めるはずです。

しかし「日本的なテイスト」程度なら日本企業がわざわざ現地進出しなくとも、現地の食品メーカーでも十分美味しい日本テイストの商品を作ることは可能です。

つまり、

現地の好みに合わせた日常的な市場はすでに飽和状態なのです。

かといって中途半端な日本テイストでは現地企業に模倣される。となると日本企業でなければ提供できないものでなければいけません。それが非日常性を求める消費者に対する「日本丸出し戦略」です。ドンキや蔦屋書店の現地店のような日本を丸出しにした非日常空間が強力な差別化要因になります。

「非日常空間」を求める現地の消費者には、現地には不釣り合いで一点の曇りもないド直球の日本が刺さるのです。

ドンキはもともとワクワク感・ドキドキ感というカオスな非日常空間を得意とする店舗です。空気を読まない丸ごと日本の店舗空間と日本ロスに陥った現地の消費者がうまく掛け合わさったことでドンキの海外事業は大きな盛り上がりを見せているのです。

コロナが終息して日本ロスが解消されても消費生活に非日常性を求める消費者は必ずいます。その消費者にターゲットを絞って日本丸出しで非日常性を届ける。ドンキや蔦屋書店の現地店はコロナ終息後も売上を伸ばし続けるでしょう。

海外市場も経験価値で勝負する時代に

このように今は現地の食習慣や空気を読んでグローカライズするだけで勝負する時代ではなくなっています。ここに日本を丸ごと味わってもらう「日本丸出し戦略」の意味があります。

これは日本産という品質や価格による価値だけでなく、日本産の背景にある日本の風景やストーリーという「経験価値」が重要になっているということです。

日本ロスの原因が単に「日本の商品」にあるなら、日本ブランドの商品をネットで購入すれば済む話です。

しかし今起きている日本ロスは、日本旅行で経験した日本そのものに対する思いが根底にあります。だからこそ、日本に行った時のワクワク感が味わえるドンキや、オシャレな空間とセンスの良い日本の写真集や美術書が置いてある蔦屋の店舗空間が刺さるのです。

利便性や機能性での差別化が難しい時代に求められるのは、すでに出来上がった商品をいかに売るかではなく、顧客と過ごした時間を経験価値に変えられるかどうかです。日本丸出し戦略は「経験価値」で勝負する時代に来ていることを象徴しています。

日本丸出し戦略はグローカリゼーションに変わる日本企業の新たな海外戦略セオリーになる予感がしています。