家具職人

木工家具と地域再生の深い関係-木工家具は地域の手触り感を醸成する

職人が手業を尽くす地域の中小家具メーカー。地域の中小家具メーカーの強みは職人による「顔の見える価値」です。それはやがて地域に対する手触り感をもたらし、地域再生に寄与する可能性を秘めています。

地域の中小家具メーカーに集まる期待

コロナ禍で在宅時間が多くなったこともあり、家具に対する支出は増加傾向にあります。特にニトリやIKEAなど大手家具チェーンの業績は好調で、家電量販店やアパレル店など業種を超えた合従連衡も活発化しています。

一方、大手家具チェーンほどの勢いはないものの、着実にファンを増やしつつあるのが製品一つひとつに職人が手業を尽くす地域の中小家具メーカーです。家具職人がどのような思いで製品を作っているのか。製品の品質や機能だけでなく、製造プロセスに映し出されるストーリーが中小家具メーカーの最大の魅力です。素材と真摯に向き合うスタイルに惹かれ、最近は若い職人も増える傾向にあります。

地域の木工家具メーカーの魅力

これまで地域の中小家具メーカーは大手家具チェーンの台頭や人口減少等を受け、厳しい経営状況が続いていました。しかしここ数年は大手家具チェーンにはない職人による「顔の見える価値」が見直されるようになってきた。理由はいくつかの成功事例が示しています。

デジタル技術×匠の技

なぜここにきて職人による手業を尽くした中小家具メーカーの製品が注目を浴びるようになったのか。大きな背景にあるのがネットとデジタル技術です。

北海道旭川に本社・工場を持つ木製家具メーカー「カンディハウス(CondeHouse)」は、メタバース(仮想空間)を活用したショールーム提案で海外を含む幅広い需要を取り込むことに成功しています。「Hokkaido Rock House」はメタバース上に北海道・大雪山連峰の雄大な自然を設定し、岩壁に接するように建てられたコンドミニアムに同社の家具製品が並びます。サイトにアクセスした人は雄大な自然と同社の木製家具が響き合う姿を目撃できるという寸法です。ネットとデジタル技術によって「顔の見える価値」がより遠くまで届くようになったということです。

「大工がデジタル技術を持てばおもしろいのでは」。このように考え、匠の技とデジタル技術を駆使して新境地を拓くのが建設用木材販売の「鈴三材木店」(浜松市)です。同社は3D加工機を駆使しながら木材の新たな可能性を提案しています。3D加工機ではうまくいかない部分は長年の匠の技を生かして解決していく。デジタル技術と匠の技をかけ合わせることで、世の中にないデザインの製品をつくり、木材の新たな需要を探り続けています。

地域風土×家具

地域の中小家具メーカーの強みはなんといっても「地域風土との強い結びつき」にあります。地元の職人が地元の木で作る家具は地域風土そのものだからです。

家具の町として知られる東川町(北海道上川郡)では、生まれてくる子どもたちに「君の居場所はここだよ」という思いを込め、旭川家具の職人が作った椅子をプレゼントする「君の椅子」プロジェクトがあります。東川町の住民はその椅子を通じて地元の自然との関りを強く持つようになります。

「やがて風景になるものづくり」を理念に掲げ、家具作りを通じて森の再生まで取り組むのが「木工房ようび」(岡山県西粟倉村)です。同社は粟倉村のヒノキで家具を作ると同時に、間伐や枝打ちをしながらヒノキの森を育てています。森の再生と一体となった同社の家具は海外のデザイン誌でも取り上げられ、海外からの受注も増加しています。

これら以外にも、長野県上田市町では街の風景を木で包みこむ「景観木工」を目指すなど、地域再生・街づくりに木を活かす発想は各地で広がりをみせています。

木工家具で地域再生

こうして地元の家具が内外で注目され、地域のあらゆる場で活用されるようになると重要な変化が起こります。地域への手触り感です。

地域への手触り感はやがて関係人口の増加につながります。関係人口とは地域というコンテキストを共有する特定多数の人々の集まりのことです。カンディハウスはメタバースを活用して世界中に地域の魅力をアピールする。君の椅子をプレゼントされた東川町の住民は地域への思いを一層強くする。木工房ようびの家具を購入した人は西粟倉村のヒノキの森を想起する。こうして地元の木工家具を通じて関係人口はどんどん増加していきます。関係人口が増えれば移住人口や観光人口も増え、ECサイトを通じた消費も増える。そのお金は地域への応援消費となり、必然的に地域内で循環するようになります。

課題は情報発信

もっとも、地元の木工家具を関係人口の増加につなげるにはまだ多くの課題があります。そこには自治体や地域金融機関などの支援が不可欠です。木工房ようびのような魅力ある中小家具メーカーが各地で埋もれている可能性があるからです。

若い木工職人はSNS等で製作現場の様子を発信したりしていますが、ベテラン職人のSNS発信はほとんどみかけません。ベテラン職人こそ地域の自然と木工製品のストーリーを熱く語れるはずです。地域の素晴らしい木工家具職人の魅力を紹介する動画作成を支援するなど、自治体や地域の金融機関など地域が一体となって支援する必要があるでしょう。