富裕層

高齢富裕層の消費を喚起するには - キーワードは「時間消費」と「対面」

【記事のポイント】

  • コロナ禍の消費を下支えする役割として期待されるのは富裕層
  • 株高にもかかわらず富裕層の消費は鈍い。
  • 理由は富裕層の7割は高齢世帯という点にある。
  • 高齢富裕層が消費のけん引役になれていない理由
    ① ストック(資産)を多く所有していてもフロー(消費)は少ない
    ② シニアの最大の楽しみは「旅行」なのにコロナ禍で楽しみが奪われている。
  • コロナ禍で高齢富裕層の消費を喚起するには、
    フロー収入が得られる金融資産を増やす。
    「時間消費型」「対面型」のサービスをネット上で展開
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足踏み状態から再び悪化が懸念される消費

年後半は再び消費悪化の見通し

個人消費は足踏み状態が続いています。下のグラフにあるように、消費はコロナ禍前の水準まで戻ってません。

総消費動向指数(実質ベース、2015=100)

総消費動向指数(実質ベース、2015=100)

頼れるのは富裕層、なのに

消費を決定するのは「所得」「資産」「マインド」です。このうち所得は雇用・所得環境が悪いですし、周知のとおり消費者マインドは感染拡大で上がりようがありません。

この中で唯一期待できる要因が「資産」です。個人の金融資産残高は1,946兆円(20年度末)です。半分以上は現預金ですが、残りは投信や保険など何らかの形で有価証券が含まれている資産であり、含み益もかなり膨らんでいるはずです。

いうまでもなく株価上昇の恩恵を最も受けるのが富裕層です。株高が個人消費にもたらす影響を資産効果といいますが、富裕層が資産効果で個人消費を下支えできればよいわけです。

結論を先に言ってしまうと、私は今のままでは富裕層に消費を下支えする役割は期待できないと感じています。理由は、

  • 日本の富裕層は高齢世帯が大半を占める
  • コロナ禍で消費意欲が一番低下しているのが高齢層

の2点です。

日本の富裕層の実態

高齢富裕層が消費のけん引役になれない理由を深堀りする前に、日本の富裕層の特徴について確認しておきましょう。

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1割の富裕層が金融資産の4割を所有

野村総研の調査(NRI親リッチアンケート調査)によると、日本の富裕層世帯数は純金融資産保有額1億円〜5億円未満の「富裕層」と5億円以上の「超富裕層」を合わせると、2017年時点で126.7万世帯(富裕層118.3万世帯、超富裕層8.4万世帯)いるそうです。これに準富裕層(純金融資産5000万円~1億円未満)322.2万世帯を加えると448.9万世帯となり、全世帯の1割弱(8%)となります。

全世帯の1割弱の富裕層はどのくらい金融資産を保有しているのでしょうか。下のグラフは全国消費実態調査(H26年)をもとに金融資産の保有割合を資産額別にみたものです。全国消費実態調査では、4000万円以上が最上級カテゴリーとなってますので、ここでは準富裕層を含めて富裕層と呼ぶことにします

準富裕層を含めた4,000万円以上の金融資産を保有する世帯割合は全体の約1割です。野村総研の調査結果も1割弱でしたのでほぼ符合します。

次に金融資産に占める富裕層の保有割合を計算すると約4割という数値になります。つまり日本の金融資産の約4割は全世帯の1割の富裕層世帯によって保有されている、ということになります。負債を控除した金融純資産で計算すると、富裕層世帯の保有割合は6割近くになります。「1億総中流」とは高度成長期の日本の家計を表現した言葉ですが、金融資産の保有状況を見る限り、そのような姿は浮かび上がってきません。

金融資産の所有分布

金融資産の所有分布

富裕層の7割は高齢者

日本の富裕層の特徴は「高齢者が多い」ことです。少し古いデータですが、資産1億円以上を保有する高齢富裕層(65歳以上)の割合は、世界平均の約3割に対し、日本は約5割と富裕層の高齢化が進んでいます(ワールドウェルスレポート 2011)。

中国など日本以外のアジア諸国の富裕層の7割は55歳未満の若い現役世代です。世界では若い人がガンガン稼いで富裕層入りし、社会にダイナミズムを生み出しています。

下のグラフにあるように、準富裕層を含む富裕層の保有金融資産を年齢別にみると、60歳以上の世帯が占める割合は約7割になります。

日本の富裕層 ≒「高齢富裕層」

といっても決して言い過ぎではないのです。定年になって退職金をもらい気付いたら資産額は1億円に達していた、というのが日本の富裕層の特徴と言えます。成り上がりで富裕層入りする現役世代が多いアジア諸国とは構造が異なります。

富裕層の保有金融資産の年齢別割合

金融資産の年齢別保有割合

富裕層はなぜコロナ禍で消費のけん引役になれないのか

さて、高齢世代が多い日本の富裕層がコロナ禍で消費のけん引役になれるのかという点です。はじめに結論を言いましたが、私は今のままで高齢富裕層にコロナ禍の消費を下支えを期待するのは難しいと感じています。以下、理由をみていきます。

(理由1)ストックリッチ・フロープア

高齢富裕層はよく、

ストックリッチ・フロープア

と言われます。退職金でストックは「リッチ」になりますが、リタイア後のフローは年金が主体となります。給与というフロー収入で暮らしていた現役時と比べ、心理面で「プアな気持ち」になる人が多いのです。最近は定年延長などシニア雇用の動きも目立ちますが、現役時と比べてフローは大きく下がる人が多いことも一因でしょう。

フローが下がってもリッチな資産を取り崩しながら消費すればいいではないか。

こうした指摘はまったくもって正しいのですが、残念ながら日本の富裕層はそれが成り立ちにくいのです。なぜなら、日本の富裕層の多くはサラリーマンとしてフロー収入で消費生活をしていた人だからです。生まれた時から資産からの収入で生活をする欧米の富裕層とはそこが決定的に違います。長年染みついたフローを前提とした消費生活が日本のシニア富裕層を「資産はあっても消費をしない層」にしています。

かつて企業は団塊世代のリタイヤ後の消費に注目したマーケティングを行いましたが空振りに終わっています。60歳定年を迎える2007年、65歳で年金が全額給付される2015年のいずれも期待したような消費の盛り上がりはみられませんでした。

このときよく言われたのが、「子孫に美田を美田を残す」的な価値観が消費を妨げているという意見です。たしかにそうした面もあるかもしれません。しかし団塊世代は高度成長期にアクティブに消費しまくってきた世代です。昔のおじいちゃんのイメージとは違います。フローがあれば消費するのが今のおじいちゃんです

現役世代が多いアジアの富裕層はフローが「リッチ」です。外車や高級マンションが飛ぶように売れるのはフローがリッチなせいもあると思います。同じ富裕層でも消費への貢献度がこうも違うわけです。

(理由2)外に出られない

最大の楽しみ「旅行」に行けない

もう一つ、シニア富裕層の消費を妨げているのがコロナ禍です。コロナ禍は人々の生活を外界から内界へ押し込みました。Go ToトラベルやGo Toイートもあって最近は外に出る人も多くなりましたが、多くは若い世代です。感染による重症化リスクの高い高齢富裕層はなかなか外に出られない状況が続いています

シニア富裕層の消費の特徴は「モノよりサービス」です。特にシニア富裕層が他世代と比べて多く支出しているのが「旅行」です。

以前の記事でも説明したように、旅行市場の半分は高齢世代が支えています。高齢世代にとって旅行は「楽しみナンバーワン」です。それがコロナ禍によって奪われているわけですので、高齢富裕層の消費が盛り上がらないのも無理ありません。
参考記事:シニア不在のGoToトラベルの厳しさ

ネットの時間節約サービスは高齢層に刺さらない

高齢富裕層の消費を掘り起こそうとネットサービスを展開する向きもありますが、多くは刺さってません。なぜでしょう。

理由は高齢富裕層は時間消費型のサービスを求めているからです。今のネットサービスの多くは効率的に買い物をするための時間節約型のサービスになっています。

時間に余裕のある高齢層は効率的で便利な買い物より、時間をかけてゆっくり楽しめる買い物を求めています。ネットスーパーではなくあえて近所のスーパーに毎日足を運ぶのも時間消費的なニーズがあるためです。

高齢富裕層の消費を喚起するには

高齢富裕層の消費を喚起するには、先に示した消費を妨げている2つの要因を取り去らなくてはいけません。

分配金でストックのフロー化を

ストックリッチ・フロープア問題の解決にはフローを増やすしかありません。高齢富裕層がフローを増やすのはストックをフロー化すること、すなわち

金融サービスからフローを得る

ことです。かつて高齢層を中心に人気を集めたのが「分配型投信」です。分配金がお小遣いのように入るので、それで孫と一緒にご飯を食べに行けるというわけです。

しかしリーマンショックで基準価額は大きく下がり、それと同時に分配金の原資は「もうけ」ではないことも明らかになりました。分配型投信は「タコ足投信」などと言われながら残高は急減していきました。

こうした経緯はあるにせよ、私は分配型投信のようなフローを生む金融商品は再評価されるべきだと考えています。

そもそもタコ足分投信問題の原因は商品設計というより分配金に関する説明不足によるものです。分配金の原資は、①インカムゲイン
②キャピタルゲイン
③収益調整金
の3つです。①②がゼロの場合は③から分配金がねん出されることになります。こうした説明をしっかりしておけばよかったわけです。

高齢層は富裕層に限らず分配金というフロー収入へのニーズがあります。いま流行のインデックス投信は分配型投信より複利効果はありますが、分配金がないことで高齢層のニーズに必ずしもマッチしていません。金融機関は分配型投信のようなフローが組み込まれた金融商品の開発・販売をもっと強化すべきです。タコ足投信では?との批判もあるかもしれませんが、販売担当者は商品の仕組みやリスクを真摯に伝える。それで高齢層との信頼関係が構築できればいいのです。
参考記事:安売り競争で疲弊する投信会社

時間節約ではなく時間消費型のネットサービスを

高齢層にネットサービスが刺さらないという問題はどう対応すべきでしょう。それは

時間節約型から時間消費型サービスを提供する

という点に尽きます。

「ジャパネットたかた」はテレビというメディアを利用して高齢層の買い物需要を掘り起こしました。たかた社長の誠実な売り方が高齢層に刺さっていたわけです。テレビショッピングは時間消費型サービスの典型です。私の母親はほぼ一日中テレビショッピングのチャンネルをつけています。

対人+時間消費」は高齢消費のキーワードです。テレビショッピングのネット版といえるのが「ライブコマース」というサービスです。店舗にいる店員がネット上で商品説明を「生」で配信するサービスはテレビショッピングと同じです。商品の良さをじっくりと説明し、顧客からの質問もその場で答えます。ライブコマースについては以下の記事で取り上げていますのでご参照ください。
参考記事:「ライブコマース」がネットショッピングを変える

こうした「対人+時間消費」型のネットサービスは高齢富裕層に刺さるはずです。コロナ禍で外に出れなくともネットでゆっくり人と話せる空間があれば財布のひもも少しは緩むのではないでしょうか。