ライブコマース

「ライブコマース」がネットショッピングを変える - 顔の見える信頼感で意味を売る

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コロナ禍で注目高まる「ライブコマース」

ライブコマース(ライブストリーム・ショッピング)という言葉をご存知でしょうか。ネットでライブ動画を視聴しながら買い物をするサービスのことです。先行する中国に比べ、日本ではあまり認知されていませんでしたが、新型コロナウイルスの影響で巣ごもり消費が増える中、急速に注目を集めているようです。

ライブコマースでは店員さんが商品を紹介しながらリアルタイムで商品を購入できます。わからないことがあればその場で質問もできます。テレビショッピングのオンライン版ともいえますが、店舗と顧客の双方向性という意味ではライブコマースの方が上を言っている感じです。

今回は、どのような企業がライブコマースを導入しているのか、注目されている背景はなにか、人気は一過性かコロナ収束後も続く現象なのか、といった点について考えてみたいと思います。

業界問わず導入進む

化粧品業界「資生堂」

日本企業の中でいち早くライブコマースを導入したのが資生堂です。今年の3月8日の国際女性デーに上海のショッピングセンター「新世界城」はライブコマースを実施し、同センターに出店する資生堂も美容部員らがライブ配信を行いました。1時間で約70万を売り上げたそうです。

中国での成功を機に、7月からは伊勢丹新宿店でライブコマースを始めています。YouTubeでライブコマースの様子を視聴することができるのですが、ビューティーコンサルタントが笑顔で生き生きと商品を説明する姿は非常に好感の持てるものです。

同社のライブコマースがうまくいっているのは、接客のプロとしてのベースがあるからだと思います。伊勢丹新宿店では美容部員が直接顧客の肌に触れながら相談に乗るスタイルをとってきましたが、コロナ禍では商品棚はビニールシートで覆われ十分なサービスが提供できていません。

ビューティーコンサルタントがリアルの売場で十分力を発揮できない中、ライブコマースは代替する売場空間としてうまく機能しているようです。

セレクトショップ「ベイクルーズ」「シップス」

アパレル・ファッション業界も続々とライブコマースに乗り出しています。

セレクトショップ大手のベイクルーズは3月に中国で行ったライブコマースに手応えを得て、5月22日に自社サイトでライブコマース「LIVE STYLING」を実施しました。「今買って夏まで使える!人気スタッフが欲しい本命トレンドアイテム」をテーマに、司会とモデル(従業員)が楽しそうに商品の魅力を紹介し、そこに視聴者からの質問が入り場がさらに盛り上がったようです。

シップスもベイクルーズと同じ5月22日に自社サイトでライブコマース「SHIPS SHOPPING TV」を配信しました。同サイトでは過去のライブコマースが視聴できます。従業員やバイヤーの方が視聴者の質問に答えながら商品を丁寧に解説します。特に自身が手掛けた商品を紹介するバイヤーの方のお話は商品に対する思いが伝わり、普通のECサイトでは味わえない魅力があります。

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家電メーカーも続々参入

先の化粧品業界やアパレル業界はコロナ禍の煽りをもろに受けた業種です。ライブコマースは危機回避の手段として導入を急いだ面もあるでしょう。

一方、巣ごもり消費で需要が伸びた企業も攻めの一手としてライブコマースを採用しています。パナソニックやキャノンなど家電メーカーは中国中心にライブコマースを積極展開しています。動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」や通販サイト「淘宝網(タオバオ)」など幅広いプラットフォームを活用して配信しています。

このように中国市場ではコロナ禍以前からライブコマースは有効なマーケティング手法として顧客支持を集めています。日本企業が参入を急いでいるのも、コロナ禍だからというよりも、コロナ禍をきっかけにようやくライブコマースの価値に気付いたというのが本当のところではないでしょうか。

なぜライブコマースが注目されているのか

コロナ禍の危機回避としても、攻めの一手としても期待されているライブコマース。その魅力と価値について整理してみます。

(魅力1)商品の持つ意味や世界観を伝える

ライブコマースの魅力の一つは、ネット空間で「意味的価値」を引き出せることです。ECショップで伝えられる商品の情報は「価格」や「品質」といった機能的価値です。同じ商品であれば安い方がよいとなり、価格ドットコムのような比較サイトで安売り探しをするようになります。

ライブコマースで伝える情報は商品の機能面だけではなく意味やストーリーです。特に日本アパレル業界は「意味を伝える力」が弱いという課題を抱えています。

ブランドが醸しだす世界観を正しく伝え、紹介する商品のコンセプトや作り手の思いも一緒に情報提供する。ライブコマースの価値を例によって「機能的価値と意味的価値」「ネットとリアル」で比較整理したのが下の図です。

ライブコマースの価値(アパレル業界)

ライブコマースの価値(アパレル業界)

今年7月にイタリア・ミラノで開かれた「デジタル・ファッション・ウイーク」でグッチは12時間ぶっとおしでストリーミング配信をしました。グッチが配信したのはきらびやかなショーの表側ではなく、バックステージのスタッフやモデルとの会話といったショーの裏側でした。ショーに携わる人たちの様子を伝えることでグッチの持つ世界観を感じてほしいというわけです。その様子はYouTubeなどでも見れますので一度ご覧になってください。

(魅力2)「顔出し」で嘘はつけない

ライブコマースのもう一つの魅力は「顔出し」にあります。ネット空間で顔や名前をさらした時点で視聴者(顧客)との信頼関係は生まれます。私は動画配信の経験はないのですが、経験のある人の話を聞くと皆さん異口同音に「嘘はつけない」と言います。嘘をついてもどうせ顔に出るから、という人もいました。

私の場合、新聞や雑誌等で顔写真付きで掲載させて頂くこともあります。写真でもやはり顔を出すといい加減なものは書けないな、と感じるものです。

当然ですが顧客は嘘がきらいです。しかしテレビなどで流れる企業の宣伝はどこか嘘くさい。売るために自社の商品を綺麗に装っている感じがするわけです。インフルエンサーと呼ばれる消費者が実は企業側とつながっていたなんていう話はよく聞きます。それだけ企業が展開するマーケティングはどこかうさん臭さを感じてしまうのです。

その点、ライブコマースでは従業員が顔と名前を出して正々堂々と自社の商品を売るわけです。それだけで胡散臭い企業宣伝の100倍は信頼できます。そこに嘘はありませんし、あるとすればよほどの心臓の持ち主でしょう。

(魅力3)「共感の場」を提供

ライブコマースの3つめの魅力は顧客同士の共感の場が提供されることです。ライブコマースではニコニコ動画のようにリアルタイムで顧客の声が次々画面上に出てきます。それをみているだけで登場する商品について他の人がどう考えているか知ることができます。なかには発信者にするどいツッコミを入れる強者もいます。

リアル店舗の場で商品の意見を聞けるのは一緒に行く友達や家族くらいでしょう。それが何百人何千人もの人の意見が同時に聞けるわけです。ライブコマースは顧客同士のコミュニティの場にもなっています。買おうかどうか迷っている時に他の人の意見を聞いて背中を押されたり、購入をとどまったりするのではないでしょうか。

(魅力4)「時間消費ニーズ」を満たす

ライブコマースの魅力の最後は時間消費ニーズを満たしていることです。なにかといいますと、ECサイトの多くは忙しくて実店舗に行けない人に効率よく商品を買ってもらうことを想定しています。それは時間節約型のサービスです。

顧客は忙しいときもあればゆっくり時間を過ごしたいときもあります。後者のニーズに応えるECサイトはほとんどないと言っていいでしょう。コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えている人が求めているのは時間節約ではなく時間消費型のサービスです。コロナ禍でも充実した買い物時間を過ごしたい人にうまく刺さったのがライブコマースです。

前回の記事でシニア世代を取り上げましたが、コロナ禍で旅行に行けないシニアは時間消費サービスを求めています。ライブコマースはシニア世代がゆっくり時間消費を楽しむ空間として適しているのではないでしょうか。中にはテレビショッピングより他の人の意見が聞けて楽しいという人も出てくるのではないでしょうか。

ライブコマースとリアル店舗は競合しない

ライブコマースが浸透すればリアル店舗は必要ないのではないか、という意見もあるでしょう。しかし私はネットとリアルどちらか一方ということではなく、両方の価値を大事に育てることが大事だと思います。

ライブコマースで従業員の話に共感して商品を購入した顧客はそこで終わりにはならないはずです。ライブコマースで出会った顔の見える従業員はリアル店舗に実際いるわけです。今度は直接会って話を聞きながら買い物をしたいと思うのではないでしょうか

ライブコマースのようなネット空間で意味をしっかり伝え、リアル空間で直接商品に触れ従業員と対話する。未来の小売業の姿が少しみえてきたような気がします。