家飲み

コロナ禍で進む家飲みシフト-それでも外飲み需要の急減を補えない理由

コロナ禍でアルコール需要は「外飲み」から「家飲み」にシフトしました。外出自粛や飲食店の時短営業などの規制は解除されましたが、感染拡大が続くなかで外飲みを躊躇する人は依然として多いようです。飲料メーカーではきめ細かな泡が楽しめる缶ビールやアルコール度数の低い商品など「家飲み」商品を積極投入しています。

しかし家飲みシフトが進んでも外飲みの減少分をカバーするには至っていません。本記事ではなぜ家飲みで外飲みの減少を補えないのか、背景にある多様なアルコールの飲み方・楽しみ方について考察を深めます。

コロナ禍で進む家飲みシフト

家飲みと外飲みは「ワニの口」状態

家計調査(総務省)で外飲みに対応する「飲酒代」をみると、初めて緊急事態宣言が発出された2020年の4月から急減し、約8割の需要が消滅しているのがわかります。

外飲み需要が蒸発する中、家飲み用途が中心とみられる「酒類」の同期間の支出額は約2割急増、家飲みと外飲みは「ワニの口」状態となりました。22年以降は外出規制の緩和で家飲みと外飲みの差は少しずつ縮小していますが、ワニの口は開いたままです。

家飲みと外飲みの支出額(月平均支出額)

家飲みと外飲みの支出額(月平均支出額)
(出所)総務省「家計調査」

チューハイとウイスキーが人気

コロナ禍の家飲みシフトではどんなお酒が好まれたのでしょう。「酒類」の内訳を見ると、殆どの種類のお酒がコロナ禍前・2019年の水準を上回るものが多いなか、断トツに伸びている2つのお酒があります。

一つは「チューハイ」です。チューハイは中高年のお酒というイメージがありますが、ここ数年のレトロブームも手伝い、若い世代にも一気に広がりました。特にさわやかさと飲みやすさが特徴のレモンサワーは若い女性の間で人気となり、「レサワ女子」という言葉も生まれました。コロナ禍ではレモンチューハイを手に「ズーム飲み会」を楽しむ人も多かったようです。

元祖チューハイ好きの中高年世代でもチューハイ人気は継続中です。チューハイは糖質が少ないため、コロナ禍で健康面を気にする中高年世代がビールからチューハイにシフトする人が目立ちました。

コロナ禍で人気急増のお酒。2つめは「ウイスキー」です。ウイスキーはバーなど「外で飲むお酒」というイメージでしたが、コロナ禍で家の中で過ごす時間が増えたことで自宅で楽しむ人が増えました。ウイスキー愛好家の中にはこれまで挑戦したことのなかった銘柄を購入する人も多かったようです。

非日常感を楽しむイメージのウイスキーですが、最近はチューハイのように日常飲みとしても注目を浴びています。ウイスキーの日常飲みをけん引するのが「ハイボール」です。ウイスキーはアルコール度数が高いので炭酸で割って飲むと飲みやすくなりますし、ハイボールには癖のないお手頃価格のウイスキーが合うこともあり、若者にも急速に浸透しました。

お酒の種類別支出額(2020年1月=100)

お酒の種類別支出額(2020年1月=100)
(出所)総務省「家計調査」

家飲みの限界を知る

家飲みシフトで外飲み需要の急減は補えない

家飲みでチューハイやウイスキーを楽しむ人が増えているのは事実です。しかし家飲み需要で外飲み需要の減少分が補えたかというと、残念ながらそうではありません。

下のグラフにあるように、家飲みと外飲みを合わせた家計のアルコール支出額はコロナ禍前・2019年の水準を依然として下回っています。家飲み需要が大きく増加したといっても、急減した外飲み需要をカバーするほどの消費増には至らなかったということです。

アルコール支出額の内訳推移(月平均支出額)

アルコール支出額の内訳推移(月平均支出額)
(出所)総務省「家計調査」

家飲みシフトは地域によってまちまち

家飲み需要では外飲み需要の減少をカバーできない。では地域別にみるとどうなのでしょうか。

下のグラフは2019年と2022年の家飲みと外飲みの支出割合(対食費)を各地域別にプロットしたものです。どの地域でも外飲み支出が大きく減少しているのが確認できます。これだけ家飲みが抑えられたのだから、すべての地域で家飲みシフトが起きて良さそうなものですが、必ずしもそうはなっていません。家飲み支出が増加したのは全体の7割で、他の3割の地域では家飲み支出も減少しています。

家飲み支出が高い地域(秋田市、青森市、盛岡市など)では家飲みシフトはあまりみられません。家飲み中心の地域では親戚や友人を集めた飲み会を「自宅」で行うことが多く、自宅の飲み会ができなくなったことも影響している可能性があります。一方、外飲み中心の地域でも家飲みシフトがみられないところがあります(長野市や宮崎市など)。

地域別にみた外飲み・家飲み支出割合の変化(22年と19年の比較)

地域別にみた外飲み・家飲み支出割合の変化(22年と19年の比較)
(出所)総務省「家計調査」

多様化するアルコールの楽しみ方

ノンアルも生活に彩りを与える存在

私のような東北出身の人間はどうしても「お酒は酔ってなんぼ」と考えてしまうところがあります。酔うのが目的なら「外がダメなら家で」となります。しかしその東北地域でも親戚や友人を自宅に呼んだ飲み会ができないとなると家飲み支出は減ってしまいます。

外飲み中心の地域で「外がダメなら家で」とならなかったのも、家飲みでは代替できない外飲みの楽しさがあることが伺えます。お酒に対する消費者ニーズはより多様化しており、それがコロナ禍でより鮮明になったと言えるのではないでしょうか。

アルコールは「酔うためだけの飲み物ではない」のであれば、ノンアルコール飲料が最近になって急速に伸びている点も理解できます。「酔うから楽しい」のではなく「酔っても酔わなくても楽しい」。これに従えばノンアルコールも広義のアルコール飲料と呼べます。広義のアルコール飲料は私たちの生活に彩りを与えてくれる存在(飲み物)としてより重要性を増しています。

場面別にみるお酒の楽しみ方

私たちの生活に彩りを与えてくれるアルコール。場面ごとに確認します。

【外飲み】色々な人と楽しく会話

外飲みの醍醐味の一つは、色々な人と出合えるところではないでしょうか。知人と飲んでいるうちにいつしか別のお客さんと盛り上がっている。こんなことも珍しくありません。特に地方の居酒屋はお客さんの大半が顔なじみだったりすることも多く、一人で来店しても大勢で楽しく飲めます。

外飲みの割合が高い長野市や宮崎市で家飲みシフトがみられなかったのは、家飲みでは地域の人たちと出会えないからなのでしょう。地方では外飲みが貴重な交流の場になっているケースも少なくありません。

【外飲み】お気に入りのバーで本物を味わう

お酒そのものを楽しむ人にとって外飲みは本物が味わえる空間です。ブランドを知り尽くしたバーテンダーとの会話は至福のひと時をもたらしてくれます。ワインバーのソムリエの場合、生産者がどんな人でどんな品種を使ってどんな作り方をしているのか、銘柄の持つストーリーを存分に味わえます。趣味としての外飲みは一人か同じ趣味を持つ人と飲むことが多いでしょう。

酒好きによる趣味飲みの増加は地味に統計にも表れています。2010年は194箇所だった地ビール製造場数は2020年には405カ所となり10年で倍増しています。地ビールブームを支えているのは趣味飲みのビール党です。日本酒も趣味飲みの影響を受けて変化しています。普通酒の消費量は減少傾向にあるのですが、米本来の風味や香りが楽しめる「純米酒」は増加傾向にあります。

ビールも日本酒も消費量ではチューハイやウイスキーほど伸びていませんが、質的には成熟とも言える変化が起きています。

【家飲み】「ソロ飲み」でくつろぎタイム

家飲みはコロナ禍でより多様性を増しています。一人で心置きなくお酒を楽しむ「ソロ飲み」もその一つ。

テレビドラマ「晩酌の流儀」(22年7月放送)は、一日の最後に飲むお酒をどうしたら最高に美味しく飲めるかをひたすら考えて行動する一人の女性の物語です。最高の状態でビールを飲むために水分摂取をコントロールしたり、仕事帰りに寄るスーパーではその日のお酒に合う食材を真剣に選んだりします。以前は女性が一人で飲むというと暗いイメージがあったのですが、主人公は自分へのご褒美としてあえて一人で飲むことを選択する。暗さは1ミリもありません。

【家飲み】ズーム飲み会で会話を楽しむ

「ズーム飲み会」はコロナ禍で生まれた新しい飲み方です。リアルで直接会えない友人らと楽しく会話することが目的ですので、そのためのツールとしてお酒があるという感じになっています。ズーム飲み会ではノンアルコールを手に取る人も多いようです。

居酒屋で飲むような臨場感はさすがにありませんが、会えない中でもつながりを維持できるのは素晴らしいことだと感じます。

アルコール離れでもアルコール市場は進化する

コロナ禍によってアルコールは私たちとってより身近で生活に彩りを与えてくれる存在になっています。「アルコール離れ」を嘆く論調もありますが、アルコールの楽しみ方がより多様になっていると捉えれば、アルコール飲料業界や飲食店にとって必ずしも悪いことではありません。それどころか、広義のアルコール需要は飲む人も飲まない人にも広くアクセスする飲み物として増加することが期待できます。

私の田舎ではスーパーがコミュニティの場になっていますが、居酒屋ならもっと濃密な交流が可能になります。ノンアルがどんどん浸透していけば、お酒を飲めない人も居酒屋に行けるようになり、失われつつある地域のコミュニティが復活するかもしれません。

特に今の若い世代はこうしたアルコールの持つ幅広い効果を体感しているような気がします。私のような中年世代も若い世代を見倣ってアルコールの新しい楽しみ方について学んだ方がよさそうです。