レコード店

レコードブームで増加する「街のレコード店」-大型チェーン店を脅かすその魅力とは

レコードブームでレコード店が増加

衰えないアナログレコード人気

アナログレコード人気が続いています。ストリーミング全盛と言われる中、一時は消滅の危機に追い込まれたアナログレコード。米国では2000年にアナログレコードの売り上げがCDを追い抜いて話題となりました。日本の2022年の国内アナログレコード生産額は43億円(前年比11.2%増)と、99年のDJブームの水準を超える勢いで成長しています(下図)。日本ではまだCDとアナログレコードの逆転現象までは起きていませんが、おそらく時間の問題ではないでしょうか。

日本のCDとアナログレコードの生産額

日本のCDとアナログレコードの生産額
(出所)日本レコード協会

アナログレコードがCDを上回る復活劇を果たすと予想できる根拠は何か。それはアナログレコードがストリーミングやCDにはない「センス」を持っているからにほかなりません。

  • 好きなアーティストの曲はモノで持っていたい
  • ターンテーブルに針を乗せる「間」が心地よい
  • ジャケットがカッコよい

こうした確かな手触り感と不便だからこそ得られる充実感(不便益)がアナログレコードのセンスです。いつでもどこでも気軽に音楽が聴けるストリーミングとは真逆の価値です。若い頃に聴いたレコードを再購入するオールドファン、90年代のDJブームでレコードに触れたDJ世代、スマホでしか音楽を聴かなかったデジタルネイティブ世代まで、レコードブームは世代を問わない広がりをみせています。

「街のレコード店」が復活

アナログレコード人気が高まる中、アナログレコード店も俄かに増加をみせています。私は時々渋谷の街を散策しますが、最近は行くたびに新しいレコード店がオープンしていて驚きます。

タワーレコード渋谷は21年にアナログ専門店「TOWER VINYL SHIBUYA」をオープンし、アナログファンの話題を集めました。同店では専門スタッフがお薦めのレコードプレーヤーやレコード針を紹介するなど、レコードマニアはもちろん、ライトユーザーでも気軽に立ち寄れる空間を目指しているようです。

60年代からアナログレコード販売を手がける「ディスクユニオン」は、18年に「ユニオンレコード新宿」、翌年19年に「ユニオンレコード渋谷」を立て続けにオープンしています。

16年にアナログレコードの取り扱いを始めたリサイクルショップ「BOOKOFF」。21年4月末時点でレコード取扱店舗が150店舗に達しています。

このように大手チェーンが首都圏中心にアナログレコード専門店をオープンするのは、アナログレコードが一定の市場規模を持ってきた証左といえます。「首都圏+大手チェーン」はそれほど驚く現象ではないのですが、ここ数年はレコード人気の裾野の広がりをうかがわせる事例が増えてきました。その象徴が、

街のレコード店が「地方」で増えている

という現象です。大型店ではなく、かつて「街のレコード店」と呼ばれていたような小さなアナログレコード店が地方で増殖しつつあるのです。地方でアナログレコード店が増加しているのは、以下のような消費者心理が関係していると考えられます。

  • アナログレコードは目で見て触って購入したい
  • 売れ筋ではなく未知のレコードとの出会いを楽しみたい
  • 店主と会話したい

事前に購入したいアルバムが決まっていたり売れ筋のレコードであればネットで購入すればよいのですが、アナログレコードの魅力は「触れて」「出会う」ことにあります。地方に住むレコードファンのニーズを満たすには、ネットではなく「近場のレコード店」でなければいけない。地方にレコード店が増えるのは当然の流れです。

街のレコード店の「今と昔」

かつては駅前や商店街に必ずあった街のレコード店。レコード・CDの販売減少や大型チェーン店との競争等を受け、90年頃から老舗の街のレコード店が次々と消えていきました。そして現在、若い店主が手掛ける小さな街のレコード店が地方各地で増えてきましたが、店舗の特徴はかつての街のレコード店とは異なります。

かつての街のレコード店は、新譜を中心にアイドルから演歌まで幅広いジャンルの「売れ筋」を並べるスタイルでした。今の街のレコード店にそのようなタイプの店舗はありません。売れ筋を並べるのではなく、店主が厳選したこだわりの品揃えで勝負するスタイルなのです。仕入れたレコードは店主の音楽に対する世界観が詰まったものですので、お店ごとにレコードの品揃えが異なるのは当然です。

2019年に能美市(石川県)にオープンした「MOJA RECORDS」は六畳一間の空間に約7,000枚のレコードが敷き詰められ、田園風景を眺めながら視聴できます。

2020年のコロナ禍に豊川市(愛知県)にオープンした「LiE RECORDS」はロック・ジャズから軍歌までジャンルレスなレコード3万枚が並び、幼い子どもを連れた家族や祖父と孫で訪れる客もいるようです。

アナログレコード店の多い地方都市として知られる盛岡市(岩手県)には様々な個性的なレコード店が並ぶ。「ニート・レコーズ」はロックやジャズなど幅広いジャンル、「ノーレッジ・レコーズ」はソウルやクラブ音楽、「シネマミュージック」は文字通り映画音楽といった具合に、一つとして同じお店はありません。

「まちの~店」が最強となる時代

街のレコード店の新旧入れ替わり現象はレコード店だけに限った話ではありません。

  • コーヒーのストーリーを伝えるサードウェーブ系スタンドコーヒー店
  • 未知の本との出会いを提供する個性派書店
  • 素材にこだわる地元密着の小さなパン屋さん

といった具合に、大型チェーン店にはないアナログ的なセンスで勝負する「街の~店」は業種を問わず広がりを見せています。

私は最近の「街の~店」の増加は消費者の商品に対する熱量の大きさを表しているのではないかと考えています。ストリーミングで気に入ったミュージシャンへの熱量はストリーミングでは満たせなくなり、アナログレコードや生ライブといったミュージシャンを身近に感じる商品・サービスに向かう。コーヒーの魅力に惹かれた消費者の熱量はチェーン店のコーヒーでは満たされず、店内で焙煎したコーヒー豆を目の前で淹れてくれるコーヒー店に向かう。読書好きは購入履歴に従ったアマゾンのリコメンド本では物足りなさを覚え、未知の世界を知る本との出会いを求めてリアル書店に向かう。

かつての「街の~店」は、売れ筋を並べた大型店の縮小版というスタイルでしたので、消費者の熱量を十分満たせる空間ではありませんでした。しかし最近の「街の~店」は10店中10店すべて品揃えがまったく違いますので、消費者の熱量と好奇心を満たす空間となっています。そう考えると、今の街の~店は大型チェーン店と差別化できる競争力を持っていると考えられないでしょうか。

街の~店が最強になる時代

生まれ変わった街のレコード店。まだまだのびしろがありそうです。