コーヒー市場に「フォースウェーブ」到来中 -「家飲みコーヒー」の主役はシニア

【記事のポイント】

  • コロナ禍でカフェ需要急減もコーヒーの国内消費量はそれほど落ち込んでいない。
  • コーヒー市場の底堅さの理由は「家飲み需要」の増加
  • コーヒーの家飲み需要を支えているのは「シニア世代
    ⇒ コーヒー市場の第4の波(フォース・ウェーブ)を生んでいる
  • シニア世代はコーヒーの産地や生産者が持つ「ストーリー性」にも関心がある。
    ⇒ サード・ウェーブをけん引する若者世代との共通点
  • コーヒーのストーリーを共有するシニア世代と若者世代に期待
    ⇒ コーヒー市場の次なるウェーブを創る原動力

 

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コロナ禍でも底堅いコーヒー市場

ここ数年、順調に拡大し続けているのがコーヒー市場です。

昨年はコロナ禍の影響でさすがに減少を余儀なくされました。コーヒー豆の国内消費量は2019年の45万トンから2020年の43万トンに減少(マイナス4.9%)となりました。

しかしこの数値は決して悲観するようなものではありません。むしろコロナ禍でカフェ需要が急減する中で、

「この程度の減少にとどまっている」と言っていい数値です。

なぜこの程度でとどまっているのか。コーヒー需要がコロナ禍でもこれだけ底堅く推移しているのは自宅でコーヒーを飲む人が増えているためです。自他共に認めるコーヒー中毒の私も、外でコーヒーを飲まなくなった分、家で飲む機会が増えました。コーヒー摂取量はコロナ禍でむしろ増えている感じです。

下のグラフは家計のコーヒー豆支出額(インスタント含む)と喫茶代の推移を比較したものです。2020年の緊急事態宣言を機に家計の喫茶代は急減しました。その一方、コーヒー豆の支出額は急増しているのがわかります。外消費の急減を「家飲み需要」でカバーした格好になっています。

家計のコーヒー豆支出と喫茶代の推移

家計のコーヒー豆支出と喫茶代の推移

コーヒー市場を支える「シニア世代」

お家で本格コーヒー

コロナ禍で盛り上がりを見せているコーヒーの家飲み需要。実は今に始まった現象ではありません。

ここで日本のコーヒーブームの歴史を少し振り返っておきます。

最初のブーム第1の波「ファーストウェーブ」は、1970年代にインスタントコーヒーが普及したのをきっかけに起きた「喫茶店ブーム」です。今も残る名店の多くはこの時期にオープンしたものです。

続く第2に波「セカンド・ウェーブ」は90年代後半に起きます。米西海岸が発祥のシアトル系と呼ばれるスターバックスコーヒーが火付け役となり、街中でスタバのコーヒーを手にするビジネスマンが目立つようになりました。

2010年頃からは、豆の産地や個性を最大限に引き出す淹れ方を追及した第3の波「サード・ウェーブ」というスタイルが流行。コーヒーの美味しさの源流を辿ることでコーヒーの持つ「ストーリー」に注目が集まようになります。最近日本でも多くなってきたコーヒースタンドは一杯のコーヒーに深いこだわりと思想を持つオーナーさんが経営しており、サード・ウェーブの流れを汲むものです。

サード・ウェーブで注目されたコーヒーの持つストーリー性。これをお家でも味わいたいというニーズから生まれたのが第4の波「フォース・ウェーブ」です。自宅で焙煎することで、豆本来の美味しさや産地・生産者の持つコーヒーストーリーを堪能したいという動きです。

コーヒー支出額が大きい

気に入った豆を生豆から入手し自宅で焙煎することでコーヒーの美味さとストーリーを丸ごと味わう。なんとも贅沢なフォース・ウェーブの中心にいるのが意外にも「シニア世代」です。

サード・ウェーブ系のコーヒースタンドでコーヒーを楽しんでいるのは主に若者です。ですのでフォース・ウェーブをけん引しているのも若者だと思いがちです。しかし若者だけでコーヒー市場全体をけん引するのは無理があります。

ここ数年のコーヒー需要を支えているのは若者よりシニア世代なのです。

下の表はコーヒー支出額の過去10年間の変化率(年率換算)を世帯年齢別に比較したものです。支出額の伸びが最も大きいのは60歳代以上のシニア世代です。シニア世代は世帯当たりのコーヒー支出額も大きいため、コーヒー市場に与える影響が大きいのです。

世帯年齢別にみたコーヒー支出額と変化率

29歳以下30~39歳40~49歳50~59歳60~69歳70歳以上
2010年2,547円3,415円4,688円5,654円5,754円4,386円
2020年2,992円5,090円6,355円7,283円8,706円6,829円
変化率(年率)1.6%4.1%3.1%2.6%4.2%4.5%
(出所)総務省「家計調査」
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お年寄りといえば「お茶」は過去の話

コーヒー市場の主役はシニア世代と聞いて意外に感じられた人は、

お年寄りといえば「お茶」でしょう

というイメージが強いのではないでしょうか。

実は「お年寄りといえばお茶」はもはや過去の話です。下のグラフにあるように70歳以上の緑茶支出額は年々減少傾向にあり、入れ替わるように伸びているのがコーヒー支出額です。2020年はとうとうコーヒーの支出額が緑茶の支出額を上回りました

シニア世帯(70歳以上)の緑茶支出額とコーヒー支出額の推移

シニア世帯の緑茶支出額とコーヒー支出額の推移

ではなぜ今のシニア世代はお茶よりコーヒーなのか。理由は単純です。

若いころに喫茶店ブーム(ファース・トウェーブ)を経験したのが今のシニア世代

だからです。団塊世代を中心とする今のシニア世代にとって、思い入れと親しみがある飲み物は緑茶ではなくコーヒーなのです。

お年寄りといえば「和菓子」

これも同様の誤解としてあげられます。

今のシニア世代は和菓子よりケーキなどの洋菓子の支出が多い傾向にあります。コーヒーに合うお菓子は和菓子より洋菓子ですので当然といえば当然です。

自家焙煎機を購入するシニア

先のようにサード・ウェーブの世界観を自宅に持ち込んだのがフォース・ウェーブの流れを形成しています。そして「コーヒー愛好家が多い × 在宅時間が長い」シニア世代がこの流れに見事にはまったのはある意味自然なことです。

企業側もフォース・ウェーブとシニア世代を意識した製品をどんどん投入しています。

その代表が「自家焙煎機」です。

パナソニックの自家焙煎機「The Roast(ザ・ロースト)」は価格が10万円と高額です。明らかにシニア世代をターゲットとした価格設定になっており、実際シニア世代を中心に売れ行きは好調のようです。

マスターが一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れる姿を目の前で見てきたシニア世代。「いつかは自分も」と憧れを抱いている人も多いのではないでしょうか。実際リタイア後に自分の喫茶店を持ちたいと考えているシニア世代は多いそうです。

そうしたシニア世代に自家焙煎機が見事に刺さったのは十分理解できます。

まだまだ盛り上がりそうなコーヒー市場

コロナ禍によるカフェ市場の急減という試練を受けてもなお成長を続けるコーヒー市場。この先も第5、第6・・と新たな波が来るたびに成長し続ける予感がしています。

では新たな価値とはどんなものでしょう。少し妄想してみます。

若者とシニアがつながる

コーヒーという飲み物に産地や生産者の思いという「ストーリー性」を与えたのがサード・ウェーブの流れで、そのストーリー性を自宅でも体感してもらおうと生まれてきたのがフォース・ウェーブです。前者の中心は若者世代、後者の中心はシニア世代です。

両者は同じストーリー性でつながっています。違いはコーヒーの持つストーリー性を「カフェに行って味わうか」「自宅で味わうか」だけです。

ということは、

今の若者世代とシニア世代はコーヒーに対する世界観やストーリー性を共有できる

このように考えることができるのではないでしょうか。

そもそもサードウェーブ系のブルーボトルコーヒーの原点は「日本の喫茶店」にあるそうです。その日本の喫茶店をよく知るのが紛れもなくシニア世代ですので、コーヒー好きの今の若い世代と話が合わないわけがありません。

しかも今はシニア世代もスマホで産地や生産者の様子を動画で見ている人も多いので、若い世代と一緒にコーヒー市場を盛り上げていく下地はできています。

コロナ禍によって古くからあるこだわりのコーヒーを淹れる喫茶店がどんどん閉鎖に追い込まれています。

「消えてはいけない喫茶店」を若い世代とシニア世代が支えていく

このような構図ができれば、コーヒー市場の豊かな生態系は維持できると思います。

参考記事:「個人喫茶店」はカフェ市場に豊かな生態系をもたらす

カフェと自宅はWin-Win関係

カフェでも自宅でもコーヒーのストーリー性を味わえるのであれば、カフェ需要と自宅需要は必ずしもバッティングしません。

忙しくてなかなかカフェに行く時間がないときは、喫茶店のオーナーおすすめのコーヒー豆を自家焙煎機で自宅で味わう。

時間のある休日は、そのオーナーの喫茶店に直接足を運んでコーヒー談話を楽しむ。

カフェ飲みと自宅飲みバッティングしないどころかWin-Winの関係にあります。

逆に顧客とコーヒーのストーリー性を共有できない店舗は自宅飲みに需要を持っていかれるでしょう。これは魅力のないラーメン店がチルド麺に需要を奪われる構図と同じです。

そう考えると、コーヒーの価値をしっかり伝えられる店舗や商品・サービスは世代を問わず支持を受け続けるということになります。

コーヒー市場は今後も発展し続ける可能性が高い。コーヒー中毒の私にとっては居心地のよさそうな未来が待っていそうです。