コーヒー豆

コーヒー市場に「フォースウェーブ」到来中 -「自宅でコーヒー」の主役はシニア

 

【記事のポイント】

  • コーヒー豆の価格高騰でコーヒー消費量は減少傾向にある。
  • しかし家計のコーヒー支出割合は減少していないため、コーヒー人気は継続中
  • コーヒー市場の底堅さの理由は「自宅でコーヒー」
  • 「自宅でコーヒー」を支えているのは「シニア世代」⇒フォースウェーブ
  • シニア世代はコーヒーの産地や生産者が持つ「ストーリー性」にも関心 ⇒若者世代との共通点
  • コーヒーのストーリーを共有するシニア世代と若い世代に期待
    ⇒ コーヒー市場の次なるウェーブを創る原動力

 

消費量は減っても「コーヒー愛」は衰えず

コーヒー市場は順調に拡大を続けてきましたが、ここ数年はコーヒー豆相場の高騰等の影響で大きな転換期を迎えています。2025年の国内消費量は39.7万トンと、ピーク時(2016年)と比較して約2割減少しています。コーヒー人気は下火になってしまったのでしょうか?

一見「コーヒー離れ」が進んでいるようにも見えますが、実態は異なります。確かにコーヒー豆の「購入量」は減っていますが、「支出割合」は下がっていないのです。支出割合は消費者の志向を反映します。「物価高で節約は必要。でも、コーヒーを楽しむ時間だけは削りたくない」──こうした消費者の本音が透けてみえるのです。コーヒー豆の価格が下がれば再び購入量を増やすのは確実です。

価格高騰の中でもコーヒー人気が衰えないのはなぜか。「自宅でゆっくりコーヒーを味わう」スタイルが定着したからです。コロナ禍では喫茶店に行く人が急減する中、自宅でゆっくりコーヒーを味わう人が増えました。コロナ禍で定着した「自宅でコーヒー」が、衰え知らずのコーヒー愛につながっているのです。

コーヒーの国内消費量とコーヒー豆価格の推移

コーヒーの国内消費量とコーヒー豆価格の推移
(出所)全日本コーヒー協会、総務省「消費者物価指数」

家計のコーヒー豆の「購入量」と「支出割合」

家計のコーヒー豆の「購入量」と「支出割合」
(出所)総務省「家計調査」

「自宅でコーヒー」を支えるフォースウェーブ

「4つの波」を知る

「自宅でコーヒー」までの流れを理解するには、日本のコーヒーブームの歴史を振り返っておく必要があります。

  • 【第1の波】ファーストウェーブ(1970年代〜)

インスタントコーヒーの普及を機に喫茶店ブームが到来。純喫茶の名店の多くはこの時期にオープンしたもの。

  • 【第2の波】セカンドウェーブ(1990年代後半〜)

米西海岸が発祥のシアトル系と呼ばれるスターバックスコーヒーが火付け役となる。街中でスタバのコーヒーを手にするビジネスマンがみられた。

  • 【第3の波】サードウェーブ(2010年頃〜)

豆の産地や個性を最大限に引き出す淹れ方を追及。コーヒーの美味しさの源流を辿ることでコーヒーの持つ「ストーリー」に注目が集まる。一杯のコーヒーに深いこだわりと思想を持つコーヒースタンドが増加。

  • 【第4の波】フォースウェーブ(現在)

サードウェーブの深いこだわりを「自宅」に持ち込む。自宅で生豆から焙煎。産地の情景や生産者の想いなどを想像しながら極上のコーヒーストーリーを堪能。

フォースウェーブの主役「シニア世代」

サードウェーブ系のコーヒースタンドでコーヒーを楽しんでいるのは若い世代です。その流れでフォースウェーブをけん引しているのも若い世代と思いがちですが、フォースウェーブの主役は意外にも「シニア世代」です。2020年から2025年のデータを見ると、コーヒー豆の支出額、変化率ともにシニア世代が突出しているのがわかります(下表)。

気に入った豆を生豆から入手し、自宅で焙煎することでコーヒーの美味さとストーリーを丸ごと味わう──。若者より可処分所得と時間に余裕のあるシニア層こそが、コーヒー文化の厚みを支えているのです。

世帯年齢別にみたコーヒー豆の支出額と年間成長率(年率換算)

29歳以下30~39歳40~49歳50~59歳60~69歳70歳以上
2020年2,992円5,090円6,355円7,283円8,706円6,829円
2025年3,579円6,477円8,267円9,912円11,962円9,877円
変化率(年率換算)3.6 %4.9 %5.4 %6.4 %6.6 %7.7%
(出所)総務省「家計調査」

「お年寄りは日本茶が好き」は過去の話

お年寄りは日本茶が好き」──。「コーヒー市場の主役はシニア世代」と聞いて意外に感じられた人は、シニア世代にこんなイメージをもっているからでしょう。

「お年寄りは日本茶が好き」はもはや過去の話です。下のグラフにあるように70歳以上の緑茶支出額は年々減少傾向にあり、入れ替わるように伸びているのがコーヒー支出額です。コロナ禍の2020年にコーヒーの支出額が緑茶を上回って以来、その傾向はより強まっています。

シニア世帯(70歳以上)のコーヒー支出額緑茶支出額の推移

(出所)総務省「家計調査」

ではなぜ今のシニア世代は「日本茶よりコーヒー」なのでしょう。理由は明白です。若い頃に喫茶店ブーム(ファーストウェーブ)を経験したのが今のシニア世代だからです。団塊世代を中心とする今のシニア世代にとって、想い出と親しみがある飲み物は日本茶よりコーヒーなのです。

お年寄りといえば和菓子」──。これも同様の誤解としてあげられます。今のシニア世代は和菓子よりケーキなどの洋菓子の支出が多い傾向にあります。コーヒーに合うお菓子は和菓子より洋菓子ですので当然といえば当然です。

もう一つ「コーヒーに合う+シニアに人気」の食品があります。チョコレートです。チョコレートは菓子市場でNo1の市場規模に成長しています。ここ数年はカカオ含有量の高いハイカカオチョコレートの人気が高まっており、これがシニアの健康志向に見事に刺さっているわけです。

自家焙煎機を購入するシニア

企業側も、シニア世代を意識した製品をどんどん投入しています。

象徴的なのが「自家焙煎機」です。2017年に発売されたパナソニックの自家焙煎機「The Roast(ザ・ロースト)」は10万円と高額商品ながら、シニア世代を中心にヒットしました。

若い頃に喫茶店のマスターが一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れる姿を見てきたシニア世代。「いつかは自分も」と憧れを抱いていた人も多かったはずです。実際、リタイア後に自分の喫茶店を持ちたいと考えているシニア世代は多いそうです。そうしたシニア世代を「自宅で喫茶店マスター気分にしてくれる」アイテムが自家焙煎機です。シニア世代に見事に刺さったのは十分理解できます。

コーヒー市場の未来は明るい

価格高騰という逆境にありながら、勢いを失わないコーヒー市場。この先、第5の波、第6の波~と新たなウェーブが来るたびに成長を続ける予感がします。そのとき市場はどのように進化していくのでしょう。少し先の未来を想像してみましょう。

コーヒーが繋ぐ「若者」と「シニア」

サードウェーブは若者が、フォースウェーブはシニアが牽引してきました。しかし、両者が求めているものは同じ「コーヒーに宿るストーリー」です。場所が「カフェ」か「自宅」かという違いだけで、若者もシニアも同じストーリーを共有しているのです。

そもそもサードウェーブ系のブルーボトルコーヒーの原点は「日本の喫茶店」にあるそうです。その日本の喫茶店をよく知るのが紛れもなくシニア世代。コーヒー好きの今の若い世代と話が合わないわけがありません。しかも今はシニア世代もスマホで産地や生産者の様子を動画で見ている人も多いため、若い世代と一緒にコーヒー市場を盛り上げていく下地は整っています。

コロナ禍を機に古くからあるこだわりのコーヒーを淹れる喫茶店がどんどん閉鎖に追い込まれています。「消えてはいけない喫茶店」を若い世代とシニア世代が支えていく──。このような構図ができれば、コーヒー市場の豊かな生態系は維持できるはずです。

カフェと自宅はWin-Win関係

「家で美味しいコーヒーが飲めるなら、カフェには行かない」という考えは、これからの時代には当てはまりません。両者はむしろ、補完し合うWin-Winの関係になっていくでしょう。

  • 忙しくてなかなかカフェに行く時間がなときは、喫茶店オーナーおすすめのコーヒー豆を自宅の焙煎機で味わう。
  • 時間のあるときは、足を運び、マスターに豆の感想を伝えながら、プロの技術で淹れた一杯を味わう。

こんな風に、カフェ飲みと自宅飲みを使い分けるスタイルが主流になるでしょう。そう考えると、コーヒーの価値をしっかり伝えられる店舗や商品・サービスは世代を問わず支持を受け続けることになります。

コーヒー市場は今後も発展を続ける──。未来のコーヒー市場は、今よりもさらに心地よい場所になっているに違いありません。