これだけ違う「食の地域差」 - 「調理疲れ」しやすい都道府県とは

【記事のポイント】

  • コロナ禍の食生活の変化は地域によってだいぶ温度差があることがわかってきた。
  • 大きな変化に見舞われたのは日常的に外食を利用する機会が多い都市圏の人々
  • 日常的に外食を利用する機会の少ない地方圏の人々の影響は軽微
  • 素材から手作り調理する傾向のある地域では「調理疲れ」は起きにくい。
    素材比率の高い地域 : 北海道(素材の宝庫)、東北地方(漬け物文化)、京都(おばんざい文化)
  • 外食比率の高い都市や惣菜など中食依存の高い地域では「調理疲れ」が起きやすい。
    中食比率の高い地域 : 沖縄(ボリューミーなお弁当)、高知(せっかちな県民性)、埼玉・東京(長い通勤時間)

 

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コロナ禍で目立つ食生活の地域差

「コロナ禍で私たちの食生活は大きく変化した」

これ自体は間違えようのない事実です。しかし最近になって食生活の変動ぶりは地域によってだいぶ温度差があることがわかってきました。

都心在住のサラリーマンは普段はやらない調理をしたことで「はじめは楽しかったけど、いい加減調理するのが面倒になってきた」と調理疲れを口にする一方、地方の田舎に住む人からは「外食はあまり行かないので以前とそれほど変わらないけど」という声も多く耳にします。

会社帰りに夕食を外で済ます人が多い地域と、自宅で家族と食事をとるのが当たり前の地域では、コロナ禍が食生活に与えるインパクトは全く異なるはずです。

自粛による食生活の変化は地域によってどれだけ異なるのか。「家計調査」総務省で確認してみましょう。

下のグラフは家計の外食比率の水準(縦軸)とコロナ禍の変化(横軸)を都道府県別にプロットしたものです。外食比率と内食比率は表裏の関係ですので、外食比率の高い地域は内食比率が低い地域になります。

地域で異なるコロナ禍における食生活の変化

地域で異なるコロナ禍における食生活の変化

コロナ禍で食生活が大きく変化したのは「もともと外食依存が高いため、自粛による外食支出の減少が大きくなった地域」です。グラフでは左上のエリアに入ります。感染リスクが高く、外食依存度の高い東京や埼玉、愛知といった大都市がここに入ってきます。東京では「路上飲み」が散見され、喫茶店文化といわれる愛知では生活のリズムが狂ったという人も多かったようです。
また、石川や熊本のような地方圏も同エリアに入っており、必ずしも大都市だけが影響を受けたわけではないことがうかがえます。

一方、食生活への影響が軽微だったのはグラフの右下のエリアです。もともと自宅で食べる内食比率が高い上に、大都市より感染の影響が低かった地域です。青森や秋田、和歌山など地方圏が多く入ります。ただ外食比率が高い割に外食支出の減少がそれほど大きくなかった岐阜のような地域もあります。

このグラフをみても「コロナ禍で食生活が大きく変化した」かどうは、地域によってだいぶ異なることがわかります。

地域で異なる「食のスタイル」

コロナ禍の食生活への影響が地域でこれだけ異なるのは「食のスタイル」と関係がありそうです。07年から続く長寿番組「秘密のケンミンSHOW極」 では特徴ある「県民食」が紹介されますが、狭い日本の中でこれだけ多様な食習慣があるものかと毎回驚かされます。
参考記事:「 地域 × 食 」が刺さるワケ -「秘密のケンミンSHOW」の強さの秘密

コロナ禍で受けた食生活の変化と食のスタイルがどう関係しているのか。都道府県を以下3パターンに分けてみてみましょう。

  • 食生活の変化が小さい地域
  • 「調理疲れ」が起こりやすい地域
  • 「調理疲れ」が起こりにくい地域

食生活の変化が小さい地域

コロナ禍のような外出自粛を迫られても、日ごろめったに外食に行かず自宅での食事が中心であれば食生活への影響はあまりないでしょう。

下の表は食費に占める内食(中食含む)の割合が高い都道府県を上から並べたものです。青森、秋田、岩手、宮城、福島など東北各県が多く並んでいるのがわかります。 「外食はあまり行かないので以前とそれほど変わらない」と述べたのは私の出身地「岩手」在住の人です。外食に行くのは家族と出かける土日祝日が多いそうです。

自宅で食事する割合が高い都道府県ランキング

順位都道府県内食比率(2019年)
1青森88.89%
2秋田86.95%
3和歌山86.39%
4岩手86.34%
5宮城85.99%
6鳥取85.44%
7福島85.24%
8愛媛85.05%
9新潟85.02%
10栃木84.88%
総務省「家計調査」より作成

東北以外でも和歌山や鳥取など地方で内食比率が高い傾向があります。反対に東京など大都市では外食比率が高い傾向にあります。

地方で内食比率が高く都市で低くなるのは通勤時間の長さを考えれば当然です。

下の表は通勤時間の短い都道府県を並べたものです。大分、青森、秋田、島根など地方の県が多い一方、最も通期時間が長いのは神奈川や東京などの都市です。通勤時間が最も短い大分(57分)と最も長い神奈川(105分)では2倍近い開きがあります。帰宅時間が短い地方の人はそのまま自宅に帰って夕食を取るのが自然でしょうし、帰宅時間の長い都市の人は自宅に戻って夕食の支度をするのは面倒ですので外で済まそうとするのは当然でしょう。

このように、コロナ禍で食生活の変化を強いられたのは外食の割合が多い都市在住の人で、通勤距離が短く自宅で食事をとる地方の人の食生活はそれほど変わっていません。

通勤時間が短い都道府県ランキング

順位都道府県通勤時間(2016年)
1大分57分
2青森58分
秋田58分
島根58分
鹿児島58分
3福井59分
・・・・・・・・・
20東京94分
21埼玉96分
22千葉102分
23(最下位)神奈川105分
総務省「平成28年社会生活基本調査」より作成

都道府県別にみた通勤時間と内食比率の関係

都道府県別にみた通勤時間と内食比率の関係

調理を楽しめる地域とは

では、巣ごもり生活でも「調理疲れしにくい・調理を楽しめる」地域とはどのようなものでしょう。おそらく、

  • 自宅で食べる機会が多い
  • 手作り調理をする機会が多い

といった家庭が多い地域ではないかと想像できます。特に「手作り調理をするかどうか」は調理のストレスと大きく関係しているように思えます。普段から素材から手間暇かけて調理する。こうした家庭の多い地域は巣ごもり食生活でも調理疲れにくいでしょう。

下の表は食費の中で素材の支出割合が高い都道府県をランキングしたものです。素材への支出が高い地域では普段から手作り調理をしている可能性が高いと想定できます。

素材の支出が多い地域

順位都道府県素材の支出割合(2019年)
1北海道82.62%
2秋田81.69%
3滋賀81.62%
4和歌山81.33%
5京都81.30%
6長崎80.52%
7鹿児島80.38%
8青森80.30%
9岩手81.24%
10福岡80.17%
総務省「家計調査」より作成

顔ぶれを見ると北海道や秋田、青森、岩手など北海道・東北地方が目立ちます。

1位の北海道は納得の結果ではないでしょうか。カニ・エビなどの海の幸からじゃがいも・とうもろこしなどの大地の恵みまで、北海道は素材の宝庫です。惣菜を買うより素材から手作り調理したくなるのは当然でしょう。

秋田や岩手などの東北地方で素材支出が多いのは「漬物」を自宅で漬ける家庭が多いことと無縁ではないでしょう。私の実家の岩手では大きめの「樽」で漬物を漬ける家庭が多いです。樽が大きいぶん大量の漬物用野菜が仕込まれます。

「おばんざい文化」の京都も5位に入っています。 ぬか漬けなどの京都のおばんざい文化は旬の京野菜など季節の食材を使い、食材を無駄のでないように工夫した食文化です。素材本来の持つシンプルな味ゆえに毎日食べても飽きがこないと聞きます。毎日食べても飽きない食文化を持っていることは、コロナ禍のような巣ごもり生活でも以前と変わらず調理を楽しめるということです。
京都はコロナ禍の2020年に外食支出が4.6%近く減少したのですが、おばんざい文化が内食シフトのストレス緩和に役立ったはずです。

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「調理疲れ」しやすい地域とは

反対に「調理疲れしやすい地域」はどこになるでしょう。

  • 惣菜など調理食品を利用する機会が多い
  • 日常的に外食を利用する機会が多い

こうした家庭では巣ごもり食生活によるストレスは大きかったと思われます。

「帰宅時にいつも利用する外食店に行けない」
「自宅ではいつも惣菜を利用するがさすがに飽きる」
「かといって作り調理は慣れてないので面倒」といった具合です。

調理疲れが起こりやすい地域をピックアップしてみます。「中食利用の多さ」を調理疲れの指標として並べると下の表のようになります。

「中食(惣菜など)」の支出が多い地域

順位都道府県中食の支出割合(2019年)
1沖縄24.61%
2高知24.35%
3静岡23.90%
4山梨23.58%
5埼玉23.57%
6福井23.48%
7東京23.16%
8徳島22.96%
9福島22.88%
10熊本22.45%
総務省「家計調査」より作成

上位には沖縄・高知・静岡などの地方圏、東京・埼玉など東京圏も入っています。

東京圏で中食の支出割合が多いのは上述の帰宅時間の長さを考えれば当然です。遅く帰宅して手作り料理などする余裕はないでしょう。

コロナ禍では東京圏の人もテレワークで調理時間ができ、はじめは「手作り調理もいいものだ」と楽しんでいた人も多かったようです。しかし京都の家庭のように普段から手作り料理に慣れていないせいか、巣ごもり生活が長期化すると徐々に調理疲れを起こす人が増えてきました。

地方圏の場合はどう説明できるでしょう。1位の沖縄で私が思いつくのはお弁当の存在です。沖縄のお弁当はケンミンSHOWなどメディアでたびたび取り上げられますが、とにかくボリューミーなのです。ご飯を埋め尽くすほどのおかずが乗っかっているお弁当はそれだけ沖縄の人に中食が根付いている証左と言えないでしょうか。

高知については別の仮説が思い浮かびます。高知の女性は活発で行動的な一方、短気なのが玉に瑕とも言われます。短気でせっかちな人がゆっくり手作り料理している姿はあまり想像できませんので、さくっと惣菜で済ませる家庭が多い。だいぶ強引で異論もありそうな仮説ですが、気質などの県民性が調理スタイルに与える影響もあるような気がしています。

まとめ

コロナ禍による巣ごもり生活は以下のように地域による食の違いを浮き彫りにしました。

  • 日常的に外食を利用する機会が多い都市圏の人々は食生活の大きな変化に見舞われた。
  • 反対に日常的に外食を利用する機会が少ない地方圏の人々は食生活の影響が軽微。
  • 外食利用の地域差には「通勤時間」が大きく関係している。
  • 日常的に素材から料理をする地域は調理のストレスも低い(北海道、秋田、京都など)
  • 惣菜など調理食品への依存が高い地域は調理疲れに陥りやすい(沖縄、高知、埼玉、東京など)

新聞やメディアの見出しは、それがあたかも日本全国で起きているかのような印象を与えるものがあります。コロナ禍の「調理疲れ」もその一つです。

しかし実際には都市に住む人々のように日常の一部を奪われるような変化を強いられる人がいる一方、地方では以前とそれほど変わらない食生活を送っている人も多いのです。

私たちは「地域の食は多様」という意識を持ちながら食の情報に接する必要があるでしょう。

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