地域の野菜

「 地域 × 食 」が消費者に刺さるワケ -「秘密のケンミンSHOW」強さの秘密 

つい見てしまう「秘密のケンミンSHOW」

私はあまりテレビを見る人間ではないのですが、それでも毎週見てしまう番組があります。

秘密のケンミンSHOWです。

2007年から始まったこの番組。地域の特徴ある食材・料理、行事、県民性などを紹介し、地元愛溢れるケンミンスター(ゲスト)たちが盛り立てます。私は東北出身者ですが、東北でも県や地域によって料理の仕方や使う食材、食の好みがこれほど違うものかと驚かされます。15年も続くとさすがにネタ切れ感は否めないようですが、同じネタでもつい見てほっこりしてしまう。それが地域ネタ番組の魅力なのかもしれません。

これだけ違う「地域の食」

地域差が大きいのは「魚介類」と「果物」

では秘密のケンミンSHOWのようなコンテンツ、すなわち「地域×食」から生み出されるストーリーがこれだけ多くの人を惹きつけるのはなぜでしょう。それはとりもなおさず、

地域によって食の風景が異なる

からです。地域によって食の風景がどれだけ異なるのか、データで確認してみましょう。食品カテゴリー別に各都道府県の支出額のばらつき度合い(変動係数)を算出してみます。すると下のグラフのように、地域によって特にばらつきがみられるのが「魚介類」と「果物」であるのがわかります。

魚介類も果物もケンミンSHOWでもよく取り上げられるジャンルの一つですので、それだけ地域色が出やすい食品ということです。

都道府県による食品支出のばらつき度(2021年)

都道府県による食品支出のばらつき度(2021年)
(出所)総務省「家計調査」

鳥取のシジミ 高知のカツオ

魚介類と果物で地域差が大きいのがわかりました。では具体的にどのような食品で地域差がみられるのかみていきましょう。

魚介類の支出額でとりわけ地域差が大きいのが「シジミ」と「カツオ」です。シジミの支出額は漁獲量1位の宍道湖がある鳥取県(松江市)がダントツです。茨城県(水戸市)や秋田県(秋田市)も多く消費しています。カツオの支出額は言うまでもなく高知県(高知市)が圧倒的で、全国平均の5倍も多く支出しています。

ケンミンSHOW的にはシジミやカツオのように飛びぬけた県にスポットが当てられますが、西のタイ・東のマグロというように、地域ブロックで特徴が分かれる魚介類もあります。

シジミとカツオの都道府県別支出ランキング(2021年)

               (シジミ)

シジミの都道府県別支出ランキング(2021年)
(出所)総務省「家計調査」

               (カツオ)

カツオの都道府県別支出ランキング(2021年)
(出所)総務省「家計調査」

食べ方・食べる場所にも地域性が出る

ケンミンSHOWでは食材だけでなく、ご当地ラーメンのように料理や調理の仕方にも頻繁にスポットが当てられます。食べ方や食べる場所にも地域性が色濃く出るというわけです。

調理方法として素材から作るのか、それとも冷凍食品や総菜など調理食品を取り入れながら作るのか。下のグラフは素材と調理食品に対する家計の支出割合を都道府県別に比較したものです。

都道府県別にみた家計の調理方法の特徴

都道府県別にみた家計の調理方法の特徴
(出所)総務省「平成26年全国消費実態調査」
  • 肉類・野菜など「素材系」の支出割合が高い地域
    ⇒ 北海道、秋田県、島根県などの地方圏
  • 惣菜など「調理食品」への支出割合が高い地域
    ⇒ 東京都、埼玉県、千葉市、茨城県などの大都市近郊部
  • 「素材系」と「調理食品」をバランスよく取り入れている地域
    ⇒ 静岡県、福井県、滋賀県など

といった具合に整理できます。地域によって素材と調理食品の取り入れ方が異なっていてなかなか興味深いと思いませんか。

地方圏の家計では、野菜などの素材がより身近にありますので素材からの調理が多くなるのは自然だと思います。

一方、東京都や埼玉県などの都市圏の家計は共働きの勤労世帯も多いので、平日の食事などは惣菜や冷凍食品などの時短型商品を多く活用する姿がうかがえます。これも当然の結果です。

素材と調理食品の両方をバランスよく使う静岡県や福井県は食事の質と効率性をうまく図っているといえます。ある意味、理想的な食生活を実現できている地域と言えるかもしれません。

こうした地域による食のスタイルの違いはコロナ禍のような巣ごもり生活の食生活にも大きな影響を及ぼしています。

もともと素材から自宅で手作り調理する習慣のある地方ではコロナ禍でもいつも通りの食生活を送ることができていますが、日常的に外食を利用したり調理食品への依存が高い都市部の家計では「調理疲れ」のような現象も起きているようです。この点は以下記事で取り上げていますのでご覧ください。

「地域×食」は食品スーパーにも影響

地場スーパーの存在感

このように食材をみても調理スタイルをみても地域差が非常に大きいことがわかります。それだけ日本という国で地域の食を理解するのはそう簡単ではない。地域による食の違いがこれだけ大きい国は世界でも珍しいのではないでしょうか。

地域と食の強い関係性は日本でなぜ地場スーパーが強いかを表しています。地域の消費者を知るには買い物行動だけでは把握できません。

  • 地元の人が好む食材・料理
  • 地元の人が好む味付け
  • 人間関係(誰と誰が知り合いか)
  • 地域活動(町内会など)

など、地元の人の味の好みからどの人とどの人が知り合いだとか、地元に関するあらゆる情報を握っていることが地域の食を扱うお店の競争力を決定的に左右します。

こうした地域情報はPOS-IDのような購買データで一元管理できるようなものではありません。地元を知り尽くした地場スーパーの強みがここにあります。

欧米は富士山型 日本は連峰型

日本の食品スーパーのモデルはチェーンストアです。つまり標準的な商品を大量に仕入れて大量に売ることで安さを実現する経営スタイルです。

これは経済学でいう「規模の経済」と言われるもので、その先に待っているのはトップ企業による寡占化です。イギリスのスーパー業界では、テスコ、セインズベリー、ウォルマート傘下のアズダの3強が寡占化する「富士山型」です。

しかし日本の食品スーパーはチェーンストアであるにもかかわらず、欧米のようなトップ主導の「富士山型」にはなっていません。ここ数年シェアを拡大した上位企業の顔触れをみると、オーケーストア、ヤオコー、ヨークベニマルなど地域の雄が並びます。

日本の食品スーパーは各地域の地場スーパーがその地域でシェアを拡大する「連峰型」の業界構造であり、これが地場スーパーの強さを物語っています。

食品スーパーは生活の一部

今回のコロナ禍でもなぜか自然に地元の食品スーパーには足が向いた人は多かったのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。地域に深く根差した地場スーパーは生活の一部です。

地域と食が切っても切れない関係にあるように、地場スーパーと地元の人々も切っては切れない関係にあるのでしょう。