【不二家】洋菓子事業の回復は本物か-戻ってきたワクワク感

「閉店ラッシュでペコちゃんが街から消えていく」と言われた不二家。足を引っ張ってきた洋菓子事業の業績が急回復しています。コロナ禍の巣ごもり生活による一時的な現象なのか、それとも本物の回復を意味するのか、データをみながら検証します。

大量閉店から一転の業績回復

不二家の洋菓子事業が好調です。不二家の成長はここ数年カントリーマアムをはじめとする菓子事業がけん引しており、10年以上赤字が続く洋菓子事業は業績面ではお荷物的存在になっていました。「大量閉店でペコちゃん人形が街から消えていく」といったニュースが流れていたのは記憶に新しいところです。

その長年足を引っ張ってきた洋菓子事業がここにきて急回復に転じているのです。下のグラフは不二家の洋菓子事業と菓子事業の売上高です。21年度(12月期)の売上高は、菓子事業が前期比106.4%と引き続き好調を維持する中、洋菓子事業は同107.2%と菓子事業を上回る高い伸び率をみせています。

不二家の事業部門別売上高

不二家の事業部門別売上高

閉店ラッシュと言われた店舗数も急回復しています。21年度は(株)スイートガーデンの店舗が加わったことでかさ上げされていますが、21年度も前期比25店増の976店となっており、店舗数は確実に増加に転じています。

不二家の洋菓子店舗数

不二家の洋菓子店舗数

そこで本記事では不二家の洋菓子事業について下記の点を中心に検証していきます。

  • 大量閉店から一転して業績回復となったのはなぜか?
  • 業績回復は本物と呼べるものか、それとも一時的なものか?

洋菓子事業が回復に転じた理由

不二家の洋菓子事業が回復に転じた理由は大きく以下の3つに分けられます。

  1. コロナ禍の巣ごもり需要が追い風となった。
  2. 洋菓子事業の新戦略が功を奏してきた。
  3. 菓子事業とのシナジー効果が生まれた。

それぞれについて確認していきましょう。

【回復理由1】コロナ禍の巣ごもり需要が追い風となる

かつてケーキは家計の支出額ナンバーワンのスイーツでしたが、2009年にアイスクリームに追い抜かれ、2016年にはチョコレートにも抜かれて3番手の地位に落ち込みました。しかしコロナ禍の巣ごもり生活によって再びケーキにスポットライトが向けられるようになっています。下のグラフにあるように、コロナ禍になってから家計のケーキ支出額は急速に伸びているのがわかります。

家計のスイーツ支出額の推移(2019年=100)

家計のスイーツ支出額の推移(2019年=100)

巣ごもり生活でケーキが注目されるのはなぜか。ケーキにはチョコやアイスにはない強みがあります。それは「ぜいたく感」と「華やかさ」です。ケーキの持つぜいたく感と華やかさは巣ごもり生活の憂鬱な気分を晴らす効果があります。

ケーキのもう一つの強みは「人をつなぐ力」。誰かと一緒に食べるケーキはチョコやアイスにはない特別な空間を生み出します。誕生日にはケーキが欠かせないように、ケーキには人をつなぐ力があります。コロナ禍で生まれたおうちカフェに象徴される手作りブーム。孫と一緒に手作りケーキを作るシニアの姿がSNSでも拡散されていました。

最近は久しぶりに職場で会う同僚にケーキを持っていく人も多いと聞きます。こんなときだからこそ、ケーキの持つ「人をつなぐ力」が必要とされているのだと思います。

【回復理由2】洋菓子事業の新戦略が実を結ぶ

回復に転じた2つめの理由は、赤字脱却に向けて不二家が以前から進めてきた洋菓子事業の新戦略が実を結んできたことです。新戦略のポイントは高付加価値化・高単価シフトです。コロナ禍で巣ごもり生活を強いられた消費者を元気にするべく「おうち時間スイーツ応援」というキャンペーンを2020年から展開します。1個400円を超すプレミアムショートケーキはプチ贅沢感を味わえると人気を集めました。

高付加価値化・高単価戦略が成功したのは、顧客ターゲットを単身世帯に広げて「個食ニーズ」にうまく対応したからです。不二家のこれまでのターゲットは夫婦子供世帯のファミリー層でした。しかし2005年に単身世帯が夫婦子供世帯を上回ったことでファミリー層頼みは限界を迎えます。ただ不二家が単身世帯を取り込むには大きなハードルがありました。それは、

不二家の店舗でカットケーキを1個だけ買うのは抵抗がある

という顧客の声。コンビニでショートケーキを一個買うのは何ら違和感はありませんが、ファミリー向けイメージのある不二家ではどうも抵抗感がある。しかし300円ではなく400円を超すショートケーキなら1個でも心理的抵抗感はだいぶ下がります。高付加価値化・高単価シフトはおひとり様をターゲットとすることでうまく機能しました。

【回復理由3】菓子事業と洋菓子事業のシナジー

3つめの理由は、菓子事業と洋菓子事業のシナジーが生まれた点です。不二家は菓子事業において、見るだけでワクワクするような新商品の投入や大胆な広告戦略を行っています。

  • 「カントリーマアムチョコまみれ」の大ヒット
  • 「鬼滅の刃」とのコラボレーション
  • ジャニーズのSnow ManをCMに起用

「カントリーマアムチョコまみれ」はネーミングと美味しさの両面で衝撃を与える空前の大ヒット商品になりました。私もこの商品を口に入れて「本当にチョコまみれだ・・」と思わず唸ってしまいました。不二家の高い技術力あっての商品です。21年で70周年を迎えた「ミルキー」と大ヒットアニメ「鬼滅の刃」のコラボ商品は、10代・20代を中心とする子供や単身世帯に見事に刺さりました。

菓子事業と洋菓子事業は別々の収益構造になっていましたが、菓子事業で生まれたワクワク感は洋菓子事業への来客にもつなったはずです。菓子事業と洋菓子事業のシナジーが生まれたことの意味は大きいと言えます。

洋菓子事業の回復は本物

不二家の洋菓子事業の回復は本物と言えるのか、それとも一時的なものなのか。私は前者、つまり本物の回復と言ってよいと感じています。

ワクワク感のアップデートに成功

今後外出機会が増えるにつれて、巣ごもり生活によるケーキ需要の拡大という外部環境の追い風はなくなるかもしれません。しかし重要な点は、不二家の最大の課題であった「ワクワク感が戻ってきたこと」です。

不二家はかつて「家族一緒にクリスマスケーキを買う」「お父さんが会社帰りにショートケーキを買って帰る」といったストーリーでワクワク感を生み出してきました。しかしソロ時代の到来によってファミリー層向けのストーリーが刺さらなくなる中、

  • 高付加価値・高単価のショートケーキ
  • チョコまみれに代表される大ヒット商品
  • 人気キャラとのコラボ

など、おひとり様や若者層にも対応したワクワク感のアップデートに成功した点は非常に大きな意味を持っています。

連続性と非連続性の妙味

時代に即したワクワク感をアップデートする。これは創業100年以上の不二家だから実現できたものだと感じます。なぜなら今回の不二家の新戦略には、消費者がワクワクしながらケーキを購入するための二つの条件が揃っているからです。2つの条件とは、「安心感(連続性)」と「サプライズ(非連続性)」です。

  1. 日本のケーキ市場の歴史を作ってきた不二家ブランドの力(連続性)
  2. 驚きを与える斬新な商品・サービス(非連続性)

この連続性と非連続性の2つの要素がうまく結合したことで、消費者は驚きながら安心して不二家の新商品を手に取ることができます。チョコまみれの大ヒットは「カントリーマアム」という定番商品(連続性)あってこそ。単に奇抜で斬新なパッケージの商品(非連続)というだけでは、消費者は警戒して商品を手に取ることができないでしょう。

連続性と非連続性の妙味を手に入れた不二家は強い

連続性と非連続性の妙味は長い歴史を持つ不二家ならではのイノベーションです。不二家の快進撃は今後も続く。そんな予感がしています。