盛り上がらないコロナ禍の「応援マインド」 -3.11の寄付ブームとの決定的な違い

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3.11の寄付ブームとの落差

新型コロナウイルスによる経済ショックは過去の経済危機や自然災害を上回る被害をもたらしそうです。そしてこれだけの被害にもかかわらず過去の災害時と比べて圧倒的に少ないと感じるもの。それが被害を受けた方への「応援マインド」です。

応援マインドの弱さは「寄付」行為に表れています。下のグラフは東日本大震災(以下3.11)と今回のコロナ禍で家計の寄付金支出額がどう推移したかを比較したものです。

違いは明々白々。3.11のときは地震発生直後から寄付金は急増、3月は前年比で10倍近い伸びとなりました。このときは日本赤十字の義援金だけでたったひと月で1,000億円近く集まりました(阪神淡路大震災の4倍以上)。まさに空前の寄付ブームとなったわけです。

これに対しコロナ禍では緊急事態宣言が発表された4月以降も寄付金は増加する様子はみられません

3.11とコロナ禍の家計の寄付支出額の違い

3.11とコロナの寄付の違い

なぜ応援マインドが盛り上がらないのか

今回のコロナ禍でも応援消費を盛り上げようとする動きは確かにあります。産直サイトを運営する「ポケマル」は出荷がストップした農家や漁師を助けるための応援キャンペーンを行い一定の成果をあげています。しかしポケマルのような活動が点から面に広がってこない。そこが問題なのです。

ではなぜ今回のコロナ禍では3.11の寄付ブームのような応援マインドのうねりがみられないのか。理由はいくつか考えられます。

【理由1】心に余裕がない

1つめは応援する側に心の余裕がないことです。3.11は放射能リスク、今回のコロナ禍は感染リスクという点で両方とも未知のリスクへの不安が根底にある点は共通しています。異なるのはリスクに晒されている対象範囲です。

3.11でリスクに晒されたのは主として東北地方の人々でした。これに対し今回のコロナ禍のリスク対象者は全国民といってよい規模です。

応援マインドに必要なのは被害を受けた人を応援したい気持ちとともに、自分自身に「心の余裕」がなければいけません。自分や家族が感染リスクや経済リスクに晒されているなかで「応援どころではない」という人も少なくないはずです。

【理由2】応援対象が広すぎる

2つ目の理由は応援対象が広すぎることです。コロナ禍で助けが必要なのは医療関係者から飲食店・旅館まであまりに広すぎます。

3.11では「東北を応援しよう!」という明確な大義やスローガンがあり、日本赤十字やYahoo!ボランティアも「被災地の復興のために」をメッセージに掲げて募集することができたわけです。

もちろん今回のコロナ禍でも寄付プロジェクトはあちこちで立ち上がっています。10万円の定額給付金を医療関係者や飲食・観光事業者等へ寄付する「コロナ給付金寄付プロジェクト(パブリックソース財団)」、ふるさと納税で身近なお店や事業者を支援する「ふるさとチョイス新型コロナ被害者事業者支援プロジェクト(トラストバンク)」、飲食店を先払いで支援するサントリー「さきめし(サントリー)」など数多くあります。

しかしプロジェクトが多すぎるのと宣伝媒体がインターネット主体であるため、プロジェクト自体の存在に気付いてもらえないことも多いようです。

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【理由3】応援に対するレスポンスが得にくい

3つ目の理由は応援に対する直接的なレスポンスが得にくい点です。

応援という贈与行為は本来「見返りを求めないもの」です。しかしそうはいっても、自分が行った応援に対して「何らかのレスポンスが欲しい」と感じるのが心情です。

レスポンス・ニーズは特に若い人に顕著です。3.11のボランティアブームの主役は若い人でした。炊き出し、泥かき、買い物代行、見守り活動など、3.11では自分が被災者の役に立っていると実感できるボランティア活動が多かった。そしてその行為に「ありがとう」と被災者からの温かいレスポンスが返ってくる。役に立っている実感と感謝のレスポンスの循環によってあれだけのボランティアブームになったわけです。

一方、今回のコロナ禍はどうか。困窮する飲食店や旅館に直接足を運んで手伝うわけにいきません。ネットで投げ銭をしても3.11のボランティア活動のような生々しい手触り感までは得られず、「ありがとう」の声も届きにくい。直接的なレスポンスが得られにくい状況下では応援マインドもなかなか盛り上がらないのです。

ちなみに「若者の献血離れ」という現象も直接的なレスポンスの重要性と関係しています。自身の血液を差し出す献血は極めて高尚な贈与行為ですが、応援マインドを持つ若い人からも人気がないのです。理由は献血では直接的なレスポンスが得にくいからです。地球のどこかで自分の血液が誰かの役に立っているという実感とレスポンスが得にくいことが若い人を献血から遠ざけています。

【理由4】高齢富裕層にリーチしない

4つ目の理由は経済力のある層にリーチしていない点です。

寄付プロジェクトに関心を持つ若い人は多くても、若い人ではどうしても寄付金額に限界があります。寄付プロジェクトが一定の規模を持つには資産を多く保有するシニア層、特に高齢富裕層へのリーチが欠かせません。下のグラフのように、資産富裕層世帯(金融資産額4000万円以上)の6割以上が60歳以上に集中しているからです。

資産富裕層世帯の6割以上はシニアに集中

【理由5】大声で助けを呼べない被災者

このように被害の対象が広すぎてシニアまで声が届かないことが寄付が盛り上がらない一因になっていますが、そもそも助けを呼ぶ「声」が小さいことも関係しています。

飲食店や観光関係者の多くは過去に経験したことのない需要蒸発に直面しています。にもかかわらず世間の目が怖くて「助けを呼びたくても大声で呼べない」状況が続いています。
Go toキャンペーンの「東京外し」で大量のキャンセルが出ても、旅館の支配人はテレビの取材では「残念ですが、お客様の安全安心のためですから・・」と答えるしかないのです。

リスクの大きさは「発生確率×影響度」で求められますが、影響度の中にレピュテーション(評判)が大きな割合を占めるのが感染リスクの特徴です。

「座して死を待つ」にならないよう

このようにコロナ禍で寄付が盛り上がらない背景には感染リスク特有の複雑な要因があります。これだけの未曾有の危機に直面しているのに対象が広すぎる上に大声で助けを呼べないとは、なんともやるせない気持ちになります。

政府ができることは限られます。Go toキャンペーンをあのタイミングで実施しなくてはならなかったのは、もはや政府で支えられる状況ではなくなっているからです。政府が1兆円の補助金を付けたくらいで市場規模28兆円の観光業界を救えるわけがありません。米国も巨額の失業給付の停止を検討しているようです。

政府のできることは限られるのであれば、まずは人々の応援マインドを使って出来ることを全力で行うしかありません。多くの中小企業は半年売上がなければ倒産します。声を上げることさえできず、座して死を待つなんてことのないよう願いたいものです。