Go Toトラベルの混乱に思うこと -「近場の旅」「オンラインツアー」「宿でテレワーク」で乗り越える

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瀕死の観光業

東京外し」で混乱しまくりの「Go Toトラベル事業」が7月22日から始まりました。当初キャンセル料は負担しないと言っていた政府も、世論の批判に耐えかねて「補償する」に転換しました。政府の右往左往ぶりが伝わります。

ではなぜ「東京外し」をしてまでキャンペーンを押し通さなくてはいけなかったのでしょう。それはとりもなおさず観光業が瀕死の状態にあるからにほかなりません。

下のグラフを見てください。手元流動性比率とは、1ヶ月の売上代金を回収できるまで手元の資金でどれだけまかなえるのかという指標です。資本金1千万円未満の中小企業でみると、宿泊業はなんと1.17か月です。一般に3か月なら売り上げが落ちてもなんとかしのげると言われますが、中小の旅館の資金繰りの厳しさはそのレベルをはるかに超えています。

厳しい旅館はいったん潰して感染が収束したらまた開業すればいいじゃないか、など過激な意見もあるようですが、ことはそう単純ではありません。観光産業はすそ野が広く、特に地方では一つの旅館が倒産するだけで地域経済が大きなダメージを負うことになるからです。

手元流動性比率(資本金1千万円未満)

手元流動性比率

行く気失せる消費者

消費というのは背中を押す理由があってはじめて動くものです。東日本大震災では「東北を救え!」のスローガンのもと、全国各地から応援消費のうねりが起きました。

今回のキャンペーンも本来であれば「観光業界を救へ!」という応援消費を呼び起こすことが期待されていたはずです。しかし自然災害と違って感染症には移動リスクが伴います。なぜ今このタイミングでこのキャンペーンが必要なのかをしっかり説明すべきでした。

説明不足で批判を浴び、最後は「東京外し」のオチがついたキャンペーンに応援消費を呼び起こせるわけがありません。東京都民のみならず旅行を検討していた消費者の多くは完全に「行く気失せたわ」となってるはずです。

悲惨なのは観光業界です。お客様の安全安心を考え、ただでさえ悲鳴を上げたくても上げられない状況なのに、応援マインドさえ持ち上がらないわけです。

「日常」×「観光宿泊」

ではこの危機的状況を好転させるにはどうすればいいのでしょう。私は今回のキャンペーンの失敗の本質は、従来の観光サービスを前提にしていたことにあると思っています。

これまでの観光業は「非日常性」を届けるビジネスモデルでした。非日常性にはレジャー的要素が不可欠ですし、顧客も近場より遠出したほうが非日常感をより味わえます。

しかしよくよく考えてみると、

  • 非日常性を届けることだけが観光業なのか
  • 日常性に寄り添った観光業というのもあるのではないか

このような観光業のあり方を見直してみることも必要だと思います。

特に今は「レジャー」「遠出」という非日常ファクターは移動量を伴うため感染リスクを高めます。非日常性を届ける観光サービスを前提に置いたキャンペーンは失敗するべくして失敗したともいえます。

ウィズコロナでは「非日常」サービスはリスクが高い。観光業は「日常」をテーマにしたサービスに切り替える時期にきています

3つのキーワード

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①「近場の旅」

「日常」×「観光宿泊」には3つのキーワードがあります。一つ目のキーワードは星野リゾート代表の星野さんも提唱されている「近場の旅」です。

観光と言うとついインバウンド需要に目を奪われがちですが、観光市場27.9兆円のなかでインバウンドが占める割合はわずか2割(4.8兆円)で、残りの8割(23兆円)は国内居住者向けです。

星野さんはこうしたファクトをもとに、近場の旅として「マイクロツーリズム」を強く提唱しています。地元の人に小旅行を楽しんでもらうというコンセプトは地域の魅力の再発見にもつながるため、私も大いに共感を覚えます。

特に今は旅行好きのシニア層が感染への不安と旅行に行けない不満を抱えています。近場であればこうした不安と不満は軽減できるはずです。
参考記事:シニア不在のGoToトラベルの厳しさ - シニアを旅行市場に戻す準備をしよう

では地元の人のための地元の旅行はどの程度の規模が見込めるのでしょうか。下のグラフは旅行者の地域間の移動量を可視化したものです。図の外側は地域内の移動、内側は地域外と外国人の移動を表しています。

これをみると地域内(近場の旅)の移動量が意外に多いことがわかります。ここ数年インバウンドの盛り上がりが報道されてきた北海道も、旅行者の6割は地元の人であり、外国人旅行者は1割程度です。これをみただけでマイクロツーリズムは大きな可能性を秘めていることに気付かされます。

地域内と地域外・インバウンドの旅行者の動き

地域内と地域外・インバウンドの旅行移動

②「オンラインツアー」

2つ目のキーワードは「オンライン」です。すでにHISなど大手旅行会社は自宅から参加できるオンライン・ツアーを実施しています。オーロラ観光で有名なカナダの「ホワイトホースの魅力を語る」というオンライン・ツアーでは、オーロラや野生動物の魅力を現地スタッフが熱く語るそうです。

オンライン・ツアーへの参加費は無料のものから高くても1万円前後です。リアル・ツアーに代わるような市場規模は期待できませんが、マーケティングとしての意味合いは大きいはずです。

オンラインでは障害を持つ方も気軽に参加できるため、多様な顧客層を取り込むことが可能です。加えて現地のガイドが伝える情報はガイドブックには載っていなものも多いようです。オンラインで観光地の魅力を深く知ることで、次は現地でその魅力を全身で味わいたいと自然に思うのではないでしょうか。オンラインはリアルへの導線として大きな意味を持ちます。

③「宿でテレワーク」

3つめのキーワードは「テレワーク」です。コロナ禍で一気に普及したテレワークですが、これは今までのオフィスへの出勤という「日常」が変化したことを意味します。

観光宿泊サービスはどうしても土日休日に需要が集中します。家計調査では、宿泊料への支出は平日と土日休日で3倍近い開きがあります。

そこでテレワークです。テレワーク需要を旅館が取り込めば、平日と休日の売上格差の緩和が期待できます。実際テレワークをしてみると、生産性が上がってよいという声がある一方、子供が近くにいて集中できないなど、生活スタイルや住環境を理由に不自由さを訴える人も多いです。

特に都道府県で最も狭い住空間に住む東京のビジネスマンはテレワークでストレスを抱えている人も多いのではないでしょうか。
参考記事:「東京一極集中の緩和」がもたらす明るい未来

ウィズコロナでは、仕事の種類やその日の気分に合わせてサテライトオフィスを利用したり、近所のカフェや図書館を利用するようなスタイルになるはずです。そしてその延長線上にあるのが旅館やホテルです。

かつての文豪たちはお気に入りの温泉宿にこもって数々の名作を生みだしてきました。豊かな自然に囲まれた宿と仕事は相性がいいのです。現にプロモーション企業のイノベーションパートナーズは佐賀・嬉野「和多屋別荘」にサテライトオフィスを構えているようです。

ウィズコロナ時代のワークスペース(イメージ)

ウィズコロナ時代のワークスペース

連続と非連続の先に進化がある

観光宿泊業界はかつてない危機に直面していますが、コロナ禍は観光宿泊業の価値をアップデートする絶好のチャンスでもあります。

従来の非日常型サービスをアップデートするには、オンライン・ツアーによるデジタル空間の活用、マイクロツーリズムなど近場の旅を掘り起こす視点を持てばよく、さらにテレワーク需要が増えたことで「仕事×宿泊サービス」という日常型サービスの可能性も生まれつつあります。

危機前より観光宿泊業のサービスはより多様なものになるはずです。 イノベーションは連続と非連続が重なったときに起きます。ウィズコロナは観光宿泊業界にとって進化のステージにしなくてはいけません。