「不二家」は苦境を脱せるか -大量閉店につながった3つの理由

【記事のポイント】

  • 不二家の閉店が止まらない。
  • 不二家以外の洋菓子チェーンも不振が目立つ
  • 大量閉店の理由は以下の3点
    ケーキ市場自体が頭打ち傾向にある
    ⇒チョコとアイスに抜かれる
    コンビニスイーツの台頭
    ③ かつてのターゲット層「夫婦子供世帯」が減少
    ⇒単身世帯が重要に
  • かつてのストーリーを今の時代に合わせてアップデートする。
    ⇒「わくわく感」は取り戻せる
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閉店が止まらない

祖業の洋菓子事業が足を引っ張る

ペコちゃん」でおなじみの不二家ですが、閉店のニュースが後を絶ちません。15年末には986店あった洋菓子の店舗数は19年末には829店、20年12月の時点で770店と5年で216店も減少しました

大量閉店でお馴染みのペコちゃん人形が街角から次々と姿を消しており、別れを告げるペコちゃんのメッセージが切なすぎるとの投稿がSNS上で話題になっていると聞きます。直近21年3月末の店舗数は950店に急増していますが、(株)スイートガーデンの不二家ブランド転換店を含んだ数値ですので、店頭のぺこちゃん人形が急増したというわけではないようです。

不二家は1910年11月創業、100年以上続く歴史ある企業です。翌年にクリスマスケーキを販売、代名詞のペコちゃんは50年に誕生しました。

不二家は現在、祖業の洋菓子事業と、クッキー菓子「カントリーマアム」を主力商品とする菓子事業、レストラン事業、飲料事業などを展開していますが、洋菓子と菓子の2事業で9割近くを占めます

不二家と言えばペコちゃん人形のいる店舗を思い浮かべますが、下のグラフにあるように売上の大きさでいうと洋菓子事業は2割(24%)に過ぎません。売上シェアで最も大きいのは菓子事業で売上の6割(64%)を占めています。

祖業である洋菓子事業は10年以上赤字が続いており、今なお再建の見込みが立っていません。今の不二家は洋菓子事業の赤字を菓子事業の黒字で埋める格好になっています。不二家の最大の経営課題は洋菓子店の立て直しにあることは明らかです。

事業別に見た不二家の売上高構成比(2020年度)

事業別に見た不二家の売上高構成比(2020年度)

他の洋菓子チェーンも不振が続く

洋菓子事業の不振の原因はなんでしょうか。実は洋菓子チェーン店の不振は不二家だけではありません。下のグラフにあるように、1948年から首都圏中心に洋菓子チェーンを展開してきた「銀座コージーコーナー」も不振が続いています

同社は84年に発売した「ジャンボシュークリーム」がヒットし拡大を続けてきました。国際的な食品品評会「モンドセレクション」を03年まで7年連続で受賞するなど、商品開発力には定評があります。 しかし売上は次第に伸びなくなり、08年にはロッテホールディングスの傘下に入り、立て直しを図っている状況にあります。

不二家と銀座コージーコーナーの売上高推移(洋菓子事業)

不二家と銀座コージーコーナーの売上高推移(洋菓子事業)

大量閉店 3つの理由

不二家と銀座コージーコーナーの不振。長年日本のケーキ市場を支えてきた洋菓子チェーン店にいったい何が起きているのでしょう。

企業の不振の理由を探るには、企業自身に内包する内部要因と、経済環境や市場構造など企業の外側で起きている外部要因を分けて考える必要があります。不二家の場合、外部要因と内部要因の両方が関係しているように思えます。

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(理由1)ケーキ市場の頭打ち

以前の記事で今のスイーツ市場はアイスクリームとチョコレートのツートップの構図になっていることを確認しました。スイーツ・デザートといえばケーキだったのが、いつの間にか家計で一番支出するデザートはケーキではなくアイスクリームとチョコレートになっていたわけです。
参考記事:スイーツ市場の王者「アイスクリーム」 -通年型「ハレの日デザート」として定着

スイーツ市場の主役交代のインパクトは決して小さくありません。今までと変わらず良い商品を生み出し続けていても、土台となる市場規模が頭打ちとなっては売上げはなかなか増加しないのは当然でしょう

不二家、銀座コージーコーナーなどの洋菓子チェーン店は個人経営店と違って一定の市場規模があって成り立つビジネスモデルです。頭打ちとなった市場に対応するには、競合店を上回る魅力的な商品を投入し続けるか、既存の店舗数を減らしてコスト削減するしかありません。

(理由2)競争環境の悪化

コンビニスイーツの台頭

二つ目の理由は競争環境の急速な悪化です。なかでも大きいのが「コンビニスイーツ」との競合です。コンビニスイーツはケーキ市場が頭打ちにある中でもプラスの売り上げを維持しています。つまりコンビニスイーツは不二家やコージーコーナーの売上げを奪う形で伸びているわけです。

コンビニスイーツは09年に発売されたローソンの「プレミアムロールケーキ」が火付け役と言われています。セブンやファミマも参戦し、「スプーンで食べるロールケーキ」が一大ブームとなりました。最近ではローソンが19年に発売したチーズケーキ「バスチー」が大ヒットするなど、コンビニスイーツは常に話題を呼んでいます。

コンビニスイーツの台頭で不二家をはじめとする洋菓子チェーンや個人経営の「街のケーキ屋さん」は大きなあおりを受けました。近年は街のケーキ屋さんがコンビニスイーツにとどめを刺される形で倒産に至るケースが目立ちます。老舗洋菓子チェーンの「モンブラン」が18年に破綻したのもコンビニスイーツが原因と言われています。

日常エリアに引きずり込まれる不二家

コンビニスイーツがスイーツ業界に与えた影響を示したのが下の図です。コンビニスイーツのキーワードは「日常使い」「プチ贅沢」「リーズナブル」です。有名なパティシエのいる高級スイーツ店は「ハレの日スイーツ」の王道です。芸術作品とも呼べる数々の商品には美味しさを超えた夢やストーリーがあります。コンビニスイーツと高級スイーツ店はエリアが違うため競合することはまずありません。

安定の高級スイーツ店に対し、競争環境が厳しくなったのが日常エリアと非日エリアの中間地点にいるお店です。庶民の日常生活にふとした贅沢を提供してきた不二家は日常エリアと非日常エリアの中間にいる存在でした。

そこにコンビニスイーツが日常エリアに低価格で入ってきたため、コンビニスイーツより価格の高い不二家の魅力が相対的に低下し、後述するような日常エリアの競争に引きずり込まれることになります。

厳しい状況に追い込まれたのは「街のケーキ屋さん」も同じです。不二家よりも日常エリアに寄っている街のケーキ屋さんはもろにコンビニスイーツと競合します。

危機感を持った街のケーキ屋さんの中には、高価な材料を用いたロールケーキなど単品戦略に切り替えることで「日常+高価格」のエリアに移行し、コンビニスイーツの脅威から逃れようとしています。

スイーツ市場の競争マップ(不二家が日常エリアに引きずり込まれる)

スイーツ市場の競争マップ(不二家が日常エリアに引きずり込まれる)

(理由3)かつてのストーリーが刺さらない

お父さんが会社帰りに買うショートケーキ

頭打ちのケーキ市場とコンビニスイーツが台頭する今のケーキ市場で生き残るには、単品商品に切り替えた街のケーキ屋さんのように、コンビニスイーツと競合しないポジションを探るしかありません。

そこでネックになるのが不二家自身が抱えてきた構造的な問題です。私は不二家の不振の本質は、わくわくの非日常感を演出してきた意味的価値(ストーリー)が低下したことにあるとみています。意味的価値が低下すると先の図のように非日常エリアからコンビ二スイーツのいる日常エリアに足を踏みこむことになるからです。

ではなぜ不二家の意味的価値は低下したのでしょう。かつては「家族でクリスマスケーキを買いに不二家による」「お父さんが会社帰りに不二家でショートケーキを買って帰る」といった光景をメディアが映し出し、不二家の意味的価値を高めてきました。高級スイーツ店にはない非日常と日常のあいだの絶妙なポジションで消費者の心をつかんでいたはずです。

ターゲット層が変化

不二家の魅力を生み出してきたストーリーが消費者に刺さらなくなってきたのはなぜでしょう。一因として考えられるのがターゲット層の変化です。不二家がこれまでターゲットとしてきたのは夫婦子供世帯です。しかし、かつてマス層だった夫婦子供世帯は今は「マス」と呼べる存在感はありません。

今のマス層は単身世帯です。下の図にあるように、夫婦子供世帯の数は年々減少傾向にあり、2005年以降になると単身世帯の数が上回ります。ソロ時代と言われるように、今のボリュームゾーンは単身世帯です。その単身世帯の取り込みに成功したのがコンビニです。

不二家はかつての夫婦子供世帯向けストーリーに代わる単身世帯向けストーリーを描けなかった。これが不二家の意味的価値を引き下げ、同社はコンビニのいる日常エリアに引きずり込まれてしまいました。他の洋菓子チェーンの不振も基本的には不二家と同じ構図ではないかと思われます。

減少する夫婦子供世帯

減少する夫婦子供世帯

不二家は「わくわく感」を取り戻せる

このように不二家の洋菓子事業の不振は、市場の縮小、コンビニスイーツの台頭、単身世帯の増加という外部環境の変化に対し、かつての意味的価値(ストーリー)をアップデートできなかったことにあります。

不二家の選択の一つとして、「洋菓子事業をあきらめて菓子事業に完全シフトする」という道もあるでしょう。現に菓子事業は山崎製パンの支援を仰ぎながら経営の柱に育っています。

しかしその道はコンビニスイーツが席巻する日常エリアに骨をうずめることを意味しています。果たしてそれでよいのかどうか。不二家という会社の根幹ににかかわる問題です。

私としては、カントリーマアムをコンビニに提供する不二家より、日常と非日常のあいだでわくわくするケーキを生み出す不二家であってほしいと思います。

特に今後のマス層となるミレニアル世代やZ世代のような若い世代は、友人や家族と商品の魅力やストーリーをSNSなどで分かち合う文化があります。不二家がかつて「家族の絆」として描いたエッセンスは今の若い世代にも刺さるはずです
参考記事:ミレニアル世代とZ世代から何を学ぶか

夫婦子供世帯も単身世帯もスイーツに求める「わくわく感」は今も昔も同じです。かつて夫婦子供世帯を念頭に創り出したストーリーを現代流にアップデートすることはそう難しくないはずです。今後の不二家の奮起に期待したいところです。