ハイカカオチョコレート

チョコブームを牽引するハイカカオチョコレート ー夏チョコ効果で季節を問わない商品へ

菓子市場No1の市場規模を誇るチョコレート。チョコブームをけん引するのがカカオ含有量70%以上の「ハイカカオチョコレート」です。ハイカカオチョコブームは一過性で追わる現象なのか、それともコーヒーブームのような本物のブームなのか。統計データをみながら考察します。

好調なチョコレート市場

チョコの市場規模は菓子市場でトップ

みなさんにとってチョコレートとはどのような存在でしょう。コーヒーのお供、ワインのお供、ウォーキングした後のお供、煮詰まって頭が回らなくなったときのお供、妻と喧嘩したときのクールダウンのお供、などなど。私にとってチョコレートは、生活のあらゆる場面で登場する名脇役といったところです。

全日本菓子協会の調査によると、2022年のチョコレートの市場規模 (小売金額) は5,750億円となり、和生菓子4,703億円、洋生菓子4,084億円と比べて断トツのトップです。下の時系列グラフでみても、チョコレートは右肩上がりで拡大し続けているのがわかります。

菓子類の市場規模(小売金額)の推移

菓子類の市場規模(小売金額)の推移
(出所)全日本菓子協会

けん引役は「ハイカカオチョコレート」

チョコレートを菓子市場No1の地位に押し上げたのは、カカオ含有量70%以上の「ハイカカオ・チョコレート」です。カカオ豆に含まれるカカオポリフェノールの美容・健康効果に注目が集まったことで人気に火が付きました。

ハイカカオチョコ製品のほとんどはカカオ含有量がパーセンテージで表示されています。私も毎日ハイカカオチョコを食べていますが、はじめにカカオ含有量88%を試したところ、少し食べづらく感じたため、しばらく70%にしていました。その後88%に再挑戦すると以前のような食べづらさは感じなくなり、今は88%がメインです。舌がカカオ慣れしたのかもしれません。

ハイカカオチョコレート

急成長を続けるハイカカオチョコ。チョコレート市場全体をけん引するまでの道程はそう簡単ではなかったようです。先のグラフでチョコレートの市場規模をみるとわかりますが、チョコレート市場が急増するのは2010年以降になってから。ハイカカオチョコの走り的存在の明治「チョコレート効果」は98年発売、森永「カレ・ド・ショコラ」は2003年発売ですので、ブームとして火が付くまで10年を要しています。さらにスーパーやコンビニで定番商品になったのはここ数年のこと。ハイカカオチョコが消費者に浸透するまで20年以上もかかったわけです。なぜそれほど時間がかかったのでしょう。

  • チョコレート=甘い=太る=健康に悪い
  • 食べすぎると「ニキビになる」「鼻血が出る」

ブームまで20年を要したのは、チョコレートに対するこうした不健康なイメージがあったからです。つまりハイカカオチョコブームとは、チョコに対する不健康なイメージを払拭した末にようやく起きた現象なのです。メーカーさんの並々ならぬ努力には頭が下がります。

ハイカカオチョコ人気は一過性の現象ではない

ハイカカオチョコレートがけん引する今のチョコブーム。今後も長く続くのでしょうか、それとも一過性で終わってしまうのでしょうか。私は今のチョコブームは単なる「流行りもの」ではなく本物のブームだと感じています。理由を見ていきましょう。

【理由1】中高年層に刺さるチョコの健康効果

言うまでもなくハイカカオチョコの最大のウリは「健康効果」。カカオポリフェノールの効果と言えば「血圧低下」「動脈硬化の予防」「脳の活性化」といったところです。これらの効果はすべて中高年齢層の健康意識をくすぐりそうです。かくいう私もチョコの健康効果にくすぐられまくり、近所のコンビ二に買いに走った一人です。

当初は美容やダイエットに関心のある若い層がハイカカオチョコに注目していたようですが、カカオポリフェノールの効果が浸透するにつれ、健康面で不安を抱える中高年層の関心を集めるようになりました。

下のグラフはチョコブームが始まった2010年以降のチョコレート支出額を年齢別に追ったものです。50歳以上の年齢層の支出額が伸びているのがわかります。特に60代の支出額はこの10年で2倍以上増えているのです。

年齢別チョコレート支出額の推移

年齢別チョコレート支出額の推移
(出所)総務省「家計調査」

チョコレート効果への期待感はコロナ禍でさらに高まっています。巣ごもり生活による運動不足とストレス等で中高年を中心とする健康被害が増えているからです。美容やダイエットを目的とした健康意識とは違う「切羽詰まった健康意識」なのです。魚の健康効果が再評価されるなど、食生活のあらゆる場面で切羽詰まった健康意識の片鱗が見られます。

【理由2】美味しさが格段にアップ

メディア等で取り上げられる健康食品の殆どは時間の経過とともに売れ行きが落ちると言われます。「健康効果をうたった食品ブームは長続きしない」とは食品業界からよく聞かれる声です。健康効果をうたった食品の多くが失敗に終わる理由は何でしょう。それは、

単純に、美味しくないから

ではないでしょうか。いくら健康に良いと言われても口に入れるものである限り、美味しくないと長続きしないのは当然です。はじめは我慢して食べていても美味しくないものを食べ続けるのは苦痛でしかありません 。

ハイカカオチョコが本物のブームと言えるのは、健康効果に「食品としての美味しさ」がプラスされているからです。ハイカカオチョコの美味しさは食品メーカーの努力の賜物です。特に最近のハイカカオチョコはどの商品も香りとうまみがアップしているように感じます。食品メーカーが20年以上もの年月をかけてハイカカオならではの香りや風味を楽しめる商品を開発してきました。結果として「ハイカカオチョコレート=苦くて食べづらい」というマイナスイメージが払拭されていったのです。

【理由3】「夏チョコ効果」で季節を問わない商品へ

チョコレートは「冬場」に売れる季節性商品

このように言われてきたチョコレートですが、「健康効果×美味しさ」で新境地を拓くハイカカオチョコはチョコの常識・定説を良い意味で覆しています。

たしかにチョコレートは気温が低くなるほど売れる商品です。チョコがもっとも売れるバレンタインも冬場です。下のグラフは気温とチョコレートの支出額の関係をプロットしたものですが、気温が下がるほどチョコ支出額が大きくなる傾向が確認できます。

このグラフを注意深くみると気温25度以上の夏場でもチョコ支出額が増加しているのがみてとれます。07-14年と15-22年で期間を分けると、07-14年より15-22年のほうが気温に対するチョコ支出額が増加しています。一つ下のグラフは気温25度以上のチョコ支出額を時系列にしたものですが、2016年頃から大きく伸びているのがわかります。

チョコレート支出額と気温の関係性

チョコレート支出額と気温の関係性
(出所)総務省「家計調査」気象庁より作成

夏チョコ支出額(気温25度以上)の推移

夏チョコ支出額(気温25度以上)の推移
(出所)総務省「家計調査」

これらの結果はチョコレートが年間を通じて愛されるスイーツになりつつあることを示すものです。「健康チョコ習慣」とは明治が健康に良いチョコを毎日摂ってもらうよう付けたキャンペーン文句ですが、まさにねらい通りの展開になっています。最近は冷やしておいしい夏限定の「夏チョコ」がどんどん投入されています。夏場のチョコは今後も伸びる可能性大でしょう。

【理由4】相性抜群の「チョコ×コーヒー」

4つめの理由は強力なパートナーの存在です。そのパートナーとは「コーヒー」です。言うまでもなくコーヒーとチョコレートは相性抜群。私もコーヒーを飲むときは必ずと言っていいほどハイカカオチョコを食べています。

重要なのはコーヒー自体が長期にわたるブームを続けている点です。つまり「チョコ×コーヒー」とは2つのブームがかけ合わさったとんでもない組み合わせなのです。

コーヒーとチョコは味の相性もさることながらもう一つ重要な共通点があります。豆の持つストーリー性です。現在、コーヒーブームは厳選された豆と生産地のストーリーをお店で味わうサードウェーブから、自宅で焙煎して自宅で丸ごとストーリーを味わうフォースウェーブコーヒーの流れが来ています。消費者はコーヒー豆の持つストーリー性に惹きつけられているわけです。

チョコレートの原料であるカカオ豆がどのような畑で作られ、どのようなプロセスを辿ってチョコレートになってきたのか。生産プロセスの光景そのものがストーリーとなって商品価値を高めるはずです。こうしたストーリー性は他のスイーツにはないチョコレートだけが持つ強みだと言えます。

カカオ豆はまだコーヒー豆のような豊かなストーリーを持つには至ってません。しかしハイカカオチョコの人気とともにカカオ豆に関心を持つ消費者は確実に増えています。ショコラティエ(Chocolatier)と呼ばれるチョコレートの専門職人が日本でも増えているようですので、今後はこうした専門職人がチョコストーリーの伝道師となってストーリー価値を高めていくことが期待できます。

まとめ

ここまでハイカカオチョコレートの魅力と成長性についてみてきました。以下がそのポイントです。

  1. 高まる中高年層の健康意識
  2. 美味しさが格段にアップ
  3. 季節を問わない通年スイーツ
  4. コーヒー豆に共通するストーリー性の高さ

今後、チョコレート市場がさらに進化する上で重要なカギとなるのが4つめにある「ストーリー性の高さをどう引き出せるか」にあるような気がします。コーヒー豆と同様、カカオ豆にも作り手の想いや豆本来の魅力を伝えるストーリー性はあります。

チョコ市場は1個30円の「ブラックサンダー」のような手軽な商品や「チョコパイ」のようなチョコ菓子まで多種様々な商品がそろっています。そこにカカオ豆のストーリー性を持ったハイカカオチョコレートが加わることでチョコレート市場はより多様な生態系を持つ市場に育つでしょう。

健康効果とストーリー性を持ったハイカカオチョコレート。次はどんな商品が出てくるのか楽しみでなりません。

【補記】チョコ人口とアイス人口、どっちが多い?

お菓子のジャンルではありませんが、チョコレートと比較する上で欠かせない商品の一つがアイスクリームです。日本アイスクリーム協会によると、2022年度のアイスクリームの市場規模(販売金額)は5,534億円です。これはチョコレートの市場規模5,750億円をやや下回る水準です。一方、世帯当たりの月次支出額を比較すると、2022年はチョコレート9,006円、アイスクリーム10,847円でアイスクリームがチョコレートを上回っています。

市場規模ではチョコがアイスを上回るのに、世帯当たり支出ではアイスがチョコを上回る。この逆転現象をどう理解したらよいのでしょう。ここで市場規模を分解すると、

市場規模(①)=世帯当たり支出額(②)×消費人口(③)

となります。①と②の数値を上記式にあてはめて③の消費人口を算出すると、

  • チョコの消費人口:6,385万世帯
  • アイスの消費人口:5,102万世帯

となります。チョコの消費人口はアイスの消費人口より1,200万世帯も多いという結果になります。結構な差だと思いませんか。つまり、世帯当たり支出額はアイスが上回るのに市場規模ではチョコが上回る原因は、「アイスよりチョコを食べる世帯数が多いから」です。アイスクリームは広く親しまれているスイーツですが、チョコレートはそれ以上に多くの人が口にする大衆スイーツなのです。