ラーメン

ラーメンは「1000円の壁」を超えられる -ラーメン市場が豊かな生態系になるとき

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増え始めた1000円ラーメン

ラーメンが嫌いだと言う人はあまりいないでしょう。私もラーメンは大好物の部類に入る食べ物の一つです。コロナ禍で行くのを我慢していますが、ときどき中毒症状が出てラーメン店に足を運びます。先日、いつも行くラーメン店のメニューに1000円の特製ラーメンが追加されていることに気付きました。

「ラーメンに1000円か・・・」

抵抗感がなかったわけではありません。しかし「せっかくだから」と意を決し、1000円ラーメンのメニューボタンを押したのです。そしてスープをすすった瞬間、1000円という価格に一瞬でも怯んだ自分を恥じることになりました。

意を決して注文した1000円ラーメン

1000円ラーメン

最近は1000円を超すラーメンを出すお店が少しずつ増えてきたように思えます。「ラーメンは庶民の味方」というイメージが強い中で1000円を超すラーメンは果たして受け入れられるのでしょうか。コロナ禍で飲食店はかつてない逆風に見舞われています。結論を先に言うと、私の考えはこうです。

「1000円ラーメンにとってコロナ禍はむしろ追い風になる」

日常的にラーメン店に行けなくなったことで、ラーメンを食べに行くときのマインドはかつてとは違います。冒頭の私のように「せっかくだからより美味しいラーメンを食べたい」となるからです。

  • 1000円ラーメンは消費者に受け入れられるのか
  • 1000円ラーメンはラーメン市場全体にとってプラスなのかマイナスなのか

これが本記事のテーマです。一杯1000円を超すラーメンはラーメン市場全体の底上げにつながるのか、それとも手軽な庶民の食べ物が失われることを意味するのか。前者ならハッピーですが後者ならそうとは言えません。個別最適か全体最適かが問われる重要な問題です。

市場の発展には「多様な生態系」が必要

1000円ラーメンがラーメン市場の発展につながるのかどうか。その判断基準はラーメン市場に「多様な生態系」が生まれるかどうかにかかっています。多様なプレイヤーと多様な商品・サービスで形成される「多様な生態系」があってこそ市場は発展するからです。

なぜ生態系が大事なのか。コーヒー・カフェ市場を例にみてみましょう。

カフェ市場では缶コーヒーやコンビニの100円コーヒーのような身近な商品から、マスターとの会話を楽しむ個人喫茶店、サードウェーブ系と呼ばれる生産地を重視したコーヒー店、そして一杯1000円を超える本格コーヒー店まで、実に多様な店舗と多様な商品・サービスがバランスよく存在しています。それぞれの商品・サービスが競合することなくお互いを引き立てあうことでコーヒー市場全体が豊かな生態系を形成しているのです。

一方、ラーメン市場はどうでしょう。カップ麺や袋麺からテレビや雑誌に掲載されるような行列のできるラーメン店まであります。かなりいいところまでいってる気がします。

しかし、です。あと一歩、コーヒー市場にはあってラーメン市場にはないもの。それが「1000円超えメニュー」なのです。

1000円コーヒーはあるのに、1000円ラーメンはない

これがラーメン市場があと一歩カフェ市場のような豊かな生態系を形成するにまで至っていない原因です。

ラーメン市場の「空白地帯」

今のラーメン市場が多様な生態系になっていないのは、店舗や商品のポジションマップを描いてみると分かります。ラーメンを自宅で食べる「内食」と外で食べる「外食」に分けると以下のように整理できます。

  • 「内食」
     インスタント麺(カップめん、袋めん)
     チルド麺(生ラーメン、コンビニラーメン)
  • 「外食」
     中華料理店(町の中華屋、チェーン店)
     ラーメン専門店

これらを「価格」を軸にポジションマップに落としたのが下の図です。

ラーメン市場のポジションマップ

ラーメン市場のポジションマップ

低価格エリアでは内食のカップ麺や袋麺などのインスタント麺が確固たるポジションを築いています。安藤百福が1971年にカップヌードルを産み落としてからインスタント麺は私たちのソウルフードとなっています。世界的にもインスタント麺はまだ伸びる可能性に満ちています。

真ん中は内食のチルド麺と外食のチェーン店が競合するエリアです。1食200円~300円のチルド麺と一杯300円代のチェーン店ラーメンという構図です。私はコロナ禍でチルド麺を知ってからチェーン店に行く回数は激減しました。チェーン店のラーメンも十分美味しいのですが、自宅であれだけのクオリティが味わえるのであればチルド麺を選択してしまいます。

真ん中エリアの近くに位置するのが家族経営店の多い「町の中華屋」のラーメンです。ラーメン一杯の値段はだいたい500円~600円くらいでしょうか。

そしてその上に位置するのが「ラーメン専門店」です。雑誌のラーメン特集などで取り上げられ、行列ができる名店も少なくありません。ラーメン市場の中でもっとも競争の厳しいホットなエリアといえます。

これが今のラーメン市場の生態系ですが、この生態系マップにはおかしな点が一つあります。

高価格エリアで勝負するラーメン店が極めて少ない

ということなのです。高価格エリアが「エアポケット(空白地帯)」になっている。このことがラーメン市場の発展を妨げているのです。

「ラーメンは庶民の味方」の呪縛

1000円ラーメンの高価格エリアがエアポケットになっている理由はなにか。それは「ラーメンは庶民の味方」というマインドセット(先入観)が強いからではないでしょうか。

私もコロナ禍で「せっかくだから」という気持ちにならなければ1000円ラーメンのメニューボタンを押せなかったと思います。「ラーメンは庶民の味方」。この呪縛はそれだけ私たちの意識の根っこにあるということです。

下のグラフはラーメン一杯の平均価格(東京都)の推移です。これをみてもわかるように、ラーメンの価格はここ10年上がっていないのです

ラーメン一杯の平均価格(東京都)

ラーメン一杯の平均価格(東京都)

近年は日高屋や幸楽苑のようなラーメンチェーン店が「ラーメンは庶民の味方」の声を武器に「安くて喜ばれる」商品を投入してきました。消費者ニーズに沿った価格戦略ですのでそれ自体否定すべきものではありません。しかしラーメン専門店も同じような「安さ」を求められたことは否定できない事実でしょう。

そもそもラーメン専門店とチェーン店・町中華はビジネスモデルがまったく異なります。ラーメン専門店は奥深いスープの味を出すために素材に妥協はできません。コスト高は避けられないのに「ラーメンは庶民の味方」の声に縛られて長年値上げできずに苦しんできたのです。

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コロナ禍で市場の「空白地帯」が埋まる

ラーメン専門店を長年苦しめてきた「1000円の壁」。私はようやくこの壁を超えられるときがきたと感じています。理由は「コロナ禍」で消費者のマインドセットが変わったことです。コロナ禍で外出自粛を迫られる中、外食に行く頻度は大きく減りました。以前は気軽に行っていた外食がたまにしか行けなくなる。そうなると私が1000円ラーメンのメニューボタンを押したように「せっかくだからより美味しいラーメンを」というマインドが生まれやすくなっています。

下の図は来店頻度とラーメン一杯に払ってもよいと感じる値段の関係を示したものです。コロナ禍でラーメン店に行く頻度が減ると、

  1. ラーメン一杯に対する期待値が上がる
  2. 期待値が満たされるなら1000円を超えてもかまわない

となり、1000円を超えるラーメンでも決して高いと感じなくなります。こうして空白地帯だったラーメン市場の高価格エリアがコロナ禍を機に埋まる可能性が出ているのです。

ラーメン一杯に払える値段

ラーメン一杯に払える値段

2つの疑問

ようやく1000円ラーメンが受け入れられる土壌が出てきた。しかしここで2つ疑問が生じます。

コロナ禍が終息すれば元に戻ってしまう?

【疑問1】コロナ禍が終息すれば「ラーメンは庶民の食べ物」モードに戻ってしまうのでは?

1000円ラーメンはコロナ禍だから受け入れられている可能性もあります。たしかにコロナ禍が終息すれば以前のように気軽に外食できるので、再び「ラーメンは庶民の食べ物」圧力に押され、1000円ラーメンは受け入れられなくなる可能性はあるかもしれません。

しかし私は、コロナ終息後も1000円ラーメンは受け入れられる可能性が高いと感じています。

「何事も経験」とはよく言ったもので、実際ラーメン一杯に1000円を払ってみると不思議に割高感のようなものは感じなくなるものです。むしろ「1000円の価値は十分ある」という納得感のほうが大きくなるものです。これはマーケティング用語の経験価値に相当するものです。

ラーメンに1000円を支払った経験価値を多くの消費者が共有できれば、チェーン店のラーメンに600円を支払うときと、ラーメン専門店で1000円を支払うときの脳内スイッチがスムーズに切り替わるようになるのではないでしょうか。

他の商品やお店と競合しないのか?

【疑問2】町の中華屋やチルド麺・インスタント麺と競合しないのか?

これが2つ目の疑問です。

答えはNoです。先のラーメン市場のポジションマップをみればわかるように、1000円以上の価格エリアはもともと空白地帯だったのですから、他の商品や店舗を競合することはありません。むしろ市場の空白地帯が埋まることで、ラーメン市場はカフェ市場のように、

豊かな生態系を持つ市場に生まれ変わる

ことになるでしょう。こうしてラーメン市場は商品やお店の形態によって以下のような棲み分けが出来上がります。

  1. 日常使いのラーメン
    内食:「カップ麺」「チルド麺」
    外食:「町の中華屋」「チェーン店」
  2. 本格派ラーメン
    内食:「高級チルド麺」(宅麺など)
    外食:「ラーメン専門店」
    ⇒ 1,000円超えラーメン

1000円ラーメンが生むワクワク感

このようにラーメン一杯「1000円の壁」を超えることは、ラーメン市場が豊かな生態系を持つ市場に近づくということです。

  • 手軽で美味しいインスタント麺から素材のストーリーを味わえる1000円ラーメンまで
  • コンビニの100円コーヒーから豆のストーリーを味わえるサードウェーブコーヒーまで

カフェ市場のような豊かな生態系がラーメン市場に生まれるわけです。1000円ラーメンを作るラーメン職人も増えるでしょう。1000円ラーメンの名店がしのぎを削る。そこで勝ち残ったラーメンはどれだけ素晴らしいものか。想像しただけでワクワクしてしまいます。