行列のできるラーメン

「チルド麺」のうまさに衝撃 - ラーメンチェーン店を脅かす存在に

広告

予想以上にうまかった「チルド麺」に衝撃

前回の記事で紹介したカップ麺は内食ラーメンの代表選手ですが、もう一人欠かせない選手がいます。チルド麺です。コロナ禍のラーメン需要は、カップ麺とチルド麺はコロナ禍のツートップで盛り上がりを見せています。

今年4月の緊急事態宣言のときだったと思います。いつも行くラーメン店が臨時休業でがっかりしていたところに立ち寄った食品スーパー。そこで目に留まったのが普段あまりチェックすることのないチルド麺のコーナーです。

日清の「行列のできる店のラーメン」というパッケージに惹かれて購入しました。チルド麺はここ数年食べたことのなかった私ですが、久々に食するその味に衝撃を受けました。「麺のモチモチ感、コクのあるスープ、下手なラーメン店よりうまい!」と。

私の場合、これまで自宅でラーメンといえばカップ麺だったのですが、そこに新たにチルド麺という実力派が加わることになりました。こうなるとラーメンに乗せるトッピングも充実させたくなります。チャーシューは市販のものですが、煮卵を自分で作ったり、小松菜、ネギを加えたりと、作る楽しさが加わります。

普通にラーメンを食べるなら外より内、本当にうまいラーメンを食べたいなら有名店、という具合に私の脳内ラーメンマップはアップデートされたのです。

コロナ禍でカップめんより人気?

チルド麺に私と同じ衝撃を受けた方がどれだけいたのかはわかりません。しかしデータでみても、チルド麺の需要は確実に増えています。

下のグラフは家計の中華麺(チルド麺含む)に対する支出額を昨年と比較したものです。カップ麺は3月頭の買い占め騒動と4月上旬の緊急事態宣言前の駆け込み需要の2時点で需要が急増しましたが、チルドめんの需要はじわじわと増加しているのがわかります。

チルド麺の需要が特に高まったのは5月のゴールデンウイーク中です。カップ麺は保存食としての需要が急増したのに対し、チルド麺は自粛期間中のランチ時などで、家族と一緒に食される方が多かったのではないでしょうか

家計の中華麺支出(チルド麺含む)の推移

家計の中華麺支出(チルドめん含む)の推移

チルド麺のポジショニング

ラーメン市場は1兆円超え

コロナ禍で私の脳内にビルトインされたチルド麺ですが、市場規模はどのくらいあるのでしょうか。TPCマーケティングリサーチの調査によると、2019年のめん類の市場規模は、即席めん6,194億円冷凍めん1,362億円チルド麺1,237億円です。これらを合わせると内食ラーメンの市場規模は全体で8,793億円ということになります。

その中でチルド麺は1割程度ですので規模としてはまだまだ小さな存在です。ちなみに冷凍めんはここ数年順調に拡大しているようですが、私はまだ食したことがないので、今度食した上でレポートしようと思います。

内食ラーメンに対し、外食ラーメンの市場規模はどの程度でしょう。経済センサス活動調査でみると、外食ラーメンの売上高は2011年5,129億円、2015年6,009億円です。年率で4%程度成長していることになりますので、これを単純に延長推計すれば2019年で7,039億円となり、内食ラーメン市場と同程度の規模です。

ラーメン市場は内食ラーメンと外食ラーメンを合わせて約1.5兆円となりますので、なかなかの巨大マーケットということになります。

広告

チルド麺のポジション

1兆円超えとなるラーメン市場の中で、チルド麺はどのような存在と位置づけられるのでしょう。「内食と外食」「手軽さと本格的」で整理すると下の図のようになります。

ラーメン市場のポジションマップ

ラーメン市場のポジションマップ

内食ラーメンでは手軽さとリーズナブルさの王者が即席ラーメンです。即席ラーメンのような手軽さ・リーズナブルさはありませんが、本格的な味に近いチルド麺は即席ラーメンとは競合しないポジションにしっかりと位置づけられます。

外食ラーメンは様々なタイプのラーメン店がありますが、手軽さ・リーズナブルをウリとするのは日高屋や幸楽苑のようなラーメンチェーン店でしょう。一方、ミシュラン認定されるような本格的なクオリティを誇る「行列のできるラーメン店」は別のポジションに位置づけられます。

こうしてみると、ラーメン市場は内食と外食のバランスが取れた市場であることがわかります。その中でチルドめんは本格的な味を提供する内食ラーメンという位置にいるわけです。

【補足】
実は上のラーメンマップには描かれていないエリアがあります。「高価格エリア」です。
ラーメン専門店でも一杯の値段は1000円未満がほとんどですので、1000円以上の価格帯が「空白地帯」になっています。ただ最近は1000円以上のラーメンも増え始めましたので、空白地帯が埋まる可能性がでてきました。
詳しくは以下の記事でご確認ください。
参考記事:ラーメンは「1000円の壁」を超えられる

チェーン店のラーメンとチルド麺を比較

先の図をもう少し注意してみると、チルド麺は内食ラーメン市場では競合する商品はありませんが、外食ラーメン市場では競合する部分が出てきます。その競合相手とは日高屋や幸楽苑などリーズナブルなラーメンを提供するラーメンチェーン店です。

先のように、チルド麺を食したときの私の感想は「下手なラーメン店よりうまい」です。チェーン店を下手なラーメン店というつもりは毛頭ありません。しかしチルドめんとチェーン店を横に並べたとき、今の私であればチルド麺を選択する可能性が高いということなのです。

試しにチルドめんとラーメンチェーン店のラーメンを比較してみます。
リーズナブルなラーメンチェーン店として日高屋と幸楽苑を取り上げると、両店のラーメンの値段は300円代という感じです。

日高屋 355円(税別)
幸楽苑 340円(同)

一方のチルド麺はどうでしょう。私が先日食した日清「行列のできる店のラーメン」にトッピングをつけたケースの価格は以下のようなものです。

行列のできる店のラーメン:1食約230円(税別、希望小売価格)
チャーシュー:約60円
ネギ:約10円(1本100円の10分の1)
⇒ 計 約300円

チルド麺はトッピングを付けてもラーメンチェーン店より安くあがります。しかも「行列のできる店のラーメン」は店頭ではもっと安く売られます。私がよく行くスーパーでは270円(税別)で売られていました。1食135円でチャーシューとネギをつけて205円。チェーン店との価格差は実質的には100円以上です。

「チェーン店の味に引けを取らない」「コロナ禍で自宅にいる時間が多い」となると、お昼に家族とラーメンを食べたいと思ったときに、価格の安いチルド麺を選ぶのは自然なことのように思えます。

ポジショニング揺らぐラーメンチェーン店

外食企業はコロナ禍で厳しい状況にありますが、店舗による差も大きくなっています。中華料理チェーンでも餃子の王将は売り上げの回復が鮮明ですが、日高屋は自粛解除後も客足がなかなか戻りません。

一因として考えられるのが、内食ラーメン、特にチルド麺との競合です。先のように、チルドめんとチェーン店のラーメンを比較すると、よほどの面倒くさがりでなければチルド麺を選択するほうが美味しいラーメンを食べられるようになっています。

手軽でリーズナブルなラーメンを食べたければチェーン店よりチルド麺を選択する。私以外の消費者もこうした行動を取るようになった場合、ラーメンチェーン店はどのような対抗策を取るべきでしょうか。

まず思いつくのはチルドめんに負けない味を出すことです。ただし、味をよくするにはよい食材が必要ですのでコスト増になります。ラーメンチェーン店の多くはすでにセントラルキッチンの導入などやれることはやっていますので、合理化でコストを吸収するのは難しいかもしれません。

コストを吸収できなければ値上げするしかありませんが、そうなると今度は本格ラーメン店のエリアに足を踏み入れることになります。本格ラーメンとガチで味勝負するのは厳しいと言わざるを得ません。

こうしたとき、他の飲食店であれば店舗空間やサービスを高めることで値上げを正当なものにできます。カフェではコーヒー一杯の値段に、コーヒーの美味しさ+店内の居心地よさが含まれています。

残念ながらラーメン店はこのような戦略を取ることがきわめて難しいのです。なぜならラーメンとは早く食べなくてはいけない料理だからです。滞在時間の短さは回転率を高めて客数を多くできるメリットもありますが、そのメリットを享受できるのは行列ができる名店だけでしょう。

滞在時間を長くするにはラーメン以外のメニューが必要ということで、日高屋は「ちょい飲み」に活路を見出そうとしました。しかしコロナ禍でテレワークが普及する中、以前のように会社帰りのちょい飲みサラリーマンはかなり少なくなっています。

正直、今の私にはラーメンチェーン店の再建策は思いつきません。はっきり言えることは、内食の定着化とチルドめんの台頭により、ラーメン勝負ではもう決着がついている可能性が高いということです。

ラーメンに依存しない新しいメニューやサービスを考える以外ない。身も蓋もない言い方しかできないほどラーメンチェーン店の現状は厳しいように思えてなりません。