チルド麺

「チルド麺」のうまさに衝撃 - ラーメンチェーンを脅かす存在に

予想以上にうまかった「チルド麺」

前回の記事で紹介したインスタント麺は内食ラーメンの代表選手ですが、もう一人欠かせない選手がいます。

チルド麺です。

インスタント麺とチルド麺はツートップで内食ラーメン市場を盛り上げています。

先日、いつも行くラーメン店が臨時休業でがっかりしていたところに立ち寄った食品スーパー。そこで目に留まったのが普段あまりチェックすることのないチルド麺の売り場です。日清の「行列のできる店のラーメン」というパッケージに惹かれて購入しました。チルド麺はここ数年食べたことのなかった私ですが、久々に食するその味に衝撃を受けました。

「麺のモチモチ感、コクのあるスープ、下手なラーメン店よりうまい!」

私の場合、これまで自宅でラーメンといえばインスタント麺だったのですが、そこに新たにチルド麺という実力派が加わることになりました。こうなるとラーメンに乗せるトッピングも充実させたくなります。チャーシューは市販のものですが、煮卵を自分で作ったり、小松菜、ネギを加えたりと、作る楽しさが加わりました。

  • 普通にラーメンを食べるなら外より「自宅」
  • 本当にうまいラーメンを食べるなら「有名店」

私の脳内ラーメンマップはこのようにアップデートされたのです。

コロナ禍でカップめんより人気?

チルド麺に私と同じ衝撃を受けた方がどれだけいたのかはわかりません。しかし統計データでみても、チルド麺の需要は確実に増えているのがわかります。

下のグラフは家計の中華麺(チルド麺含む)に対する支出額を昨年と比較したものです。カップ麺は3月頭の買い占め騒動と4月上旬の緊急事態宣言前の駆け込み需要の2時点で需要が急増しましたが、チルドめんの需要はじわじわと増加しているのがわかります。

チルド麺の需要が特に高まったのは5月のゴールデンウイーク中です。カップ麺は保存食としての需要が急増したのに対し、チルド麺は自粛期間中のランチ時などで、家族と一緒に食される方が多かったのではないでしょうか

家計の中華麺支出(チルド麺含む)の推移

家計の中華麺支出(チルドめん含む)の推移

チルド麺のポジショニング

ラーメン市場は1兆円超え

私の脳内ラーメンマップにビルトインされたチルド麺ですが、市場規模はどのくらいあるのでしょう。

TPCマーケティングリサーチの調査によると、2019年のめん類の市場規模は、即席めん6,194億円冷凍めん1,362億円チルド麺1,237億円です。これらを足し合わせると、

内食ラーメンの市場規模:8,793億円(2019年)

となります。その中でチルド麺は1割程度ですので規模としてはまだまだ小さな存在です。

では内食ラーメンに対し、外食ラーメンの市場規模はどのくらいでしょう。経済センサス活動調査(総務省)で確認すると、外食ラーメンの売上高は2011年5,129億円、2015年6,009億円で年率4%程度成長していることになります。これを単純に延長推計すると、

外食ラーメンの市場規模:7,039億円(2019年)

外食ラーメンと内食ラーメンの市場規模は同程度ということになります。内食ラーメンと外食ラーメンを合わせると約1.5兆円になりますので、ラーメン市場はやはりなかなかの巨大マーケットということになります。

チルド麺のポジション

1兆円超えとなるラーメン市場の中で、チルド麺はどのような存在に位置づけられるのでしょう。「内食と外食」「手軽さと本格的」で整理すると下の図のようになります。

ラーメン市場のポジションマップ

ラーメン市場のポジションマップ

内食ラーメンでは手軽さとリーズナブルさの王者がインスタント麺です。インスタント麺ほどの手軽さ・リーズナブルさはないものの、本格的な味を楽しめるチルド麺はインスタント麺とは競合しないポジションにしっかり位置づけられています。

外食ラーメンは様々なタイプのラーメン店がありますが、手軽さ・リーズナブルをウリとするのは日高屋や幸楽苑のようなラーメンチェーンでしょう。一方、ミシュラン認定されるような高いクオリティを誇る「行列のできるラーメン店」は別のポジションに位置づけられます。

こうしてみるとラーメン市場は、内食にも外食にも根を張りながら実にバランスの取れた生態系を持っていることがわかります。その中でチルド麺は、「本格的な味を提供する内食ラーメン」というポジションを得ているのです。

【補足】
実は上のラーメンマップには描かれていないエリアがあります。「高価格エリア」です。
ラーメン専門店でも一杯の値段は1,000円未満がほとんどですので、1,000円以上の価格帯が「空白地帯」になっています。ただ最近は1,000円以上のラーメンも増え始めましたので、空白地帯が埋まる可能性がでてきました。
詳しくは以下の記事でご確認ください。

【関連記事】ラーメンは「1000円の壁」を超えられる

ラーメンチェーンとチルド麺を比較

先の図をもう少し注意してみてください。チルド麺は内食ラーメン市場では競合する商品はありませんが、外食ラーメン市場では競合する部分が出てきます。その競合相手とは日高屋や幸楽苑などリーズナブルなラーメンを提供するラーメン・チェーン店です。

先のように、チルド麺を食したときの私の感想は「下手なラーメン店よりうまい」です。もちろんラーメンチェーンを下手なラーメン店というつもりは毛頭ありません。しかしチルド麺とラーメンチェーンを横に並べたとき、今の私の脳内ラーメンマップから導き出される答えは「チルド麺を選ぶ」ということなのです。

試しにチルドめんとラーメンチェーンのラーメンを比較してみます。リーズナブルなラーメンチェーンとして日高屋と幸楽苑を取り上げると、両店のラーメンの値段は300円代という感じです。

日高屋 :355円(税別)
幸楽苑 :340円(同)

⇒ 平均347円(税別)

一方のチルド麺はどうでしょう。私が先日食した日清「行列のできる店のラーメン」にトッピングをつけたケースの価格は以下のようなものです。

行列のできる店のラーメン:1食約230円(税別、希望小売価格)
チャーシュー:約60円
ネギ:約10円(1本100円の10分の1)

約300円(税別)

チルド麺はトッピングを付けてもラーメンチェーンより安くあがるのがわかります。しかも「行列のできる店のラーメン」は店頭ではもっと安く売られます。私がよく行くスーパーでは270円(税別)で売られていました。1食135円でチャーシューとネギをつけても205円。ラーメンチェーンのラーメンとチルド麺の価格差は100円以上ということです。

価格で優位な上に「チェーン店の味に引けを取らない」「コロナ禍で自宅にいる時間が多い」となると、お昼に家族とラーメンを食べたいと思ったときに、価格の安いチルド麺を選ぶのは自然なことのように思えます。

ポジショニング揺らぐラーメン・チェーン

外食企業はコロナ禍で厳しい状況にありますが、店舗による格差も大きくなっています。中華料理チェーンでも餃子の王将は売り上げの回復が鮮明ですが、日高屋は自粛解除後も客足がなかなか戻りません。

一因として考えられるのが、内食ラーメン、特にチルド麺との競合です。先のようにチルド麺とラーメンチェーンのラーメンを比較すると、よほどの面倒くさがりでなければチルド麺を選択するほうが美味しいラーメンを食べられるようになっています。

手軽でリーズナブルなラーメンを食べたければラーメンチェーンよりチルド麺を選択する。私以外の消費者もこうした行動を取るようになった場合、ラーメンチェーンはどのような対抗策を取るべきでしょうか。

まず思いつくのはチルドめんに負けない味を出すことです。ただし、味をよくするにはよい食材が必要ですのでコスト増になります。ラーメンチェーンの多くはすでにセントラルキッチンの導入などやれることはやっていますので、合理化でコストを吸収するのは難しいかもしれません。

コストを吸収できなければ値上げするしかありません。しかしそうなると今度は本格ラーメン店のエリアに足を踏み入れることになります。本格ラーメン店とガチで味勝負するのは厳しいと言わざるを得ません。

こうしたとき、他の飲食店であれば店舗空間やサービスを高めることで値上げを正当なものにできます。カフェではコーヒー一杯の値段に、コーヒーの美味しさ+店内の居心地よさが含まれています。

しかし残念ながらラーメン店はこのような戦略を取ることがきわめて難しいのです。なぜなら

ラーメンは早く食べなくてはいけない料理

だからです。ゆっくり食べていては麺がのびてしまう。ラーメン店は滞在時間の短さを前提に客回転率を高めて数をこなすビジネスモデルなのです。しかし本格ラーメン店やチルド麵に押されて客数が伸び悩むとこのビジネスモデルは成立しません。そこで、

客の滞在時間を長くして客単価をあげるしかない

ということで、日高屋などは「ちょい飲み」というラーメン以外のメニューに活路を見出そうとしました。しかしコロナ禍でテレワークが普及する中、以前のように会社帰りのちょい飲みサラリーマンはかなり少なくなっています。

正直、今の私にはラーメンチェーンの再建策は思いつきません。はっきり言えることは、内食の定着化とチルド麺の台頭により、ラーメン勝負ではもう決着がついている可能性が高いということです。

ラーメンに依存しない新しいメニューやサービスを考える以外ない。身も蓋もない言い方しかできないほどラーメンチェーンの現状は厳しいように思えてなりません。