化粧品

スキンケアがつなぐ化粧品市場 - 自分のための化粧へ

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コロナ禍の化粧

「通勤メイク」からの解放

コロナ禍の生活について女性に尋ねると一番多い回答は「化粧しなくて済むから楽」というものです。同じ質問を男性にすると「飲みに行けなくてストレスがたまる」といった回答が多いのと対照的です。

私の妻の今の勤務形態はテレワークと通勤で半々くらいですが、テレワーク日と通勤日では明らかに朝の雰囲気が違います。通勤日は危険なのでテレワーク日に「通勤がないと楽でしょ」と尋ねると、「通勤もそうだけど、化粧しなくていいから」と言われました。通勤日のあの何者をも寄せ付けないオーラの意味が理解できた瞬間です。

ポーラ文化研究所の2019年調査では、朝のメイク時間は平均で14.5分だそうです。慌ただしい朝の15分は殺伐とした空気を作るのに十分ということです。

女性ワーカーにとってテレワークは、「通勤メイク」からの解放を意味していることを男性陣はしっかり理解しておく必要があります。

スキンケア化粧品の落ち込みは限定的

コロナ禍以降、化粧品の売り上げ急減のニュースを目にする機会が増えました。ただ化粧品と一口に言っても、クレンジングや化粧水などのスキンケア化粧品から、ファンデーションや口紅などのメイクアップ化粧品まであります。種類・用途ごとに支出がどう変化したか見ていく必要があるでしょう。

下のグラフは、今年4月~7月の化粧品支出の平均伸び率(前年同月比)をみたものです。化粧品全般に支出はマイナスですが、化粧品の種類によってだいぶ差がみられるようです。

コロナ禍の化粧品支出の伸び率(2020年4~7月の平均)

コロナ禍の化粧品支出の伸び率(2020年4~7月の平均)

一番落ち込みが顕著に出ているのが、ファンデーションや口紅などのメイクアップ化粧品です。マスク着用時に必要とされない口紅は落ち込みがかなりきつく、前年比で50%減となっています。ただ、マスク着用時のメイクに必要な、アイシャドウやマスカラなどのメイクアップ化粧品は伸びているのかもしれません。

これに対し、化粧水や乳液などスキンケア関連の化粧品は落ち込みが限定的です。スキンケア化粧品は洗顔後につけるものですので、外出有無に関わらず一定のニーズがあるということなのかもしれません。

スキンケア化粧品が底堅い理由

コロナ禍でも落ち込みが限定的なスキンケア化粧品。外出有無に左右されないからという理由だけではないようです。

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鏡を見る機会が増えた男性の美容意識

コロナ禍でスキンケア化粧品への支出が底堅い点について、美容には無関心な私にもなんとなく思い当たることがあります。それは「自分の顔を鏡で見る機会が増えた」ことで、スキンケアへの意識が高まったのではないかということです。

私は決してナルシストではありませんが、自宅に長時間いると否応なしに鏡に映る自分に出くわします。何度も自分の顔に出くわすうちに、「こんな老けたかな」「こんなとこにシミがあったかな」と思うわけです。気付いたら、シミ消し用のクリームをネットで検索してお試し買いをしていました。

今まであまり気付かなかった自分の顔が、自宅に長くいると細かいところが気になってしまう。これには驚きでした。コロナ禍で男性用のスキンケア化粧品が売れているというのもなんとなく理解できるような気がします。

マスクによる肌荒れでスキンケア意識が高まる

女性はどうでしょう。「自分の顔を見る機会が増えてスキンケア意識が高まる」説を妻にぶつけたところ、「男性はそうかもしれないけど女性は違うでしょう」とのこと。女性は普段からメイクなどで自分の顔を見ているので、鏡に映る自分を見る機会が増えてもそれほど意識に変化はないだろう、というコメントでした。

しかし、別の要因でスキンケア意識はむしろ高まっているだろうとのこと。それが「マスクによる肌荒れ」です。マスク内では汗や皮脂の分泌が増加するため、かゆみやニキビを誘発するようです。マスク着用時と着脱時の急激な水分量の変化も肌にストレスを与えると聞きます。

マスクによる肌荒れ対策として、良質なスキンケア化粧品に対する関心が高まるというルートは確かにありそうです。

自分のための化粧へ

私は化粧をする人の心理について理解できていませんが、通勤メイクから解放されときの妻の反応や、肌荒れでスキンケア意識が高まった人の話を聞くうちに、どうも化粧というものには「内発的」な要素と「外発的」な要素があるのではないかと思うようになりました。

自らやってみたくなる、モチベーションが上がるのが内発的、仕方なくやる、モチベーションが上がりにくいのが外発的な行動です。下の図はコロナ禍の化粧品ニーズを動機(内発的か外発的か)シチュエーション(外出時か在宅時か)でイメージ化したものです。

コロナ禍の化粧ニーズ

コロナ禍の化粧ニーズ

外出時の化粧は内発と外発で明確に分かれます。朝のバタバタ時に行う通勤メイクは「外発的」な行動になります。通勤日に妻が積極的に楽しんでメイクをしている姿は見たことがありません。一方、恋人とのデート前に行うメイクはワクワクしながらするはずなので「内発的」な行動となるでしょう。

在宅時の化粧はどのようなものでしょう。マスクによる肌荒れなどをきっかけにスキンケア意識が高まる、もっと肌の手入れをしてきれいになりたい、という心理は「内発的」な行動です。夫にきれいな自分をみせたい、というモチベーションでメイクをするなら内発的ですが、夫がうるさいから仕方なくメイクするのであれば外発的です。

こうしてみると、在宅時間が多くなるコロナ禍は自分の肌と向き合う時間が増えたことで、肌をきれいに保ちたい、マスクによる肌荒れを直したいといった内発的なスキンケア意識が生まれやすくなっているといえます。

美容と健康はコロナ前からある強いトレンドですので、肌をきれいに保つためのスキンケア化粧品に対するニーズはコロナ禍でより助長されたとみてもいいかもしれません。

メイクアップ化粧品の需要はいずれ戻る

このように、コロナ禍で肌をきれいに保ちたいというスキンケア意識は確実に高まっています。今後はより質の高いスキンケア化粧品を求める動きが強まるのではないでしょうか。男性用スキンケア化粧品という新たな需要も生まれています。

そこで化粧品業界として一番気になるのは「メイクアップ化粧品はどうなるのか」ではないでしょうか。メイクアップ化粧品の需要はコロナ前のレベルに戻らないのか。戻らないとすれば、スキンケアを中心とするビジネスモデルに転換してくてはならないのか、という問いです。

私はそうはならないと考えています。なぜなら、「きれいになったら人に見せたいと思うのが人の性(さが)」だからです。

スキンケア化粧品とメイクアップ化粧品は密接につながっているはずです。肌の質が良くなるとファンデーションのノリもよくなると聞きます。

質の高いスキンケア化粧品を使って肌がきれいになれば、人に見せたいと思うのは自然な心理のはずです。テレワークで勤務先で披露する機会は減るかもしれませんが、ZOOM飲み会やSNSなどできれいにメイクした姿を披露する人も出てくるでしょう。アフターコロナになれば、きれいにメイクをして、レストラン、旅行・レジャー、コンサートに出かけるはずです。

化粧品業界はかなり厳しい状況にあります。中には業界がなくなってしまう恐怖を感じている人もいるそうです。しかし、コロナ禍で高まったスキンケア意識の熱量に応え続ければ、メイクアップ需要も必ずついてくるはずです。化粧品市場は決してオワコンにはならないと思います。