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しまむらの業績回復は本物? -ドンキに学んで「しまパト」を振り向かせる

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しまむらの業績回復に違和感

9月末の日経新聞に「しまむら純利益46%増」という見出しが踊っていました。新型コロナウイルスの感染拡大で在宅時間が増え、部屋着や寝具などの販売が伸びているそうです。市場はこれを好感し、株価は年初来高値を更新しました。

しまむらの売上高を見てみましょう。緊急事態宣言下の4月5月は前年と比べて3割近く急減してましたが、6月以降は前月からの反動増も加わって前年を上回る回復をみせています。

しまむらの売上高の推移(前年同月比%)

しまむらの売上高の推移(前年同月比%)

記事での中で特に強調されていたのは「利益率の改善」です。発注から納品までにかかる時間を短くする生産体制を強化し、売れ筋を踏まえた商品投入を増やしていることが利益率の改善につながっているという見立てです。

売れ筋を踏まえて商品を絞って在庫を圧縮、発注から納品までの生産を短縮化して利益率を高める。経営セオリーにもとづいた業績回復。

果たして本当にそうなのか?

私は同社のコロナ禍の業績回復に強い違和感を覚えました。これがしまむらではなく他の衣料店だったら新聞記事の内容に共感していたと思います。

違和感の理由は「しまパト離れ」

宝探しから合理化経営へ

しまむらのコロナ禍の業績回復に対する違和感の正体は、同社が強みとしていた価値とのギャップにあります。その価値とは、店舗内でのドキドキ・ワクワク感です。

しまむらはかつて、衣料品メーカーが在庫として抱える商品を返品なしで買い取り、売れ行きが好調でも追加で同じ商品を仕入れない「売り切り御免」の販売スタイルをとってきました。

売れ行きに基づいて追加生産を行うユニクロとは対極のスタイルをとることで、商品の多様性と希少性がもたらされ、店舗内で「宝探し」をする「しまらー」「しまパト(しまむらパトロール)」と言われるコアファンの獲得につながりました。しまらーの購買行動はテレビやニュースでも頻繁に取り上げられましたので記憶にある方も多いと思います。

しかし同社は、2014年に自社ブランド(PB)「裏地あったかパンツ」が大ヒットとなったのを機に、売れ筋に的を絞る戦略に方向転換を図ります。同時に価格破壊とも取れるセールを何度も行います。その結果、しまパトは離れ、客足は伸びずに売上は減少という事態を招きます。

しまらーを魅了した宝探し空間からユニクロ型の合理的経営へのシフト。しまパト離れで経営悪化を招いたのがコロナ前のしまむらの状況だったのです。

コロナ禍の業績回復は「巣ごもり特需」

先のように、コロナ禍でTシャツや部屋着などの巣ごもり需要は確実に高まっていますので、しまむらの定番商品が売れるのも納得できます。しかし巣ごもり消費は、ユニクロなど部屋着を取り扱う他のアパレル店でも売上増となって表れています。

今の売上回復は、しまむらの強みが発揮されたというより、コロナ禍の巣ごもり消費を受けた「巣ごもり特需」と受け取るべきでしょう。

同じく巣ごもり特需を受けて売上が増加しているのが食品スーパーですが、食品スーパーの関係者は決して笑顔ではありません。むしろこれが特需であることを認識した上で、その後の反動減に備えて今何をすべきかについて必死に考えているように見えます。

今のしまむらの業績回復が巣ごもり特需によるものだとすれば、決して手放しで喜べる話ではありません。食品スーパーのように、ここはむしろ手綱を締めるべき局面なのかもしれないのです。 

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コロナ禍でも自社の価値を忘れない「ドンキ」のメッセージ

消費者の巣ごもり需要に合わせて自社の商品を提供する。たしかに売上は増加するかもしれませんが、消費者はワクワクしながらその商品を手にしているわけではありません。必要な商品を店頭やオンラインショップで購入しているだけです。

コロナ禍が長期化することで、消費者がこうした「必要なモノだけを買う」買い物行動に疑問を感じなくなったらどうなってしまのでしょう。しまらーを魅了した宝探しのような出会いが外の買い物にあることを忘れてしまう。

もちろんこんなことはあってはならないと思いますが、企業の姿勢次第では消費者を「飛び方を忘れた鳥」状態にしてしまう可能性は否定できません。

コロナ禍でも買い物の楽しさやワクワク・ドキドキ感を忘れないでほしい。こう強く訴える企業がいます。総合ディスカウントストア・食品スーパーを展開する「ドン・キホーテ」です。

山盛りで多彩な商品群。
ちょっとヘンだけど、妙に印象に残るPOP。
嬉しい驚きを提供する「驚安」プライス。
ドン・キホーテがあえてこういうお店を作っているのは、
その方が「ワクワク・ドキドキしてもらえる」と、確信しているからです。

もちろん安心・安全な環境を整えた上でのことですが、
ドン・キホーテの真の喜びは、お客さまに喜んで頂くこと。
いま、このタイミングだからこそ、
私たちドン・キホーテは皆さまに「ワクワク・ドキドキ」をお届けしたいと
心から思っています。

「いま、ドン・キキホーテが絶対に忘れたくないもの。」ドン・キホーテHPより

これは同社のホームページに掲載されている「いま、ドン・キホーテが絶対に忘れたくないもの。」というメッセージの抜粋です。

素晴らしいメッセージだと思いませんか?

コロナ禍の今だからこそ、ワクワク・ドキドキの空間がここにあることを消費者に訴えかける。必要な商品だけを買うのが買い物ではない、カゴの外にはワクワク・ドキドキの空間が待っていますというメッセージです。

コロナ禍で企業がすべきことは、巣ごもり消費に合った商品・サービスを提供するだけでなく、ドンキのような「大事なことを忘れないでもらうための活動」だと感じます。

しまむらは原点に戻って買い物の楽しさを伝えよう

ワクワク・ドキドキ空間でファンを獲得してきたという意味で、ドンキとしまむらは共通しています。以前のしまむらは、先のドンキのメッセージのような考え方を持っていたはずです。

売れ筋に的を絞ることで、買い物のワクワク・ドキドキ感が失われる。このことは、当のしまむら経営陣も認識しているはずです。2019年2月期の決算報告の中で北島社長は「極端な品揃えの絞り込みや価格政策は、お客様に不信感を与えた。」と報告しています。

問題は、以前のしまむらの価値を再評価しようという機運の中でコロナ禍が起きたことです。

巣ごもり消費であれば、以前のしまむらに戻るのではなく、売れ筋に絞り込んだ今のスタイルのほうが確実に売上を拡大できます。「ワクワク空間のしまむら回帰」の検討をいったん棚上げにし、今のスタイルに集中しようと経営陣が考えてもおかしくありません。

しかし棚上げや先送りは明らかに間違いです。ドンキのように、巣ごもり生活を強いられているコロナ禍の今だからこそ、ワクワク・ドキドキ感の空間があることを伝える意味があるからです。

しまむらは、自社の価値の源泉がワクワク・ドキドキ感の店舗空間にあることを再認識するべきです。しまパトのようなコアファンに再び振り向いてもらうような宝探しのような店舗空間を目指す。こうしたメッセージを打ち出すべきではないでしょうか。

もちろん単純に先祖返りすればいいということではありません。オンライン・デジタル戦略も重要です。ただECをモノを売る場として捉えるのではなく、リアル店舗のようなドキドキ・ワクワク感を感じさせるようなサイトを目指すべきでしょう。コロナ禍でもオンラインでワクワク・ドキドキ感をアピールすることで、コロナ収束後のリアル店舗への導線が生まれるはずです。

しまむらが再びドンキと並ぶ空間価値の雄に戻れるかどうか。コロナ禍でその真価が問われるのかもしれません。しまむらの動向は今後も注意深くウォッチしていきたいと思います。