ネットの普及で減少する「近所付き合い」|地域の強いつながりを取り戻すには

地域の人と親しく付き合っている人の割合が、50年で6分の1にまで低下しています。かつては当たり前だった「近所付き合い」が失われた背景には、地方から都市への人口移動とネットの普及があります。スマホの画面の向こう側に関心が向くほど、目の前の人との「強いつながり」は薄れていきます。孤独と不安を和らげる錨を取り戻す方法を考えます。

「近所付き合い」50年で6分の1に

「近所付き合い」と聞いて、皆さんはどう感じるでしょうか?

  • 「正直、面倒くさい」
  • 「何を話せばいいかわからない」
  • 「あまり深く付き合いたくない」

と、あまり良いイメージを持たない人が多いのではないでしょうか。実際、ある調査では、8割以上の人が「近所付き合いは苦手」と答えています(AlbaLink社)。最近はマンションだけでなく一軒家でも隣に誰が住んでいるかよくわからないケースも少なくないようです。

こうした意識変化は、数字にもはっきりと表れています。内閣府の調査によると、地域の人と親しく付き合っている人の割合は、1975年の52.8%から2025年にはわずか8.5%まで減少。この50年で、近所のつながりは約6分の1にまで激減しました。人付き合いが濃いイメージのある町村部でさえ、その割合は15%に満たないのが現状です。

私の田舎では、近所の家にチャイムを押さずに入っていくことは珍しくありませんでしたが、いまではちょっとした騒動になると聞きます。「醤油を貸し借りする」「チャイムを鳴らさず玄関を開ける」──。こうしたおすそ分け文化もどんどん少なくなっているのです。

近所付き合いの程度

親しく付き合っている付き合っていない
197552.8%13.6%
199021.1%30.1%
20258.5%45.8%
(出所)内閣府「社会意識に関する世論調査」

希薄化しているのは近所付き合いだけではありません。第一生命研究所の調査によると、親友の平均人数は、男性で2001年2.92人から2011年2.73人、女性で2001年2.73人から2011年2.54人へ、男女とも減少しています。リアルの人間関係全般が縮小していることが伺えます。

「近所付き合いがなくても困らない」「一人のほうが楽」「SNSで〇〇人とつながってるから平気」という声も聞こえてきそうです。近所付き合いのような人間関係を煩わしく感じるのもわからなくはありません。しかし、「顔の見えるリアルなつながり」が消えていくことが、現代人が抱える「漠然とした不安」や「孤独感」の正体かもしれないのです。

近所付き合いが消えた2つの理由

なぜ、これほどまでに「近所付き合い」は失われてしまったのでしょうか。その背景には、社会構造の変化と、私たちのコミュニケーションスタイルの変容という2つの大きな理由があります。

①人口移動が分断した地域の絆

まず挙げられるのが、地方から都市部への大規模な人口移動の影響です。かつての日本は、農村を中心とした強固な共同体が近所付き合いの土台となっていました。しかし、60年代以降の高度経済成長期を経て、その姿は激変しました。

  • 地方の孤立

若者が都市部へ流出したことで、地方には高齢者が取り残されました。家族という「つながりの核」を失ったことで、それまで家族を介して維持されていた近所との交流も、自然と消滅していきました。高齢者がキレやすくなっているのは、こうした背景があるのは明らかです。

  • 都市部の「寝に帰るだけ」の生活

一方、都市部へ移り住んだ人々は、会社と自宅を往復する過密なスケジュールに追われました。「自宅は寝るための場所」となり、近所の人と顔を合わせるのはゴミ出しの瞬間のみ。これでは、新しい土地で豊かな人間関係を築く時間などあるはずもありません。

こうして、送り出した地方と受け入れた都市部、その両面で近所付き合いが減少するという現象が生じたのです。

②ネットによる弱いつながりの急拡大

目の前の人よりスマホを優先する

もう一つの決定的な原因が、インターネットとSNSの爆発的な普及です。つながりには「強いつながり」と「弱いつながり」の2種類があります。強いつながりとは、家族や親友、近隣住民など「目の前にいる、顔の見える人」との深い関係性です。これに対し、弱いつながりは、SNSのフォロワーなど「画面の向こうにいる、ここにはいない誰か」との希薄な関係性です。

ネットの急速な浸透は、人々の関心を「目の前の人」から「スマホの画面」へと奪い去りました。「近所の人と立ち話をするくらいなら、SNSを見ていたい」――そんな心理が、かつての「強いつながり」を浸食しています。

「マルチタスク化」する人間関係

「子供のブランコを片手で押しながら、もう一つの手でスマホをいじっている」「仕事の打ち合わせをしながら、スマホでメールを打っている」――こうした人の姿はもはや珍しくありません。スマホでマルチタスクすることに慣れ切ってしまい、人間関係でさえも、スマホの操作と同じように効率よく「処理」しようとしています。これでは深い信頼関係など望めるわけもなく、強いつながりが消えていくのも無理ありません。

データを見れば一目瞭然です。下のグラフは、親しく近所付き合いをしている人の割合とインターネット利用率を時系列に比較したものです。これをみると、近所付き合いの割合は90年代後半から2000年代前半に急激に低下し、その動きに呼応するようにインターネットの利用率が急上昇しているのがわかります。97年は1割に満たなかったインターネットの利用率は、5年後の2002年には57%まで急上昇しています。

画面の向こう側に夢中になるあまり、「すぐ隣にいる人」の存在が軽視される──こうした現代人の姿がデータからも伺い知ることができます。

近所付き合いの割合とネット利用率の推移

(出所)内閣府「社会意識に関する世論調査」、総務省「情報通信白書」

二つのつながりの重要性

「弱いつながり」と「強いつながり」のバランス

「友人や近所の人との付き合いが減っても、ネットで大勢の人とつながっていれば大丈夫」──そう考える人は少なくありません。しかし、その「つながり」だけで私たちの心は本当に支えきれるのでしょうか。

ネット上の「弱いつながり」には、未知の世界と瞬時に出会える素晴らしさがあります。しかし一方で、顔の見えない相手からの誹謗中傷に深く傷つくリスクも隣り合わせです。それが今のネット社会です。

私はネット上の「弱いつながり」を否定するつもりはありません。会ったことのない人と瞬時につながることは素晴らしいことです。問題は、弱いつながりに過度に依存することの危険性です。SNSで何万人ものフォロワーと常時接続していても、心理的には「ぼっち」という感覚に陥る人が多いことが様々な調査からわかっています。

いま求められているのは、ネット上の広いつながり(弱いつながり)と、リアルな深い絆(強いつながり)のバランスです。仮にネットの炎上に巻き込まれても、愚痴をこぼせる親友や、顔なじみの近所の人がいてくれれば、「災難だったな」と笑い飛ばしてくれるでしょう。

人は強いつながりという錨があるからこそ、ネット社会という自由の海を思い切って泳ぐことができるのではないでしょうか(下図)。

強いつながりと弱いつながりの関係性

歴史が教える「自由と孤独」のジレンマ

実は、この「つながりのバランス」を欠いたことで人々が苦しんだのは、今に始まったことではありません。かつてのルネサンス時代も現代のネット社会とよく似ていました。

当時の人々は、封建的な階級制度から解放され、自由に活動できるようになりました。しかし、同時に地域の共同体(コミュニティ)も解体されたことで近所付き合いが薄れ、人々は深刻な孤独と不安に苛まれるようになったのです。その結果、多くの庶民は耐えがたい「自由」から逃れるように、宗教や権威にすがってしまったのです。弱いつながりと強いつながりのバランスの重要性は歴史が証明しています。

義務感を手放し、心地よい「地域の絆」を取り戻す4つのステップ

「今さら近所付き合いなんて面倒」と感じるのも無理はありません。ネットの刺激に慣れた私たちにとって、昔ながらの濃すぎる人間関係はハードルが高いものです。しかし、ストレスなく「強いつながり」を再構築する方法はあります。ポイントは、義務ではなく「楽しさ」を基準にすることです。

1.「ご近所」の定義をアップデートする

まずは「近所付き合い=両隣との付き合い」という固定観念を見直す必要があります。「向こう三軒両隣」という言葉があるように、かつては防犯や互助のために隣近所との付き合いが不可欠でした。しかし、セキュリティが進化した現代では、治安維持のために近所付き合いをするインセンティブはそれほどありません。

近所付き合いを、「この街で、より楽しく過ごすためのつながり」と再定義する。対象を「隣の人」から「地域に住む気の合う人」に広げるだけで、気持ちがずっと楽になるでしょう。

2.地元の「お店」をハブにする

地域の強いつながりに必要なのは、楽しいと感じられる場です。自分が楽しいと思える場での対話は自然な強いつながりを生みます。

町中華、スナック、パン屋、個人喫茶店。こうした場所には、店主という「つながりのハブ(仲介役)」がいます。例えばスナックのママは、常連さんの人柄を知り抜いたマッチングの達人。お店を介することで、初対面の人とも自然に会話が弾み、心地よい「強いつながり」が生まれます。

3.「車」から「徒歩」へ移動手段を変えてみる

町中華やスナックで知り合った人のほとんどは地域に住む人ですが、なぜかお店でしか会わないものです。「お店では会うのに、外ではさっぱり見かけない」という現象が起きるのは、多くの移動が「車」で完結しているからです。地方では近所のスーパーに行く場合も車を利用します。そうなるとよほどの田舎でない限り、近くに住んでいてもばったり会うことが少ないものです。

近所に住んでいてもお店でしか会わないというのはやはり不自然です。手っ取り早い解決策は、車から徒歩移動に切り替えることです。ちょっとした買い物程度なら徒歩で移動するのです。移動を徒歩に切り替えるだけで、地域の人と偶然すれ違ったり、会釈を交わしたりする機会が劇的に増えます。この「街で顔を合わせる」という積み重ねが、不自然な関係を「自然な知人」へと変えてくれます。

4.「地域アプリ」をリアルへの架け橋にする

先にみたように、ネットは近所付き合いを弱める要因となっています。しかし、ネットを逆に強いつながりの場として活用することも可能です。

最近では、「地域の、地域による、地域のための」アプリ──「地域アプリ」が増えています。地域アプリは、顔の見えない誰かと時間を潰すためのものではなく、近所の美味しい店やイベントを知るためのツールです。

地域アプリの利点はネット空間で完結しないこと。地域アプリのコンテンツはほとんどが地元情報です。好きなラーメン店の情報を目にすれば、次の日にはその店に足を運ぶ人が増える──地域アプリはリアルという強いつながりに結びつくのです。

まとめ

「無理なく、楽しくつながる」ことが、近所付き合いを始めとする強いつながりには欠かせません。目の前の人との会話が楽しければスマホに目が行くこともなくなります。そうした強いつながりは孤独と不安を和らげてくれます。心に余裕が生まれれば、ネット上で誹謗中傷することも減るはずです。強いつながりを取り戻すことは、ネット社会の歪みをも是正する効果が期待できるのです。私たちはここで一度立ち止まって、身近な人との関係を見つめ直す時期にきているのではないでしょうか。

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