テレワーク

テレワークと出社の境目はどこ? -「Zoom疲れ」の原因は視覚系への過度な集中

【記事のポイント】

  • テレワークか出社かの判断は「生産性」で決めるのが原則
  •  一人で完結するような仕事は難易度にかかわらずテレワークが向いている。
  • 複数の人間が関わる仕事は難易度や性質に応じて臨機応変に対応
  • Zoom疲れは視覚系への過度な依存が原因
    深い議論より「ほうれんそう系」の打ち合わせが適している。
  • 企業は在宅比率のような画一的な指標で管理するのではなく、一人一人が生産性を意識しながら臨機応変に働き方を選択できるようにするべき
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出社する人が増えている

普段はテレワークの私ですが、週に1回程度、打ち合わせのために外出します。ときどき外出するがゆえに実感することは、明らかに以前より車内が混みあっていることです。2021年に入って2回目の緊急事態宣言が発令されましたが、混雑具合は特に変わらないように感じます。

下のグラフにあるように、国交省の「鉄道輸送統計調査」で旅客者数を調べると、緊急事態宣言中の4月と5月は前年比で5割近く減少していましたが、10月の調査では約2割減にまで回復しています。

電車利用者数の伸び率

電車利用者数の伸び率

テレワーク一色だった企業の姿勢にも少しづつ変化がみられます。総合商社第2位の伊藤忠商事は、一定の在宅を認めたうえで「出社が基本」という姿勢を打ち出しています。同社の鈴木善久社長は日経ビジネスのインタビューで「社員一人一人が『商人』であることを非常に大事にしています。」と述べています。店頭に立って商品を売ったり、荷物を届けたりするのが「商人」だという見方です。

出社が増えている理由は様々だと思います。伊藤忠のように自社の価値を見つめ直した上で出社を決定する企業もある中で、テレワークのほうが生産性が上がるはずなのに、環境に適応しようとせず慣れた環境に戻ろうとしている企業もあるでしょう。ペーパーレス化など在宅勤務が可能な体制を構築していても、取引先や役所が紙ベースのために出社せざるを得ないというケースもあるかもしれません。

テレワークと出社を決める要素は一つではないでしょうが、大事なことは「前に進んでいるかどうか」です。テレワークのほうが生産性が上がる業務はテレワークにすべきでしょうし、Zoom会議では自由闊達な議論ができないのであれば出社という選択もありでしょう。惰性で決めるのではなく、テレワークと出社の境目をしっかり意識することが重要だと思います。

テレワークと出社の境目

単独作業は在宅優位

テレワークか出社か。その基準はどう定めたらいいのでしょうか。

整理の仕方の一つとして提案したいのは、「仕事の難易度」と「関わる人の数」で検討する方法です。下のような図に自分の仕事をプロットし、テレワークと出社で生産性やモチベーションがどう変わるのか自問自答してみるのです。

テレワークに向く仕事と出社に向く仕事(例)

在宅に向く仕事と出社に向く仕事(例)

まず単独で完結するような仕事はどうでしょう。私の場合、原稿やブログの執筆、クライアント向け資料作成、データ分析作業などが単独作業に相当します。単純作業であれ難易度の高い仕事であれ、単独作業の場合は出社よりテレワークのほうが生産性が上がりそうです

生産性=アウトプット/コストですので、分母のコストは明らかにテレワークが優位です。アウトプットは単純作業の場合はテレワークも出社もそれほど変わらないかもしれませんが、執筆や分析作業など集中を要する仕事は圧倒的にテレワークのほうが良い成果が得られるような気がします。

問題は作業環境などインフラ面です。日本の住居は自宅で仕事をすることを前提とした作りになってませんし、自宅に小さな子供がいる場合は仕事どころではありません。私の知人は自宅に小さな子供がいるので、在宅勤務のときは近所の喫茶店で仕事をしているそうです。

ペーパーレスに対応していない場合も厳しいでしょう。典型的なのが印鑑です。作業自体は単独でできても、印鑑を押してもらうためにどうしても出社せざるを得ないケースは多いです。

ただ作業環境やインフラは時間をかけながら解決できるものですので、単独作業は「テレワークが基本」を前提にするべきだと思います。

共同作業はケースバイケース

単独作業が在宅に向くというのは比較的広く共有されているのではないでしょうか。ノマドワーカーと言われる人は、自宅だろうが旅行先だろうが、作業環境を整備してパフォーマンスを最大化しています。

これに対し、一つの作業に複数の人が関わる場合はどう考えればいいのでしょう。皆がノマドワーカーになれるわけではありません。ほとんどの人は、上司や部下、同僚などに囲まれて仕事をしています。先の図でいうと右側の領域で仕事をしているわけです。

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流れ作業は出社が優位

共同作業の課題はコミュニケーションです。プログラミングのように、仕事内容や役割が人単位で明確に区分けされていれば、メールやクラウド上で成果を共有すれば、テレワークの方が生産性が上がる場合が多いでしょう。実際、プログラミングはグローバルな分業体制で成り立っています。

一方、一つの作業を「複数の人間」で「同じタイミング」でこなさなくてはいけないような場合は、オンラインだとどうしても流れが悪くなる可能性があります。工場の流れ作業はまさにこのケースですが、経理業務のようなオフィスワークでも同じです。同じ空間で一緒に作業していたほうが全体の流れをリアルタイムで的確に把握することができますし、隣の人のミスに早く気付く効果も期待できます。

視覚系への過度な依存がZoom疲れの原因

共同で行う仕事といえば、打ち合わせや議論もそうです。「Zoom疲れ(Zoom Fatigue)」という言葉があるように、オンラインでの会議や打ち合わせでくたくたになっている人も多いと聞きます。私も何度かZoomで会議をしましたが、終わった後はどっと疲れます。

オンライン会議はなぜあれほど疲れるのでしょうか。それは脳に大きな負担がかかるからだと言われています。

下の図にあるように、脳の情報処理の流れは、①感じる(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)⇒②意味を理解する⇒③思考する⇒④判断・実行する、となります。オンライン会議の場合、視覚と聴覚で感じ(①)、話の意味を理解(②)し、内容について吟味し(③)、判断して意見を述べる(④)、という流れになります。

脳の情報処理プロセスとオンライン会議

脳の情報処理プロセスとオンライン会議

Zoom疲れの主因は①と②のプロセスにあるようです。「人は見た目が9割」という本があるように、人の知覚の割合は視覚がダントツで高く、次いで聴覚、嗅覚、触覚、味覚となります。最近はスマホ脳と言われるように、視覚系への依存が増していることが報告されています。

その視覚系に強く依存するのがZoom会議です。しかしZoom会議で多くの人が経験するように、会話中に画像が乱れたり相手の表情が読みにくいなど、リアルとはまったく違う不自由さを感じます。混乱した脳はそれを補強しようとするので疲れるわけです。

Zoom会議は深い議論に不向き

私がZoom会議で意識しているのは「深い議論はしない」ことです。不十分な視覚環境で議論をしようとすると、脳に過度な負荷がかかり、正常な思考が妨げられるからです。ブレストや深い議論をするときは、オンラインではなくリアルで直接相手の表情や空気を感じながら行うようにしています。

どうしてもリアルで議論できない場合、私は電話を利用するようにしています。視覚情報の乱れで脳が混乱するなら、聴覚だけで会話したほうが余計な負荷がかからない気がするのです。

そもそも聴覚系は視覚系より脳の機能(記憶系、思考系、理解系など)と関係が深いという研究結果もあります。スマホ脳から抜け出すにはラジオを聞けという学者もいますが、それには脳科学的な根拠があります。

Zoom会議に向いているのは、進捗報告のような「ほうれんそう系」の打ち合わせではないでしょうか。特に深い議論は要求されず進捗状況を共有するだけなので脳への負担はそれほどかかりません。Zoom飲み会も日常会話が中心ですので、多少画像が乱れても脳に負担はかからないでしょう。

テレワークか出社かは一人一人が柔軟に判断する

テレワークか出社か。現時点の私の結論は、仕事の種類や難易度に応じて各自が柔軟に判断して決めればよい、というものです。

少し歯切れの悪い結論ですが、生産性を引き上げるための手段として、テレワークか出社かを一人一人が考えることが大事だと思います。ここでいう生産性は効率性のことではなく、分母のコストと分子のアウトプットの両方を意識するということです。

そのなかで企業が意識すべき点は画一的にならないようにすることです。出社比率〇%のような目標を掲げる企業が目立ちますが、感染対策としては意味があるとしても、働き方や生産性の観点からいうとあまり意味がありません。

「今日の打ち合わせは進捗報告が中心なので在宅にしよう」「今日はブレスト会議なので出社にしよう」といった具合に、一人一人が仕事の種類や性質に応じて柔軟に働き方を選択できるようにすることが重要だと思います。