仕事をする人々

AIはあなたの雇用を「奪わない」 -胸を張って「ゆるキャラ力」を磨こう

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AI脅威論に立ちすくむ人々

コロナ禍で雇用が奪われる?

『AIに雇用を奪われる』近年、新聞・メディア・SNS等で頻繁に話題に取り上げられ、私たちを不安にさせるワードの一つです。すでにその気配をひしひし感じている人も少なくないのではないでしょうか。かくいう私も「あの分析はこの統計ソフトでもできるようになりましたので・・」と仕事を断られた経験があります。

2013年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン準教授らは、今後20年間にITの影響で「米国にある職業の約半分が失われる」との衝撃的なレポートを発表しました。2015年には野村総合研究所から「10-20年後に49%の雇用が人工知能等によって技術的に代替可能だ」というレポートが発表され、日本も決して例外でないことが確認されました。

そして今、コロナ禍でAIによる労働代替が促進されるとの見方が多くなっています。テレワークの導入で仕事の成果を可視化しようという動きが強まっています。これを機に成果主義やジョブディスクリプション制度を導入しようという経営者も増えているようです。

立ちすくむ人々

事務職をはじめとする定型的な仕事は、将来なくなる可能性が高いことは以前から警告されていました。コロナショックで不必要な雇用や非効率な人員体制があぶりだされ、一部をAIに労働代替させることで生産性が向上する。労働代替であると同時に成長への入り口でもあるとの見方には一定の真実が含まれています。

私もAIによる労働代替は避けられない流れと感じています。しかし問題は、あぶりだされた(または、あぶりだされる可能性のある)社員が、次のステップに進むためにはどうしたらよいのか、それは実現可能なものなのか、という点にあります。

最近はAIに代替されないためのスキルや思考法など、著作も数多く出ており、どれも書かれてある内容はおおむね正しいです。しかし残念ながら多くの人がすぐに身に付けられるものではありません。今までの自分の知識や経験、考え方と比較し、あまりのハードルの高さに立ちすくんでしまう人が多いように見えます。

私たちは「ジョブズ」にはなれない

ハードルが高すぎて立ちすくむ。AIに代替されないスキルや思考法とはどのようなものなのでしょう。

下の図は「ナレッジ・ファンネル(知識の漏斗)」という知識の流れを表したものです。知識は、「ミステリー(神秘)」→「ヒューリスティック(発見・パターン認識)」→「アルゴリズム(システム化)」→「コード(単純化)」という流れで進みます。

ナレッジ・ファンネル

ナレッジ・ファンネル

これを仕事に置き換えると、ミステリーはどのようにすれば良いのか全く分からない状態、ヒューリスティックは試行錯誤しながら方向性や手法がなんとなくわかってくる状態、アルゴリズムは仕事の構造やシステムが確立した状態、コードは仕事が単純化された状態となります。

この中でITによる労働代替が起こりやすいのが下流の部分、アルゴリズムとコードです。ファストフード店のようにマニュアル通りにオペレーションをこなすことを求められる仕事はここに相当します。

これに対し、「複雑な事象を整理し、課題を発見する」ミステリーとヒューリスティックが支配する仕事は今のところITでは代替できないと言われています。

スティーブジョブズはミステリーとヒューリスティックの中からiPhoneを生み出しました。 ジョブズは天才です。少し考えても上流部分のスキルはそう簡単に身に付けられるものではありません。私自身、このブログで自分の思考をさらけ出しながら上流部分の思考を鍛えたいと考えているのですが、習得したと感じるのはいつになることやら見当もつきません。

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「ゆるキャラ力」で自分の価値を高める

仕事の価値は技術力だけではない

AIに仕事を奪われないためには「複雑な事象を整理し、課題を発見するスキルを身に付けろ」。そんなこと言われても、と多くの人は尻込みしてしまうでしょう。

でも本当にそれしか道は残されていないのでしょうか。仕事とはそんなに殺伐とした厳しい世界なのでしょうか。私はそんなことはないと思いますし、そんなことはあってはならないと思います。

商品やサービスの価値を分解すると、役に立つ「機能価値」と意味やストーリーを伝える「意味的価値」に分けられます。これを仕事の価値に当てはめると、下の図のように整理できます。

仕事の価値

仕事の価値

図の右上がAIに代替されないエリア、すなわち高い技術力と課題を発見し意味を伝える力を備えたアーティストのような世界です。多くの識者はAIに勝つためにこのエリアを目指すようスキルを磨けと言っているわけです。左上はストーリーや意味を伝える力は弱いが、アルゴリズムに沿って効率的にアウトプット生み出すAIの世界です。

重要なのは図の下側です。事務職などAIに仕事を奪われそうな仕事は左下のエリアに入ります。スーパーのレジ係とAmazon GoのようなAIを駆使した無人店舗を比べれば、後者の作業が圧倒的に高い機能価値を有しています。機能面でAIに勝てないなら左上のアーティスト・スキルを身に付けろと言われてもレジ係は「だったら仕事を辞めるしかない」と思うのがオチです。

しかしアーティスト・スキルを習得しなくても、仕事を辞めずにAIと差別化する道があるとしたらどうでしょう。それを示すのが図の右下のエリアです。商品の意味を丁寧に伝えるなど、コミュニケーションを通じてAIにはできない労働価値を提供するのがこのエリアです。その人がいるだけでチームがまとまったり、ほっこりした気分にさせる「ゆるキャラ」のような人の仕事場です。

「ゆるキャラ力」とは

そもそも経済活動とは人間が営むものですので、価値の尺度も色々あっていいのです。無人レジより非効率で間違うときもあるレジ係がいるほうが好きだと顧客が思えば、それは立派な競争力になります。

実は多くの人が「ゆるキャラ力」を発揮しながら日々仕事をしています。私は「ゆるキャラ力」をAIに代替されないスキルの一つとして自覚し、極めるべきだと思います。

田舎の食品スーパーの店員

「ゆるキャラ力」は地方に行けばあらゆるところに転がっています。田舎の食品スーパーの店員もその一人です。

田舎のスーパーの価値は食品を提供するだけではありません。スーパーは地域住民のコミュニティ空間にもなっています。田舎の食品スーパーの顧客の多くは「顔なじみ」です。すれ違いざまに町内会の知らせや世間話をするのは日常茶飯事です。

スーパーの店員も地域に住民なので「顔なじみ」です。隣に無人レジがあっても、あえて顔なじみの店員のいるレジに並ぶ人がいるほどです。

食品スーパーの買物行動をPOSデータでAIに分析させるのも悪くないですが、レジ打ちの店員が持つ顧客情報のほうがはるかに高い情報価値を持つことがあります。その情報をAIが活用すれば、AIとレジ打ち店員は共存共栄の関係にもなりうるわけです。

スナックのママ

「ゆるキャラ力」だけで顧客を捉えていると言っても過言ではない。それがスナックのママの仕事です。

スナックの価値はずばり「ママ」にあります。料理はレストランで提供されるようなクオリティではありませんし、隣のコンビニで買ってきた乾きものを出されても驚きません。カラオケ設備もカラオケ専門店と比べてチープなものです。それでも通い続けるのは、ママとの会話を楽しみたいからです。

居酒屋チェーンが次々と苦境に陥る中でスナックだけは持ちこたえているのも「ゆるキャラ力」の求心力を示すものと言えるでしょう。

昔はすごかったアーティスト

私は昔から音楽が好きで趣味はギターを弾くことです。ライブにも頻繁に足を運びます。若いころに憧れていたミュージシャンが来日しようものなら多少高くても旧友らを誘ってライブに行きます。

若いころ憧れていたミュージシャンのパフォーマンスは決して「若いころのまま」というわけではありません。もちろん年齢を重ねて出る渋みもありますが、単純に「弾けなくなった」「声が出なくなった」という技術面の衰えは否定できません。

それでも「感動」してしまうのは、そのアーティストが辿ってきた苦労やストーリーと、同じように年齢を重ねてきた自分を重ね合わせ、特別な感情がこみ上げてくるからでしょう。昔はすごかったフレーズが今は完璧に弾けない。その姿もまた「ほっこり」させてくれるのです。ファンならではの心境です。

昔はすごかったアーティストの価値は、「アーティスト」と「ゆるキャラ」の中間くらいに位置づけられます。技術は多少落ちても年を重ねたストーリーが味わいを生む立派な仕事です。

「ゆるキャラ力」は企業価値を妨げない

ゆるキャラ力のような「ゆるい」ワードで経済問題を語ると、「それで企業価値は上がるのか?」という突っ込みがきます。

そうした人は先の図の上側(AIエリアとアーティストエリア)しか見えていないのでしょう。しかし先のように、「ゆるキャラ力」の仕事には売上がしっかり付いてきます。むしろ無人レジにした瞬間顧客が来なくなって売上が減ったという状況もあり得ます。

今は「ゆるキャラ力」が発揮しやすい環境になっています。技術的に決して完璧でなくても、その商品に込めた思いをSNSなどで顧客に届けることができます。ちょっとダメだけと応援したくなる。そうした「ゆるキャラ力」を持った人の仕事は、決してAIに奪われるものではありません。