食品スーパー

「無人店舗」の未来を考える -便利さの賞味期限は短い

平日午前のスーパーで起きていること

私は今年の6月から自宅をオフィスとして仕事をしています。家の中で調査結果を分析したり原稿を書いたりという生活ですので、放っとくと一歩も外にでないなんてこともありうるわけです。

さすがに一歩も外に出ない生活はマズいだろうと思い、これだけは実行しようと思ったことがあります。

毎日スーパーに行く

です。スーパーに毎日行けば多少なりとも運動になりますし、何より気分転換になります。

買い物は昼食の調達もかねて午前中に行くことが多いです。これまで午前中にスーパーに行くことなどなかった自分ですが、行ってみて気付いたこと、それはシニアが多いことです。当然と言えば当然ですが、下のグラフにあるように、

シニア世代の買い物時間のピークは午前中です。

つまり今の私と同じように、健康維持を目的とする外出機会と昼食の調達をかねて午前中にスーパーに行くのだと思います。今はシニアの最大の楽しみである旅行が満足にできない状況にありますので、スーパーに出かけることの意味は大きいのです。

年齢別に見た買い物の行動時間の分布

年齢別に見た買い物の行動時間の分布

もう一つ大きな発見がありました。午前中のスーパーは明らかに店舗の雰囲気が夕方とは違うのです。違いの正体は

顧客と店員が仲良く会話する姿

にありました。ある日レジで並んでいると、明らかに混んでいるレジ列に並ぼうとしているシニア客がいる。空いている列があるのになぜ?と思っていると、そのシニア客は笑顔でレジ打ち店員と会話をしているのです。

お目当てのレジ打ち店員と話すために多少混んでいてもそのレジ列に並ぶ。シニア客にとって食品スーパーは単に必要な商品を買う場ではなく、店員や近所の人と会話する楽しい空間でもあるわけです。

スーパーで店員との会話を求めるのは海外も一緒です。オランダのスーパー大手ユンボ(Jumbo)は2015年から顧客とのおしゃべりを業務とする「おしゃべり専用レジ係」を設置し、孤独な高齢者が孤立しないようにしているそうです。特にコロナ禍では重症化リスクの高い高齢者が強い孤独感を味わっています。唯一の外出機会となるスーパーで気兼ねなく会話ができるメリットは大きいでしょう。

AIで食材のストーリーを伝える

食品小売店は店員や近所の人と触れ合う場でもあります。一方、同じ触れ合いでも「生産者」との触れ合いを重視した空間を目指そうとしている店舗もあります。

道の駅や産直アプリを展開する「ポケマル」もそうですが、AIなど最新技術を活用して「生産者との触れ合い」を実現しようとする店舗があります。イタリアコープが2016年にオープンした「未来のスーパー(Supermercato del Futuro)」という店舗です。

腰ほどの高さの陳列棚にゆったりと並べられた野菜や果物を指さすと、人感センサーが反応し、上部にあるモニターに品種や産地、栄養成分、旬の時期、カロリーなどの情報が表示されます。


The Cuisin Pressから

この店舗は顧客が「この空間に長く居たい」と思うよう設計されているそうです。店内も顧客同士で話が弾むように、陳列棚は低く、隣の通路を見渡せるよう設計されています。

イタリアコープもAmazon GoもAIという最新技術を活用していますが、Amazon Goは利便性を重視し、イタリアコープは情緒やストーリー性を重視している点で、目指す価値空間が違います

日本の無人店舗はコモディティ化を越えられるのか

このように同じ無人店舗でも、

  • Amazon Goのような利便性を徹底追求した空間を目指すのか
  • イタリアコープのように生産者の想いや顧客同士の会話を引き出す楽しい空間を目指すのか

によって、まったく異なる店舗空間になるわけです。一番大事なのは「どのような空間にしたいのか」という店舗コンセプトです。AIはあくまで店舗コンセプトを実現するための手段に過ぎません。

日本の無人店舗はどのような店舗コンセプトを目指そうとしているのでしょう。私が見る限り、日本の無人店舗はAmazon Goのような利便性重視の空間を目指しているようです。ただ中国や米国の状況をみると、利便性重視タイプの店舗はそろそろ成長の限界がきている。利便性を重視した商品がコモディティ化しやすいのは家電製品等をみても明らかです。利便性重視の無人店舗がコモディティ化の道を辿るのは時間の問題なのです。

これに対し、ストーリー重視の店舗は地元でしか手に入らない商品や生産者情報を扱うため、コモディティ化しづらいのが特徴です。顧客同士や店員とのつながりも一つとして同じつながりはない。替えのきかないつながりはコモディティ化しないのです。

不便益」という言葉があります。少し不便なほうが人の記憶に残りやすく、伝えたい魅力を伝えやすくなることを意味する言葉です。無人店舗も便利さの中に少し不便な要素を取り入れたほうが顧客の記憶にも残りやすいはずです。利便性もストーリー性も顧客ニーズに対応したものですが、日本の無人店舗がどちらの方向性を目指すのか。これから注目して見ていきたいと思います。