富裕層はなぜコロナ禍で消費のけん引役になれないのか
さて、高齢世代が多い日本の富裕層がコロナ禍で消費のけん引役になれるのかという点です。はじめに結論を言いましたが、私は今のままで高齢富裕層にコロナ禍の消費を下支えを期待するのは難しいと感じています。以下、理由をみていきます。
【理由1】ストックリッチ・フロープア
高齢富裕層はよく「ストックリッチ・フロープア」と言われます。退職金でストックは「リッチ」になりますが、リタイア後のフロー収入は年金が主体となります。給与というフロー収入で暮らしていた現役時代と比べ、心理面で「プアな気持ち」になる人が多いのです。最近は定年延長などシニア雇用の動きも目立ちますが、現役時の収入と比べれば大きく下がる人が多いのです。だったら、
「リッチな資産を取り崩しながら消費すればいいではないか」
と感じる人も多いでしょう。まったくもって正しい意見です。しかし残念ながら日本の富裕層の多くは資産を取り崩しながら消費することに抵抗を持つ人が多いのです。なぜなら、
日本の富裕層の多くはサラリーマン出身者だからです。
生まれた時から資産収入で生活する欧米の富裕層とはそこが決定的に違います。長年染みついたフローを前提とした消費生活が日本のシニア富裕層を「資産はあっても消費しない層」にしているのです。
かつて企業は団塊世代のリタイヤ後の消費に注目したマーケティングを行いましたが空振りに終わっています。60歳定年を迎える2007年、65歳で年金が全額給付される2015年のいずれも期待したような消費の盛り上がりはみられませんでした。
このときよく言われたのが「子孫に美田を美田を残す」的な価値観が消費を妨げている、という指摘です。たしかにそうした面もあるかもしれません。しかし団塊世代はもともとは高度成長期にアクティブに消費しまくってきた世代です。つまり「フローさえあれば消費する」のが団塊世代です。
アジアの富裕層は現役世代が多いためフローが「リッチ」です。外車や高級マンションが飛ぶように売れるのはフローがリッチなせいもあるでしょう。
【理由2】外に出られない
最大の楽しみ「旅行」に行けない
もう一つ、シニア富裕層の消費を妨げているのがコロナ禍です。コロナ禍は人々の生活を外界から内界へ押し込みました。Go ToトラベルやGo Toイートもあって最近は外に出る人も多くなりましたが、多くは若い世代です。感染による重症化リスクの高い高齢富裕層はなかなか外に出られない状況が続いています。
シニア富裕層の消費の特徴は「モノよりサービス」です。特にシニア富裕層が他世代と比べて多く支出しているのが「旅行」です。
以前の記事でも説明したように、旅行市場の半分は高齢世代が支えています。高齢世代にとって旅行は「楽しみナンバーワン」です。それがコロナ禍によって奪われているわけですので、高齢富裕層の消費が盛り上がらないのも無理ありません。
ネットの時間節約サービスは高齢層に刺さらない
高齢富裕層の消費を掘り起こそうとネットサービスを展開する向きもありますが、多くは刺さってません。なぜでしょう。
理由は高齢富裕層は時間消費型のサービスを求めているからです。今のネットサービスの多くは効率的に買い物をするための時間節約型のサービスになっています。
時間に余裕のある高齢層は効率的で便利な買い物より、時間をかけてゆっくり楽しめる買い物を求めています。ネットスーパーではなくあえて近所のスーパーに毎日足を運ぶのも時間消費的なニーズがあるためです。
高齢富裕層の消費を喚起するには
高齢富裕層の消費を喚起するには、先に示した消費を妨げている2つの要因を取り去らなくてはいけません。
分配金でストックのフロー化を
ストックリッチ・フロープア問題の解決にはフロー収入を増やすしかありません。高齢富裕層がフローを増やすのはストックをフロー化することです。すなわち、
金融資産からフロー収入を得る
ことです。かつて高齢層を中心に人気を集めたのが「分配型投信」です。分配金がお小遣いのように入るので、それで孫と一緒にご飯を食べに行けるというわけです。
しかしリーマンショックで基準価額は大きく下がり、それと同時に分配金の原資は「もうけ」ではないことも明らかになりました。分配型投信は「タコ足投信」などと言われながら残高は急減していきました。
こうした経緯はあるにせよ、私は分配型投信のようなフローを生む金融商品は再評価されるべきだと考えています。そもそもタコ足分投信問題の原因は商品設計というより分配金に関する説明不足によるものです。分配金の原資は、
- インカムゲイン
- キャピタルゲイン
- 収益調整金
の3つです。1と2がゼロの場合は3から分配金がねん出される。こうした説明を丁寧にしなかったために「タコ足」と誤解されることになったのです。
もともと高齢層には分配金ニーズがあります。いま流行のインデックス投信は分配型投信より複利効果はありますが、分配金がないことで高齢層のニーズに必ずしもマッチしていません。金融機関は分配型投信のようなフローが組み込まれた金融商品の開発・販売をもっと強化すべきです。販売担当者は商品の仕組みやリスクを真摯に伝えることで、高齢層との信頼関係の構築を目指すべきでしょう。
時間節約ではなく時間消費型のネットサービスを
高齢層にネットサービスが刺さらないという問題はどう対応すべきでしょう。対応策は、
時間節約型ではなく時間消費型サービスを提供する
に尽きます。「ジャパネットたかた」はテレビというメディアを利用して高齢層の買い物需要を掘り起こしました。たかた社長の誠実な売り方が高齢層に刺さっていたわけです。テレビショッピングは時間消費型サービスの典型です。私の母親はほぼ一日中テレビショッピングのチャンネルをつけています。
「対面+時間消費」は高齢消費のキーワードです。テレビショッピングのネット版といえるのが「ライブコマース」というサービスです。店舗にいる店員がネット上で商品説明を「生」で配信するサービスはテレビショッピングと同じです。商品の良さをじっくりと説明し、顧客からの質問もその場で答えます。ライブコマースについては以下の記事で取り上げていますのでご参照ください。
こうした「対面+時間消費」型のネットサービスは高齢富裕層に刺さるはずです。コロナ禍で外に出れなくともネットでゆっくり人と話せる空間があれば財布のひもも少しは緩むのではないでしょうか。
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