ローカルスーパーの「ご当地PB」がアツい-地元企業を元気にする強さの秘密

地域に密着したローカルスーパーが手掛ける「ご当地PB」が注目を浴びています。これまでのPBと何が違うのか、どんな商品が人気なのか、人気商品はどうやって生み出されるのか──ご当地PBの魅力の秘密を探ります。

多様性増すプライベートブランド

物価高の味方「大手スーパーPB」

スーパーマーケットのプライベートブランド(PB)と聞いて何をイメージするでしょう。──おそらく多くの人は「安さ」をイメージするのではないでしょうか。食品価格上昇で節約志向が高まる中、消費者はメーカーが自社ブランドで販売するナショナルブランド(NB)よりも、割安感のあるPBを購入する傾向にあります。特にイオンのような大手スーパーが手掛けるPBは割安感がありますので、節約志向の消費者から支持されています。

節約志向による消費行動は家計調査からも確認できます。市場価格と購入価格の変化を比較すると、食品を中心に購入価格が市場価格を下回っているのがわかります(下図)。例えば、NBのお醤油が100円の値上げ、PBのお醬油が50円の値上げとなり、消費者はPBのお醤油を購入したとします。この場合、市場価格の変化は75円((100+50)÷2)、購入価格の変化は50円となり、市場価格>購入価格となります。

市場価格と購入価格の変化率(2023年)

市場価格と購入価格の変化率(2023年)
(出所)総務省「家計調査」総務省「消費者物価指数」

地域性で魅了するローカルスーパーの「ご当地PB」

一方で「PB=安い」のイメージにも変化が起きています。かつてはNBの廉価版と言われたPBですが、徹底的な低価格を訴求する「エコノミー型PB」、NBと同等の品質と割安の価格を目指す「スタンダード型PB」、高付加価値を追求する「プレミアム型PB」──という具合に、安さだけではない多様なPB商品が生まれています。

そこへ「地域性」という横串を刺したのがローカルスーパーが手掛けるご当地PBです。エリアが変われば食料品や惣菜の品ぞろえも変わります。その土地に暮らす人の好みや食文化を反映したご当地PBは、地元の従業員で構成されるローカルスーパーならではの商品といえます。

このように今のPBは、物価高に対応した割安な「大手スーパーPB」から、地元心をくすぐる「ご当地PB」まで、多彩な顔を持つ商品に進化しています。

ご当地PBの名品

ではご当地PBとは具体的にどのような商品なのか、いくつか人気商品を紹介します。

セコマの「和ミントPB」

ローカルスーパーの成功例として頻繁に取り上げられるのが北海道の「セイコーマート(セコマ)」です。同店の最大の強みは、多彩なご当地PBにあります。売上高の5割以上がPBという力の入れよう。

同店のPBで特に人気なのが北海道の北見市産と滝上町産の和ミントを使用したPB商品群です。国内で使われている天然ハッカの99%は輸入品で、残り1%の95%は滝上町産──その希少な和ミントをふんだんに使用したPBはチョコミントソフトからミントクラフトジンまで実に多彩な品ぞろえです。

値段もリーズナブル。滝上町産ハッカを使用した『Secomaミントハイボール』は350mlで128円(税抜き)。NBと同程度の価格ですが、滝上町産ハッカという価値が乗っている分プレミアム感があります。

京北スーパーの「熟成本みりん」

千葉県柏市を中心に9店舗を展開するローカルスーパー「京北スーパー」。同店のPBブランドKEIHOKUの人気商品が『三ヶ月熟成 本みりん 古式造り』です。同商品は「窪田酒造」(千葉市野田市)とのコラボ商品です。地元から生まれた正真正銘のご当地PBといえます。

もろみの熟成期間を通常2カ月のところ3カ月以上にすることで、品のよい甘みや風味で素材の旨みが引き出されます。値段は600mlで800円(税抜き)と、一般的なみりんより高価でプレミアム型PBに分類されます。

ツルヤの「りんごバター」

長野県民なら誰もが知るローカルスーパー「TSURUYA(ツルヤ)」。ツルヤのご当地PBはハイクオリティで地域色溢れる商品として、メディアでも頻繁に取り上げられています。

なかでも長野信州産のすりおろしりんごにバターを加えた『果実まるごとジャム 信州産ふじ りんごバター』は、甘酸っぱくジューシーなフジを70%使用、そこにバターのコクが加わることで、他のジャム製品にはない味わいと風味が楽しめます。値段は一瓶155gで440円(税込)と、プレミアムPBとしてはリーズナブルな価格設定になっています。

ご当地PBは小型店が似合う

ご当地PBは売り場の広い大型スーパーより、こじんまりした小型スーパーのほうが似合います。

スーパーの店舗は年々小型化が進んでいます(下図)。小型化の背景には電気代を始めとするエネルギーコストの上昇があるのは確かですが、より重要な点は顧客との距離感──大型店より小型店のほうが顧客との距離感が縮まるからです。地方に行くと大型スーパーよりコンビニで顧客と店員が仲良く会話している姿をよく目にするのではないでしょうか。

ご当地PBのようにパッケージだけをみても価値が100%伝わらないストーリー性の強い商品は、店員さんとの会話が重要な要素になります。街のパン屋さんのような距離感・空気感を出すには、小型店が相応しいのです。

食品は繊細なマーケットです。同じ地域でも町や集落レベルで食習慣や好みが異なったりすることも珍しくありません。私の実家周辺では納豆に普通に醤油とからしを入れますが、3kmほど離れた町では砂糖を入れる家庭が多くなます。

ご当地PBのように地域密着型商品の提供には商圏を限定した小型店が優位ということです。アクシアルリテイリング傘下のスーパー「原信」は、2021年秋、新潟県南魚沼市内の半径2km圏内わずか7千人を想定した小ぶりな店舗をオープンしました。都市型店でみるような出来たて総菜とともに、地域住民の嗜好に合った和菓子や漬物、豆腐などをそろえることで他店との差異化を図っています。

規模別にみたスーパーの店舗数割合の推移

規模別にみたスーパーの店舗数割合の推移
(出所)全国スーパーマーケット協会「統計・データでみるスーパーマーケット」

ご当地PBは地元企業の連携を強める

ローカルスーパーは今後よりご当地PBを強化するはずです。全国スーパーマーケット協会の調査によると、PB商品強化の動きは年々強まっており、約7割のスーパーがPB商品売上を今後増やしたいと回答しています(下図)。

今後のPB売上意向「増やしたい」回答割合

今後のPB売上意向「増やしたい」回答割合
(出所)全国スーパーマーケット協会「スーパーマーケット年次統計調査」

もっともPB商品の開発はそう簡単にはいきません。ご当地PBは地域性を取り込みやすい小型店が優位ですが、地方の小型店が自力でPB開発するのはハードルが高いのも事実です。現状は加盟団体が開発したPB商品に依存する傾向にあります。

しかし加盟団体のPB商品では対象地域の食文化に合うきめ細やかな対応は難しい。そこで有効になるのが地元企業との共同開発です。先の事例でみた京北スーパーと窪田酒造の共同開発のようなスタイルです。コラボ相手としては対象地域の食習慣や好みを熟知した「地元企業」が最適です。地元のスーパーと地元の食品メーカーが共同開発することで地元住民に刺さるPB商品が生まれる。独自の地域性を持ったPB商品は観光客や地元以外の人にとっても魅力的に映る。──こうしてご当地PBが地元企業同士をつなげ、地元経済を元気にしていくわけです。

まとめ

このようにスーパーのご当地PBは物価高という厳しい環境下でも存在感を強めています──むしろ物価高だからこそ、プチ贅沢なニーズを満たすために一層輝きを増しているといえるかもしれません。

ご当地PBはその地域の文化を象徴する商品ですので、地域の食習慣や文化を体感したいインバウンド客のニーズとも合致しています。ご当地PBは地域経済を支える可能性を秘めていると言っても過言ではないでしょう。