不二家のケーキのイメージ

【不二家③】「第3章」へ|4期連続増収が証明する「連続性×非連続性」戦略の深化

2022年に「洋菓子事業の回復は本物か」と問いかけてから3年。その答えをデータが出しています。2025年12月期の連結経常利益は前期比15.3%増の36億円、2026年12月期も前期比1.1%増の36.5億円に伸びる見通しで4期連続増収・3期連続増益という事実が、回復が一時的なものではなかったことを証明しています。

しかし今の不二家に注目すべきは数字だけではありません。「連続性×非連続性の妙味を手に入れた不二家は強い」と結論づけた戦略が、さらに深化・拡張しているのです。昭和100年企画・月替わりショートケーキ・ドーナツ専門店という新たな動きは、その証拠です。不二家はいま「回復」から「成長」という第3章に入っています。

「回復は本物か」への答え──4期連続増収が示す成長の証明

不二家の売上高・営業利益推移

不二家の売上高・営業利益推移
(出所)不二家決算資料より作成

原材料高の逆風を乗り越えて業績回復を続ける

2022年に「洋菓子事業の回復は本物か」と問いかけてから3年。その答えをデータが出しています。

道のりは平坦ではありませんでした。2023年は卵・油脂などの原材料価格の高騰、値上げ後の販売不振、さらに中国市場の急減という三重苦が重なり、営業利益は前年比68%減という厳しい局面を迎えました。「やはり回復は一時的だったのか」という声もあったはずです。

しかしその逆境を乗り越えた2024年12月期、売上高は1,100億円に迫り、営業利益は前期比67.2%増・純利益は72.5%増という驚異的な伸びを記録しました。2025年・2026年も増収増益が続く見通しで、4期連続増収・3期連続増益という事実が、回復の本物であることを証明しています。

注目すべきは、コロナ禍の巣ごもり特需がとっくに終わり、原材料高という逆風をも乗り越えた後も業績が伸び続けている点です。外部環境の追い風ではなく、戦略の確かさが数字を押し上げている。「回復は本物」どころか、不二家はいま本格的な成長軌道に入っています

店舗数は不採算整理を経て「質の高い892店」へ収斂

不二家洋菓子店の営業店舗数は不採算店や後継者不足等によるフランチャイズ店の閉鎖により892店となっています。

第1章の記事で「閉店が止まらない」と論じた時代から比べると、一見少ない数字に見えるかもしれません。しかし重要なのは数ではなく「質」です。長年赤字の温床だった不採算店を整理し、残った892店が安定的に収益を生み出している。これが今の不二家の強さの源泉です。「量から質へ」という転換は、第2章で論じた高付加価値・高単価シフト戦略の自然な帰結です。

不二家洋菓子店の店舗数推移

時点店舗数
2015年末986
2019年末829
2020年末770⇒950(スイートガーデン含む)
2021年末約1,100
2022年末959
2024年末892
(出所)不二家決算資料より作成

第3章を支える「連続性×非連続性」のさらなる深化

第2章で示した「連続性(不二家ブランドの安心感)×非連続性(驚きを与える新商品・新戦略)」という概念は、その後さらに洗練・深化しています。2025年の商品ラインナップを見ると、この戦略が体系的に機能していることがわかります。

昭和100年企画──「100年の連続性」を最大の武器に

2025年は昭和100年として、時代を彩るケーキを発売するキャンペーンを展開しています。

1910年創業・昭和とともに歩んできた不二家にとって「昭和100年」は最大の連続性アピールです。他のスイーツブランドには絶対に真似できないポジション。「100年以上続く歴史がある」という連続性を前面に出しながら、そこに「今の時代らしいサプライズ」を重ねる──これが不二家の変わらない勝ちパターンです。

月替わりショートケーキ「12の色物語」──非連続性を毎月届ける仕組み

毎月22日から月末までの期間限定で「ショートケーキ12の色物語」を発売しています。

月替わりのショートケーキというのは巧みな仕掛けです。「ショートケーキといえば不二家」という連続性(ブランド安心感)を守りながら、毎月異なる色・テーマという非連続性(驚き・話題性)を重ねる。この組み合わせが見事に機能しています。SNSで「今月の不二家ショートケーキ」を写真に撮って投稿したくなる仕掛けは、第1記事で論じた「単身世帯・若い世代のSNS文化」への完璧な対応でもあります。

「裏不二家の日」──ブラックというサプライズで若者層を取り込む

裏不二家の日」にちなんだブラックをテーマカラーにしたキャンペーンや商品を発売しています。

「ペコちゃん=ピンク・可愛い」という連続性イメージの真逆を突いた「裏不二家・ブラック」は、若者層への強烈な非連続性メッセージです。SNSで話題になりやすく、「不二家ってこんなことやるの?」という驚きが新規顧客の来店動機になります。

これは第2章で論じた「カントリーマアムチョコまみれ」の発想と同じです。定番商品の「意外な側面」を強調することで、既存ファンを驚かせながら新規顧客を引き込む。この手法を洋菓子ブランドにも展開した点に、不二家の戦略の一貫性が見えます。

「ペコちゃんmilkyドーナツ」が示す第3の成長軸

不二家初のドーナツ専門店という非連続の挑戦

2025年の不二家で最も注目すべき動きが「ペコちゃんmilkyドーナツ」専門店の展開です。2024年9月に神奈川県で不二家初のドーナツ専門店をオープン。以来大変な好評をいただき、2025年1月には東京・有明ガーデン店が常設2号店としてオープンしました。

洋菓子店でも菓子店でもない「ドーナツ専門店」という業態は、不二家にとって明確な非連続の挑戦です。しかし単なる業態拡張ではありません。ここにも「連続性×非連続性」の構造が見事に機能しています。

「ミルキー」という最強の連続性が新業態を支える

看板商品の「milkyドーナツ」は「ミルキー」に使用している北海道産練乳を練り込んだ生地を使用しており、プレーンのほかいちごやチョコレートなどさまざまなフレーバーを取り揃えています。

ミルキーは1951年発売、70年以上愛され続けるロングセラーキャンディです。「ミルキーはママの味♪」というフレーズは世代を超えて記憶に刻まれています。この最強の連続性(ミルキーブランド)を核に据えることで、「ドーナツ専門店」という非連続な業態挑戦に安心感を与えています。

カントリーマアムチョコまみれ・鬼滅コラボ・ペコちゃんミルキードーナツ──。不二家の非連続は、常に連続性という根っこを持っています。

専門店展開は「単品高付加価値戦略」の自然な延長線上にある

第2章で論じた「400円を超すプレミアムショートケーキで単身世帯の心理的抵抗を下げる」という高付加価値・高単価シフトの発想は、専門店展開にそのまま引き継がれています。

洋菓子店の片隅でドーナツを売るのではなく、ドーナツだけを売る専門店として「その商品に特化した価値」を前面に出す。専門性という高付加価値が、コンビニスイーツとの競合を避ける盾になっています。

「連続性×非連続性」戦略の本質とは何か

不二家の「連続性×非連続性」戦略マップ

不二家の「連続性×非連続性」戦略マップ
筆者作成

100年以上のブランドがあるから非連続が安心して受け入れられる

ここで改めて「連続性×非連続性」という戦略の本質を整理します。なぜ不二家の非連続(チョコまみれ・裏不二家・ドーナツ専門店)は消費者に受け入れられるのか。それは「不二家というブランドへの信頼(連続性)」が下地にあるからです。

知らないブランドが「ブラックをテーマにした商品」を出しても、消費者は警戒します。しかし「不二家がやっている」と分かれば「どんなものか試してみたい」という好奇心に変わります。連続性は非連続性の「安全装置」として機能しているのです。これこそが100年以上の歴史を持つ不二家だけが使える最強の武器です。

コンビニスイーツとの競合を超えた不二家だけの「ポジション」

第1章では「不二家がコンビニスイーツの競争に引きずり込まれている」と論じました。あれから5年。不二家はそのポジション問題を完全に解決しました。

高付加価値・高単価シフト・専門店展開・月替わり限定商品・昭和100年企画──これらはすべて「コンビニスイーツが絶対に真似できない領域」です。コンビニは効率・スピード・低価格が武器。そこに不二家は「ブランドの歴史・ストーリー・驚き」という武器で対抗しています。日常エリアと非日常エリアの中間という「かつての宙ぶらりんのポジション」から、「ブランドの歴史と驚きが交差する独自のポジション」へと移行したのです。

まとめ|不二家の第3章はどこへ向かうのか

第1章「苦境と閉店ラッシュ」、第2章「ワクワク感の回復」、そして今始まった第3章は「連続性×非連続性の本格展開」です。

4期連続増収・3期連続増益という数字は、戦略の正しさの証明です。しかしより重要なのは、昭和100年・月替わりショートケーキ・裏不二家・ペコちゃんmilkyドーナツという一連の動きが、単なる商品開発ではなく「不二家ブランドの再定義」として機能していることです。

ペコちゃんはもはや「閉店するお店のマスコット」ではありません。昭和から令和へと時代を超え、ショートケーキからドーナツへと業態を超え、ピンクからブラックへとイメージを超える──そんな「進化するブランド」として、ペコちゃんは街に戻ってきました。

不二家の第3章は、まだ始まったばかりです。

【第1章の記事はこちら】
【不二家①】不二家は苦境を脱せるか|大量閉店につながった3つの理由
【第2章の記事はこちら】
【不二家②】洋菓子事業の回復は本物か|戻ってきたワクワク感