Go Toスイッチで消費は乱高下 - 消費性向は歴史的低水準に

【記事のポイント】

  • Go Toによるストップアンドゴーで消費活動は不安定になった。
  • 結果として家計は「過剰節約」状態に陥り、消費性向は過去最低の水準に落ち込んでいる。
  • ストップアンドゴー政策の弊害は、人々が「論理」より「空気」で行動するようになってしまったこと。
  • 感染抑制と消費活動の徐行運転を実現するには、空気ではなく論理的判断を基準に行動するよう促す必要がある。

ストップとゴーで消費は乱高下

カゴの中から飛び出したものの

コロナ禍の自粛生活が長引くといつしかその生活に慣れて「飛ぶことを忘れた鳥」になる。私が今年9月に書いた「当たってほしくない」予想です。あれから数か月ほど経ちましたが、現実は予想が外れたところと当たってしまう可能性が混在しています。

予想が外れたのは若い世代の行動です。若い世代はカゴの中でじっとしていられなかったのでしょう。Go ToトラベルやGo Toイートに背中を押されてカゴの外に飛び出しました。私の近所の居酒屋も10月頃から客が増え始め、店の近くを通っただけで若いお客さんの甲高い笑い声が響いていました。

一方、私の予想が当たってしまう可能性が残っているのがシニア世代です。シニア世代は感染リスクを恐れてカゴの中から出られない状態が続いています。大好きな旅行にも行けていません。Go ToトラベルやGo Toイートも、混んでいるだろうから遠慮する、という人が多いそうです。

ストップアンドゴー以外の手段はないのか

現在、感染再拡大を受けて政府は12月14日に「Go To トラベル」を全国で一時停止することを決めました。4月の緊急事態宣言で「ストップ」、5月末の自粛解除後で「ゴー」、感染再拡大を受けた12月にまた「ストップ」というストップとゴーの繰り返しです。先日私はGo Toイートを申し込んで当選したのですが、購入期間が延長されたためまだチケットを購入できていません。飲食店を応援しようとしているのになんとももどかしい気持ちになります。

こうした感染状況をみながらのストップアンドゴー政策は本当に望ましい方法と言えるのでしょうか。若い世代は再びカゴの中に戻り、自粛が解除されたら再び飲食店に「Go To」する。消費活動は上がったり下がったりの繰り返しです。飲食店は需要を予測できず無駄な在庫が積みあがります。

政府はストップアンドゴー政策以外に感染抑制と消費活動のバランスを保つための手段を探すべきでしょう。ウィズコロナの期間が短期で済むならそれでも良いかもしれませんが、長期化した場合はその副作用は甚大なものになるからです。

ストップアンドゴー政策の弊害

ストップアンドゴー政策が消費活動に与える弊害は主に2つあります。一つは「過剰節約」ともいえる消費の冷え込み。もう一つは周りの空気に支配され自分で考えて行動できなくなることです。

「過剰節約」で消費性向は過去最低

若い世代を中心にカゴの外で消費をし始めたのは「消費しなさ過ぎた反動」です。私は居酒屋の外まで響く若いお客さん声を聞いて、自粛期間でたまった消費意欲が吹き出したのだと感じました。

それもそのはずです。下のグラフは消費性向の推移を示したものです。消費性向とは可処分所得に占める消費支出の割合ですが、コロナ禍で急低下しているのがわかります。支出で増加したのは食費(内食)くらいで他はほぼ全滅状態でしたのでこうなるのは当然です。これまでも節約志向が高まって消費性向が低下する局面はありましたが、今の状態は節約志向を超えた「過剰節約」です。

消費性向は歴史的低水準

雇用環境が悪化しているのだから仕方ないのでは、との意見もあるでしょう。たしかに雇用所得環境は決してよくはありません。しかし下のグラフにあるように、所得環境は少しづつ回復に向かっています。4月に597万人に急増した「隠れ失業」と言われる休業者数は9月には197万人と今は前年並の水準に落ち着いています。雇用所得環境も想定していたほど悪化していませんので、今の消費性向の低下はやはり異常なのです

給与所得の推移(全産業、前年比)

「論理」より「空気」が支配する

ストップアンドゴー政策のもう一つの弊害は人々が自分の頭で考えなくなることです。特に日本人は「空気を読む」のが大得意です。山本七平は著書の中で、日本人が重視する空気について下記のように表現しています。

われわれは常に、論理的判断の基準と、空気的判断の基準という、一種のダブルスタンダードのもとに生きているわけである。
そしてわれわれが通常口にするのは論理的判断の基準だが、本当の決断となっているのは「空気が許さない」という空気的判断の基準である。
山本七平「空気を読む」より

今回の場合、「Go To」を外出許可のお墨付きと捉えた人も多かったのではないでしょうか。周りを見渡しながら「国もGo Toなんて言ってるし、そろそろ外に出ていいということだよね」と空気が変わっていく。下のグラフにるように、6月以降は通勤を再開する人も増え始めました

はじめは恐る恐るだった人も外に出る抵抗感が小さくなる。それとともに感染リスクに対する意識も薄れ、居酒屋でつい大声を発してしまう。店側が感染対策を徹底しても客側がルールを守らなければ意味がありません。

論理的判断が機能していれば、居酒屋にいても飛沫を意識して大声で話すのは控えるはずです。しかし空気的判断が支配すると、周りも騒いでるから大丈夫だろうと気が緩んで一緒に大声を発してしまいます。こうした「認知バイアス」については別の記事でまとめましたのでこちらをご覧ください。

鉄道旅客者数(億人)

「過剰節約」から抜け出すには

ストップアンドゴーでは経済が持たない

私はGo Toキャンペーン自体を否定しているわけではありません。消費性向が歴史的低水準にあるのですから消費者の背中を押す政策は絶対必要です。

ただその副作用として「ストップかゴーか」という行動基準が消費者の中に出来てしまう。自分の頭で合理的に判断することをやめ、政府や周りの空気に自分の行動をゆだねてしまうのです。「ストップ」のときはカゴの中に閉じこもり、「ゴー」のときは外ではじける、といういびつな行動になります。

「ゴー」のときは空気的判断が支配しますので感染対策が不十分になって再び感染拡大が始まる。そうすると今回のように「今後3週間が極めて重要な時期だ」とストップ政策が発動し、消費は再びフリーズ期間に入ります。ゴーよりストップのほうが期間が長くなるため、結果として消費は冷え込んだままの状態が続くのです。

これではいつになっても過剰節約の状態から抜け出すことはできません。飲食店としてもストップとゴーで売上が乱高下するため、売上は予測不可能となって在庫がたまります。救えるはずの飲食店や旅館も疲弊する一方です。

一人一人が論理的判断の基準を持つ

では、感染拡大を抑えながら経済を回すというナローパスを実現するにはどうすればよいのでしょうか。

理想論かもしれませんが、空気的判断が支配するストップアンドゴー政策ではなく、一人一人が論理的判断を基準に行動することで感染抑制と消費活動の両立を目指すことではないでしょうか。国や周りの空気で勝手に判断せず、まずは正しい知識と情報をもとに自分の頭で考えてみる。外出先でもソーシャルディスタンスを常に意識しながら行動することです。

一人一人の論理的判断をベースにするというのは感染の専門家からみればかなりの暴論かもしれません。自分たちはソーシャルディスタンスを守るようメディアを通じて発信してきたし、それでも感染拡大は止められなかったのだから人の移動を止めるしかない、と。

しかし人々が専門家の言う通り感染対策を意識して行動してきたと本当に言えるのでしょうか。少なくとも緊急事態宣言解除後の人々の行動を見る限り、私にはとてもそうは思えません。

ウィズコロナが長期化するのであれば、今のように消費を乱高下させては経済が持ちません。消費を安定させるには、ストップアンドゴーのような外からの行動規制に依存するのではなく、一人一人が正しい知識をもって感染対策を実施しながら消費活動を行うしかないのです。

【追記】特別定額給付金の影響

コロナ禍の家計支援として今年5月から実施された国民一人あたり10万円を支給する「特別定額給付金」。消費性向の分母となる可処分所得には特別定額給付金分も含まれていますので、その影響で消費性向が低下している可能性はあります。

この点を確認するため、今年5月以降の可処分所得を前年と同水準に仮定し、消費性向を再計算したのが下のグラフです。たしかに消費性向は2ポイントほど上がりましたが、低下トレンドを変えるほどの影響はみられません。

消費性向の比較「特別定額給付金を含むケースと含まないケース」

特別定額給付金で一時的に所得が上がっても、それを消費に回す家計は多くなかったということです。auじぶん銀行の調査では、特別定額給付金の使い道を聞いたところ、全国の4割の人が「貯金をしている」と回答したそうです。それだけ先の見えない不安を抱える家計が増えているということかもしれません。

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