コロナ禍に適したプレミアム付商品券とは
このように、プレミアム付商品券は目的によってかなり条件が変化します。何が目的なのかを明確にしたうえで、自治体はそれを購入者にしっかり伝えることが必要です。色々な声を少しづつ取り入れたプレミアム付商品券は道具としての切れが悪くなります。
コロナ禍ではどのようなプレミアム付商品券が望ましいのでしょうか。コロナ禍でもっとも苦しんでいるのは飲食店や観光宿泊業者です。
先の3つのタイプの中では「事業者支援」のプレミアム付商品券になります。購入対象者は特に限定せず、店舗は地元の飲食小売、旅館などの中小店、プレミアム率はなるべく低く、となります。
下の図はプレミアム率と対象店舗の人気度の関係を示したものです。当然ですが、対象店舗の人気が高ければ低いプレミアム率でも商品券は売れます。一方、あまり人気のない中小店が対象の場合、そのままだと高いプレミアム率を設定しなければ売れ残りリスクが生じます。プレミアム率が高いと消費拡大効果が低くなるため、そこを自治体が地元の応援マインドを刺激することで、低いプレミアム率でも売れ残らない商品券にする必要があるのです。
応援マインドを刺激してプレミアム率を引き下げる
しかし長沼町のケースをみてもわかるように、今のプレミアム付商品券の多くはプレミアム率の高さで「お得感」は出せても、応援マインドは十分引き出せていません。売れ残りを恐れて購入制限を撤廃した長沼町は、応援マインドを引き出す努力が不足していることを露呈しています。買占めとか不公平という言葉が住民が出てくるのも本来の目的を住民に伝えていないからでしょう。
コロナ禍のプレミアム付商品券のキーワードはお得感でなく地元企業への「応援」です。自治体には応援マインドを引き出すマーケティング力を発揮してもらいたいものです。
【追記】
対象店舗に大手チェーンが含まれている件
読売新聞でプレミアム付商品券についてインタビューを受けました(10/22朝刊掲載)。担当記者さんが各地のプレミアム付商品券の状況を調べてくださったのですが、対象店舗には大手チェーンなど大型店舗が含まれているケースがほとんどでした。
現在各地で展開されているGo toイートも対象店舗に大手チェーンが多く含まれています。売れ残りを避けるために人気店を入れたい気持ちはわかります。消費刺激や景気対策が目的であればそれでいいでしょう。
しかし今本当に必要なのは体力的に限界がきている中小飲食店を支援することです。生活者支援でもなく景気対策でもなく、事業者支援を目的とした設計にしなくてはなりません。
売れ残りを心配する前に、自治体にはもう少し目的意識を明確に持ってもらいたいと思うのは言い過ぎでしょうか。
都市部でプレミアム付商品券を売ることの難しさ
先日、朝日新聞さいたま支社から、さいたま市のプレミアム付商品券について電話取材を受けました。記者の方からさいたま市の状況をお聞きして気付いたこと。それは都市部でプレミアム付商品券を売ることの難しさです。
さいたま市では1万円で1万2千円(プレミアム率20%)の買い物ができる「がんばろう さいたま!商品券」が売り出されています。販売期間は10月12日~11月10日ですが、締め切り1週間前だというのに半数程度しか売れていないそうです。
販売不振の理由として以下の2点があげられます。
① さいたま市民は市内より東京にお金を落とす
② 顧客とお店が顔の見える付き合いになっていない
①はさいたま特有と言える現象かもしれません。「埼玉都民」と言われるように、さいたま県は東京都区内に通勤・通学する人が多い県で知られています。ちょっとした買い物もさいたま市より池袋に出る人が多いと聞きます。さいたま市より東京都区内で消費する人が多いということは、さいたま市の飲食店が登録されているプレミアム付商品券をみても当のさいたま市民には「刺さらない」可能性が高いということなのです。日常的に利用するお店が市内にあまりないのであれば商品券が売れ残るのも無理ありません。
②は大都市に関する問題です。地方の田舎で発行されるプレミアム付商品券の登録店は一度は行ったことのあるお店です。店主と顔なじみになっているお店も多く、コロナ禍で大変な状況にあることも知っています。プレミアム付商品券に対しても「応援したい」という気持ちで購入する人も多いようです。一方、さいたま市のような大都市の場合、田舎と比べてお店と顧客が顔の見える関係になっていないわけです。プレミアム付商品券に対する反応も応援よりどれだけ「お得か」に関心が集まり、20%程度のプレミアム率ではお得感が引き出されないのではないでしょうか。
プレミアム付商品券は「応援」マインドをどれだけ引き出せるかが鍵です。さいたま市のような大都市でプレミアム付商品券を売ることの難しさを痛感した取材でした。
長沼町のその後 住民説明を受けて
本稿をリリースした後(11/16)、北海道長沼町の町民の方からメールをいただきました。この件(1世帯当り購入上限を一時撤廃し複数人に大量販売した問題)について町から説明をしてほしい旨の申し入れをし、回答を聞いてきたそうです。
今回のプレミアム付商品券の事業目的について町は「商工業者の救済」と回答したそうです。しかし住民側は、①プレミアム率が大きかったこと(60%)、②町民全世帯に行き渡る数の発行であったことから、「生活支援」と捉えた人が多かったようです。
つまり、自治体と住民の間でプレミアム付商品券事業の目的が共有できていなかったことが今回の問題の根底にあるということです。「地元事業者の救済」という目的を自治体と住民が共有できていれば、売れ残りは事業者救済にならないため、住民側としても、購入上限の一時撤廃はやむを得ない、と受け止めた可能性は十分あります。
多くの自治体はプレミアム付商品券の発行目的をしっかり説明できていません。長沼町のケースは氷山の一角ではないかと思います。
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