プレミアム付商品券

コロナ禍のプレミアム付商品券はどうあるべきか -「お得」か「応援」か?

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批判浴びる長沼町のプレミアム付商品券

購入額を上回る買い物ができる「プレミアム付商品券」。2015年に導入されたのがはじめで、消費増税後の消費の落ち込みや家計の負担緩和を抑える目的で行われてきた事業です。

このプレミアム付商品券、なにかと批判の多い政策としても知られます。「ばらまきにしかならない」「消費刺激効果が小さい」「低所得者に行き届かない」「地元以外の人が買っている」などなど。

最近では、北海道の長沼町がプレミアム付商品券の販売方法について批判を浴びています。売れ残りを懸念した自治体が購入上限を一時撤廃し、複数人に1人当たり100万円以上の大量販売をしていたそうです。

プレミアム付商品券について時々取材を受けるのですが、私が肯定的な意見を述べると記者さんの多くは「え?」という顔をされます。たしかにシンクタンクのレポートでは「消費刺激効果はあまり期待できない」といったトーンが多いですし、長沼町のようなケースはプレミアム付商品券がいかにも公平性を欠く事業という印象を与えています。

なぜあちこちから不満が出る?

どうしてプレミアム付商品券には多くの批判や不満が出るのでしょう。仕組みや制度に致命的な欠陥でもあるのでしょうか。

これについて私が思うのは「道具に罪はない」です。包丁の歯が欠けていたりしたら道具に問題ありとなりますが、プレミアム付商品券には道具としての欠陥はないと思っています。

問題は道具でなにを切ろうとしているのか。魚を裁くのであれば刺身包丁が必要ですし、リンゴをむくのであれば小さなナイフでいいわけです。「目的」に合った「道具」があってはじめて良い結果が出せます。

ではプレミアム付商品券の目的とは何でしょう。消費の落ち込みを抑えたい政府苦しい生活をなんとかしたい地域住民売上げの落ち込みを食い止めたい飲食店など目的は様々です。

政府、地域住民、事業主。それぞれがそれぞれの目的でプレミアム付商品券に期待しているわけですが、予算に限りがある以上、残念ながらすべてのニーズを満たすプレミアム付商品券は存在しません。

プレミアム付商品券の特徴は「レバレッジ」

レバレッジという言葉をご存じでしょうか。金融用語ですが、言わんとするのは「少ない金額でより多くの効果を引き出すこと」です。

プレミアム付商品券は政府・自治体が負担するプレミアム分購入者のポケットから支出される分で構成されています。12,000円のプレミアム商品券の場合、プレミアム率を20%とすると、2,000円が政府・自治体負担、10,000円が購入者支出となります。1枚あたり2,000円の予算で12,000円の消費支出を引き出すことができる。これがレバレッジ効果です。

定額給付金は2,000円を配るだけですので、消費喚起策としてはプレミアム付商品券のほうがはるかに大きくなります。

レバレッジ効果は「プレミアム率」によって大きく変化します。予算額が100億円だとします。プレミアム率を20%とすると、プレミアム額は10,000円あたり2,000円です。1万円で12,000円の買い物ができる。なかなかお得です。
そうすると発行枚数は500万枚(100億円÷2000円)になりますので、消費総額は500億円(1万円×500万枚)です。

ではプレミアム率を100%にしたらどうでしょう。プレミアム額は1万円あたり1万円ですので1万円で2万円の買い物ができる。かなりお得です。
しかし発行枚数を計算すると100万枚(100億円÷1万円)、消費総額は100億円(1万円×100万枚)に減少します。

プレミアム率20%で500億円、プレミアム率100%で100億円。プレミアムが5倍になれば消費効果は5分の1に下がる。購入者のお得は事業者の損になる。まさにジレンマです。

目的によってこれだけ条件が変わる

このようなプレミアム付商品券の仕組みを知れば、すべての期待を満たすプレミアム付商品券は作れないということがわかるでしょう。

生活者を支援するのか、事業者を応援するのか、景気を刺激するのか。目的によってプレミアム付商品券の条件がどれだけ変わるのか見ていきましょう。

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生活者支援

生活不安を抱える家計を支援する。生活者支援の定番は定額給付金ですが、プレミアム付商品券の生活支援バージョンはどのような設計になるのでしょうか。

まず購入対象者をどうするのか。昨年2019年に発行されたプレミアム付商品券は消費税率10%の引き上げによる家計の負担緩和を目的とした生活支援型です。このときは、低所得者と子育て世帯(0-2歳児)に対象を限定しています。生活支援なので、増税で本当に困っている世帯にピンポイントで発行するのは理にかなっています。

対象店舗をどうするか。生活者支援なので、生活に不可欠な食品や日用品がおいてある食品スーパーやドラッグストアなどが相応しいでしょう。対象を日用品に限定すると、経済効果はあまり期待できません。普段購入する商品がプレミアム付商品券に置き換わる形になるからです。

プレミアム率はどうでしょう。購入商品が生活必需品であればあまり高く設定しなくても売れ残るリスクは低いです。2019年のときは25%で設定されました。ただ目的が生活者支援なので、予算が許す限り高めにするべきとは思います。

整理すると、生活支援を目的としたプレミアム付商品券は、購入対象者は生活に困っている世帯店舗は日用品が置いてあるお店プレミアム率はなるべく高く(ただ低くても売れ残りリスクは小さい)となります。

事業者支援

事業者を支援するプレミアム付商品券の目的は地元企業を応援することです。

購入対象者は特に限定する必要はないと思いますが、地元店舗への応援マインドは地元住民が強いはずなので、地域住民とするのが望ましいのかもしれません。ただ私のような東京在住・地方出身者もふるさとへの応援マインドは持っているので、売れ残りリスクをみながら対象を広げるやり方もありでしょう。

対象店舗は売り上げの落ち込みに悩む地元の中小企業が望ましいでしょう。コロナ禍の今であれば中小の飲食小売店や旅館などです。相対的に体力のある大手チェーン店はなるべく対象に入れないほうがよいと思います。

悩ましいのがプレミアム率です。地元飲食店の売上げ減少を止めることが目的なので、なるべく低いプレミアム率で発行枚数を多くし、高いレバレッジ効果を引き出す必要があります。

しかし対象店舗を地元の中小店に限定すると売れ残りリスクが出てきます。かといってプレミアム率を引き上げると発行枚数が減少してレバレッジ効果が低下する。大手チェーン店まで対象に入れると本当に困っている中小店にお金が回っていかない。ジレンマです。

そこで重要になるのが自治体のマーケティング力です。必要なのは「地元企業を応援する!」という強いメッセージを打ち出すこと。住民は「プレミアム付商品券=お得」というイメージが強いかもしれないので、今回は「地元企業の応援」が目的ですよ、とアピールしなくてはいけません。これを怠ると長沼町のような残念なケースになります。

整理すると、事業者支援を目的としたプレミアム付商品券は、購入対象者は特に限定しない店舗は地元中小店プレミアム率はなるべく低く(自治体が応援マインドを引き出すことで売れ残りリスクを低減)となります。

景気対策

景気対策のためのプレミアム付商品券とはどのようなものでしょう。

購入対象者は特に限定する必要はないでしょう。不公平という声もあるかもしれませんが、目的はあくまでマクロの景気対策なので、消費余力のある人に多く支出してもらうほうがいいのです。

対象店舗は日用品より非日常的なサービスを提供するお店がよいでしょう。日用品だといつも購入している商品がプレミアム付商品券に置き換わるだけなので経済効果は低くなります。レジャー施設や旅館など、プレミアム付商品券がなかったら支出しないような商品・サービスが望ましいわけです。

プレミアム率は可能な限り下げ、レバレッジ効果を高くして多くの支出を引き出すことが必要です。人気店を選択することで売れ残りリスクを回避することも求められます。

整理すると、景気対策を目的としたプレミアム付商品券は、購入対象者は特に限定しない店舗は非日常サービスを提供する人気店プレミアム率はなるべく低く、となります。

コロナ禍に適したプレミアム付商品券とは

このように、プレミアム付商品券は目的によってかなり条件が変化します。何が目的なのかを明確にしたうえで、自治体はそれを購入者にしっかり伝えることが必要です。色々な声を少しづつ取り入れたプレミアム付商品券は道具としての切れが悪くなります。

コロナ禍ではどのようなプレミアム付商品券が望ましいのでしょうか。コロナ禍で今もっとも苦しんでいるのは飲食店や観光宿泊業者です。

先の3つのタイプの中では「事業者支援」のプレミアム付商品券になります。購入対象者は特に限定せず、店舗は地元の飲食小売、旅館などの中小店、プレミアム率はなるべく低く、となります。

下の図はプレミアム率と対象店舗の人気度の関係を示したものです。当然ですが、対象店舗の人気が高ければ低いプレミアム率でも商品券は売れます。一方、あまり人気のない中小店が対象の場合、そのままだと高いプレミアム率を設定しなければ売れ残りリスクが生じます。プレミアム率が高いと消費拡大効果が低くなるため、そこを自治体が地元の応援マインドを刺激することで、低いプレミアム率でも売れ残らない商品券にする必要があるのです。

応援マインドを刺激してプレミアム率を引き下げる

応援マインドを刺激してプレミアム率を引き下げる

しかし長沼町のケースをみてもわかるように、今のプレミアム付商品券の多くはプレミアム率の高さで「お得感」は出せても、応援マインドは十分引き出せていません。売れ残りを恐れて購入制限を撤廃した長沼町は、応援マインドを引き出す努力が不足していることを露呈しています。買占めとか不公平という言葉が住民が出てくるのも本来の目的を住民に伝えていないからでしょう。

コロナ禍のプレミアム付商品券のキーワードはお得感でなく地元企業への「応援」です。自治体には応援マインドを引き出すマーケティング力を発揮してもらいたいものです。

【追記】

対象店舗に大手チェーンが含まれている件

読売新聞でプレミアム付商品券についてインタビューを受けました(10/22朝刊掲載)。担当記者さんが各地のプレミアム付商品券の状況を調べてくださったのですが、対象店舗には大手チェーンなど大型店舗が含まれているケースがほとんどでした

プレミアム付商品券に関する読売新聞の記事

現在各地で展開されているGo toイートも対象店舗に大手チェーンが多く含まれています。売れ残りを避けるために人気店を入れたい気持ちはわかります。消費刺激や景気対策が目的であればそれでいいでしょう。

しかし今本当に必要なのは体力的に限界がきている中小飲食店を支援することです。生活者支援でもなく景気対策でもなく、事業者支援を目的とした設計にしなくてはなりません。

売れ残りを心配する前に、自治体にはもう少し目的意識を明確に持ってもらいたいと思うのは言い過ぎでしょうか。

都市部でプレミアム付商品券を売ることの難しさ

先日、朝日新聞さいたま支社から、さいたま市のプレミアム付商品券について電話取材を受けました。記者の方からさいたま市の状況をお聞きして気付いたこと。それは都市部でプレミアム付商品券を売ることの難しさです。

さいたま市では1万円で1万2千円(プレミアム率20%)の買い物ができる「がんばろう さいたま!商品券」が売り出されています。販売期間は10月12日~11月10日ですが、締め切り1週間前だというのに半数程度しか売れていないそうです。

販売不振の理由として以下の2点があげられます。

① さいたま市民は市内より東京にお金を落とす
② 顧客とお店が顔の見える付き合いになっていない

①はさいたま特有と言える現象かもしれません。「埼玉都民」と言われるように、さいたま県は東京都区内に通勤・通学する人が多い県で知られています。ちょっとした買い物もさいたま市より池袋に出る人が多いと聞きます。さいたま市より東京都区内で消費する人が多いということは、さいたま市の飲食店が登録されているプレミアム付商品券をみても当のさいたま市民には「刺さらない」可能性が高いということなのです。日常的に利用するお店が市内にあまりないのであれば商品券が売れ残るのも無理ありません。

②は大都市に関する問題です。地方の田舎で発行されるプレミアム付商品券の登録店は一度は行ったことのあるお店です。店主と顔なじみになっているお店も多く、コロナ禍で大変な状況にあることも知っています。プレミアム付商品券に対しても「応援したい」という気持ちで購入する人も多いようです。一方、さいたま市のような大都市の場合、田舎と比べてお店と顧客が顔の見える関係になっていないわけです。プレミアム付商品券に対する反応も応援よりどれだけ「お得か」に関心が集まり、20%程度のプレミアム率ではお得感が引き出されないのではないでしょうか。

プレミアム付商品券は「応援」マインドをどれだけ引き出せるかが鍵です。さいたま市のような大都市でプレミアム付商品券を売ることの難しさを痛感した取材でした。

長沼町のその後 住民説明を受けて

本稿をリリースした後(11/16)、北海道長沼町の町民の方からメールをいただきました。この件(1世帯当り購入上限を一時撤廃し複数人に大量販売した問題)について町から説明をしてほしい旨の申し入れをし、回答を聞いてきたそうです。

今回のプレミアム付商品券の事業目的について町は「商工業者の救済」と回答したそうです。しかし住民側は、①プレミアム率が大きかったこと(60%)、②町民全世帯に行き渡る数の発行であったことから、「生活支援」と捉えた人が多かったようです。

つまり、自治体と住民の間でプレミアム付商品券事業の目的が共有できていなかったことが今回の問題の根底にあるということです。「地元事業者の救済」という目的を自治体と住民が共有できていれば、売れ残りは事業者救済にならないため、住民側としても、購入上限の一時撤廃はやむを得ない、と受け止めた可能性は十分あります。

多くの自治体はプレミアム付商品券の発行目的をしっかり説明できていません。長沼町のケースは氷山の一角ではないかと思います。