右肩上がりで成長するアイスクリーム
巣ごもり生活でささやかな「ハレの日気分」
- 息の長いブームが続くスイーツ
- 家計のスイーツ支出額No1
- 季節を問わないスイーツ
- 世代を超えて親しまれるスイーツ
それがアイスクリームです。何を隠そう、私はコンビニに立ち寄ると必ずと言っていいほどアイスクリームを手に取ってしまうスイーツオヤジです。最近は健康のため少し控えるようにしていますが、それでも店頭でアイスクリームの姿を見かけると確実にテンションが上がります。
アイスクリーム人気はコロナ禍の巣ごもり生活でも健在です。下のグラフは家計のアイスクリーム支出額をみたものです。2019年後半頃から急上昇しており、その勢いのまま2020年以降も高水準を維持しているのがわかります。特に2021年7月は記録的な猛暑でしたので、支出額が跳ね上がっているのが確認できます。
アイスクリームは家の中でも外でも場所を問わず好まれる商品ですが、コロナ禍ではもっぱら家の中でアイスクリームを食べる人が増えました。サーティーワンなどのテイクアウト需要は好調だったようです。巣ごもり生活で気分が落ち込む中、アイスクリームはささやかな「ハレの日気分」を味わうデザートになっていたのではないでしょうか。
家計のアイスクリーム支出額の推移
価格が上がっても需要は衰えない
アイスクリームの人気の強さは価格に対する消費者の反応にも表れています。2021年度のアイスクリームの販売単価は10年前より約2割上昇していますが、購入頻度は約5割も上昇しています。特に2020年以降はバニラ豆など原材料価格が高騰している影響で値上げが進んでいるのですが、アイスクリームに関しては買い控えなど存在しないかのようです。
アイスクリームの販売単価と1世帯当たり購入頻度の推移
価格が上がってもアイスクリーム人気に衰えが見られないのは、魅力的な商品がどんどん投入されているからでしょう。例えば2021年11月に発売されたカップアイス「MOW PRIME(モウ プライム)」(森永乳業)は180円(税別)です。通常のMOWより40円高いのですが、計画をはるかに上回る売れ行きです。
「値下げは正義・値上げは悪」と言われる中、アイスクリームのような「高くても売れる」商品がどんどん増えてくれば、「価格が上がっても賃金があがらない問題」の解決につながるかもしれません。価格と賃金の関係性については以下の記事で詳述しています。
明暗分かれるコロナ禍のスイーツ市場
ではアイスクリーム以外のスイーツはどうなのでしょうか。
下の表にあるように、2021年の月間支出額(平均値)をみると、スイーツ13品目の中でコロナ禍前(2019年)を上回ったのは5品目、下回ったのは8品目と品目によって明暗が分かれる格好となっています。
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このようにコロナ禍のスイーツ支出は和菓子と洋菓子で明暗が分かれた格好です。特にスナック菓子、チョコレート、アイスクリームは巣ごもり3大スイーツとなっています。
家計の月次スイーツ支出額
2021年 | 2019年 | 前年比 | |
---|---|---|---|
ようかん | 665円 | 674円 | -1.3% |
まんじゅう | 816円 | 1,092円 | -25.3% |
カステラ | 804円 | 810円 | -0.7% |
ケーキ | 7,716円 | 6,994円 | 10.3% |
ゼリー | 1,969円 | 2,292円 | -14.1% |
プリン | 1,721円 | 1,587円 | 8.4% |
せんべい | 5,719円 | 5,869円 | -2.6% |
ビスケット | 4,056円 | 4,121円 | -1.6% |
スナック菓子 | 5,315円 | 4,851円 | 9.6% |
キャンデー | 2,218円 | 2,338円 | -9.4% |
チョコレート | 6,664円 | 6,783円 | -1.8% |
チョコレート菓子 | 2,185円 | 1,726円 | 26.6% |
アイスクリーム・シャーベット | 10,148円 | 9,701円 | 4.6% |
アイスはスイーツ市場の王者
コロナ禍でも順調に伸びているアイスクリーム。スイーツ市場全体を眺めながら強さの秘密を探っていきましょう。
ツートップは「アイスクリーム」と「チョコ」
私のようなオヤジ世代がスイーツと聞いて思い浮かべるのは「ケーキ」です。しかしケーキはもはやスイーツ界の王者とはいえなくなっています。今のスイーツ市場の王者はアイスクリームです。2番手がチョコレート、ケーキは3番手なのです。
下のグラフは家計のスイーツ支出額を時系列でみたものですが、ケーキの支出額は2009年にアイスクリームに抜かれています。その後、2016年にはチョコレート(チョコレート菓子を含む)にも抜かれているのです。ただコロナ禍の巣ごもり需要によってケーキは再び人気が高まっており、今後に注目したいところです。
「アイス、チョコ、ケーキ」家計の月次支出額の推移
「アイスクリーム」強さの秘密
冬アイスで通年型デザートへ
スイーツの王者となったアイスクリーム。その強さはどこにあるのでしょうか。
一つはアイスクリームが夏だけのデザートではなくなったことです。「冬アイス」が一時流行語になりましたが、アイスクリームはもはや夏のデザートではなくケーキや和菓子と同じ「通年型デザート」になりつつあります。
夏のアイスの利点は「暑さをやわらげる」こと。濃厚な味が特徴の冬アイスは「息抜き」や「癒し」で消費者を惹きつけます。アイスメーカーとしては、仮に夏場の売上が伸びなくても冬アイスで売上の落ち込みをカバーできるようになりました。
アイスクリームが季節を問わないスイーツになっている点をデータで確認してみます。下の図は気温とアイスクリーム支出の関係を日次でみたものです。当然ですが、気温が高いほどアイスクリームの支出額が増える傾向がわかります。
しかしこの図をよく見ると、気温が低いときのアイス支出に興味深い変化が起きています。気温が5度未満の冬場でアイスクリームの支出額が顕著に増加しているのです。「冬アイス」現象を捉えたデータと言えるでしょう。
気温とアイスクリーム支出額の関係
アイス好き地域は「福島」「青森」
アイスクリームが通年型デザートになってきたことは地域別のアイス支出からも確認できます。普通に考えると、気温の低い地域より高い地域のほうがアイスクリーム支出が多いと想像できますが、実際にはそのような関係性はみられません。
アイスクリーム・シャーベットの1世帯当たり年間支出額(2017~2021年平均)を都道府県所在市別にみると、
1位:金沢市
2位:福島市
・・・
47位:沖縄市
となっています。最下位はなんと那覇市。アイスクリームは気温の高い地域で好まれるわけではないことがわかります。アイスクリームと地域の関係については、
「アイス支出額ランキング」=「アイス好きランキング」とは限らない |
ということです。メディア等では「支出額」を使って都道府県ランキングを発表します。しかし「アイスが好きかどうか」を表す指標は支出額より「支出全体に占める割合でみるべき」という考え方もあります。支出全体の中でアイスクリームがどれほどの割合を占めるのか、その割合が大きいほど他の支出を削ってアイスクリームを選択していると考えるのです。
そこで支出全体に占めるアイス支出の割合でランキングし直すと、1位「福島市」2位「青森市」と東北勢がトップ2に浮上します。消費支出額で1位の金沢市は8位に低下します。私は東北出身者なのでこの結果にそれほど違和感はありません。なぜなら、
コタツに入りながら食べるアイスは格別の味 |
なのです。外は極寒なのに自分は家の中でアイスを食べている。この何とも言えない優越感が寒い地域の冬アイスの魅力なのです。
地域別に見たアイスクリーム・シャーベットの消費ランキング
「子供のおやつ」から「大人のデザート」まで
アイスクリームの強さ。もう一つの理由は、アイスクリームが世代を選ばないスイーツになったことです。
私が子供のころのアイスは、学校帰りに駄菓子屋で友達と立ち食いをしたり、母親がスーパーで買ってきてくれる「子供のおやつ」でした。
しかしここ数年は私のように会社帰りにコンビニで購入したり、飲んだ後のデザートにするなど「大人のデザート」として広がりをみせています。アイスバー「PARM(パルム)」は昨年30~60代をターゲットとした「キャラメル&チョコレート味」を販売しました。メーカー各社は大人向けの高級感ある商品を投入しています。
シニアのデザートは和菓子、というのはもはや過去の話になりつつあります。家計調査などで確認してもシニア世代の和菓子への支出は大きく減少している中、チョコやアイスの支出は急増しています。
和菓子からアイスへのシフト化は、今のシニア世代が育った環境も関係していると思われます。戦中生まれの世代と違い、団塊世代を中心とする今のシニア世代は子供のころからアイスを食べて育ってきた世代です。今のシニア世代にとってアイスクリームが身近なスイーツなのでしょう。
日本のアイスブームはまだ終わらない
これだけアイスクリーム・ブームが長く続けば、そろそろ飽和感がでてきてもおかしくないところですが、日本のアイスクリーム市場はまだ拡大余地が残っています。
日本アイスクリーム協会の資料では、アイスクリームの一人当たり消費量を国別に比較すると日本はまだ17位です(2016年)。1位のオーストラリアの一人当たり消費量は19.3リットルです。日本は6.5リットルですので約3倍の開きがあります。
アイスクリームの購入先も重要です。オーストラリアのアイスクリームの約3割は外食先で消費されています。オーストラリアではケーキを頼んでもアイスクリームが当たり前のように添えられるという話を聞きます。
日本ではアイスクリーム消費の9割がコンビニなど小売店経由です。レストランのデザート・メニューにもアイスクリームはありますが、ケーキのようなバリュエーションはないように思えます。
外食店がアイスクリームに力を入れるようになれば、日本のアイスクリーム市場は質量ともに多様でダイナミックな市場に変化する可能性は十分あります。日本のアイスブームはまだ終わりそうもありません。