躍進するチョコザップ
抜群のコスパと手軽さを売りに人気を呼んでいるコンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」。2023年ヒット商品の2位(日経トレンディ23年12月号)に選ばれるほどの快進撃を続けています。私の近所にもチョコザップが数件できていました。それもそのはず、会員数はあっという間に80万人を超え(23年9月)、2022年7月のサービス開始から僅か1年余りで業界トップに躍り出ました。
フィットネス各社の会員数推移
注目すべきはチョコザップが他のフィットネス店の顧客を奪うことなく伸びている点にあります。これまでフィットネスクラブ業界は過当競争による会員の奪い合いが課題になっていましたが、チョコザップは過当競争を助長するかたちにはなっていないのです。
チョコザップの会員はこれまでフィットネスクラブに通ったことのない若い世代が多く、筋トレ愛好家のような「ガチ勢」はほぼいません。男女比はほぼ半々(男性47%、女性52%)で、男性会員が8割弱を占めるエニタイムフィットネスや女性限定のカーブスとは異なるのです。
チョコザップが短期間でここまで躍進したのはなぜか。一部の人が行うものだった筋トレがウォーキングのように大衆化する可能性はあるのか。チョコザップ躍進から透けて見える筋トレ市場の将来像について考えてみたいと思います。
チョコザップ会員の年代別割合
コロナ禍の運動不足で若い世代が家トレ
コロナ禍の運動不足がもたらす不安感がチョコザップの躍進につながっているのは間違いありません。私の周りにもコロナ禍で体重が一気に増加して困惑している人が多くみられました。コロナ禍の運動と不安感の関係を調べた調査によると、筋トレをしている人と比べ、筋トレを全くしていない人の不安はかなり大きくなる傾向がみられるようです。
運動不足に対して特に危機感を持ったのは、これまで運動する習慣がなかった若い世代です。若い世代はそもそも基礎代謝が高いため、運動不足で不安になる人は少ないはず。しかしコロナ禍の巣ごもり生活は若い人でさえ「何もしなければ体重が増加してしまう」ほどの事態だったということでしょう。
アンケート調査結果をみると、コロナ禍で新たに始めた健康面のケアとして、20代男性では「筋トレ」と回答した人が最も多くみられます(下図)。20代女性でも筋トレはヨガ・ストレッチに次いで高い結果となっています。ダンベルやバーベルなどのトレーニング用品の輸入額が20年に入って急増していますので、若い世代中心に家トレをする人が増えたことが伺えます。
筋トレはメンタル面にも効果があることが知られています。筋トレをすると、幸せホルモンとも呼ばれる「セロトニン」という脳内ホルモンの分泌され精神が安定します。筋トレは「やる気スイッチ」を入れる効果もあります。男性ホルモンの代表であるテストステロンが分泌されることで闘争心が湧きます。コロナ禍で沈みがになり仕事のやる気が出ない人にとって、筋トレほど即効性のあるものはないのではないでしょうか。若い世代が筋トレを始めるのは自然な現象と言えるでしょう。
コロナ禍で新たに始めた20代の健康ケア
家トレに外トレが加わる
コロナ禍の運動不足を何とかしようと家トレを始める若い世代。しかし当然ですがウォーキングなどと比べて筋トレはしんどい。自宅で筋トレを継続するのはそう簡単ではなく、途中で挫折してしまう人もいたのではないでしょうか。
そうした中、23年5月8日から新型コロナウイルス感染症が5類感染症となり、外出制限が解除されました。在宅から出社に切り替わることで外出機会が増える。すると会社の近くや自宅近所にチョコザップの看板が目に入る。家トレを続けるのが億劫になっていた人、せっかく始めた筋トレができなくなって困っている人。こうした人たちにとって仕事帰りや買い物ついでに気軽に筋トレできるチョコザップは渡りに船のような存在です。
チョコザップによって家トレに外トレという選択肢が加わった。様々なシチュエーションで筋トレできようになったことは今までにない変化ではないでしょうか。
筋トレが大衆化する時代へ
コロナ禍をきっかけに筋トレが注目され、それをチョコザップのようなジムが後押しする。健康志向はもはや一時現象ではなく恒常的なものであるとすると、筋トレ大衆化時代を想像することはそれほど非現実ではないように思われます。
笹川スポーツ財団によると、2022年の日本の筋トレ人口は1,640万人、実施率は15.9%と推計されています。大衆化の目安を5割とすると現状はまだ程遠い状況ですが、チョコザップのようなフィットネスクラブが普及することによって十分可能になるような気がします。筋トレ初心者はチョコザップやエニタイムフィットネス、健康維持と地域のつながりを求める女性はカーブス、ガチの筋トレ愛好家は専門のトレーニングジムという具合にニーズに合ったジムが増えれば筋トレ人口のすそ野は一気に広がります。
何しろ日本は各国と比較してフィットネス人口が圧倒的に少ないのです。国際ヘルス・ラケット・スポーツクラブ協会(IHRSA)の調査によると、日本のフィットネス参加人口は2018年時点で424万人、全人口に対する割合を示すフィットネス参加率はわずか3.3%で、スウェーデンの6分の1、米国の5分の1です。健康維持・未病対策という観点で言えば、「何かあったら病院」より「フィットネスクラブで健康維持」のほうがはるかに健全な姿と言えるのではないでしょうか。筋トレ大衆化時代の到来はそう遠くないのかもしれません。
各国のフィットネス参加率
順位 | 国 | 参加率(%) |
---|---|---|
1 | スウェーデン | 21.15 |
2 | ノルウェー | 20.79 |
3 | アメリカ | 18.68 |
4 | デンマーク | 18.26 |
5 | オランダ | 16.92 |
・・・ | ・・・ | ・・・ |
30 | 日本 | 3.35 |