| 菓子市場No1の市場規模を誇るチョコレート。チョコブームをけん引するのがカカオ含有量70%以上の「ハイカカオチョコレート」です。ハイカカオチョコブームは一過性で追わる現象なのか、それともコーヒーブームのような本物のブームなのか。統計データをみながら考察します。 |
チョコレート市場が独走中
お菓子界の絶対的王者
みなさんにとって、チョコレートはどのような存在でしょう。コーヒーやワインのお供、運動後のリフレッシュ、仕事で行き詰ったときの糖分補給──。私たちにとってチョコレートは、生活のあらゆる場面に寄り添ってくれる名脇役と呼べる存在ではないでしょうか。
近年、チョコレート市場は他の追随を許さないほどの盛り上がりを見せています。全日本菓子協会の調査によると、2025年のチョコレートの市場規模 (小売金額) は7,105億円で、和生菓子5,356億円、洋生菓子4,394億円と、お菓子界の絶対的王者として君臨しています。下の時系列グラフでみても、チョコレートは右肩上がりで拡大し続けているのがわかります。
菓子類の市場規模(小売金額)の推移
けん引役は「ハイカカオチョコレート」
チョコレートを菓子市場No1の地位に押し上げたのは、カカオ含有量70%以上の「ハイカカオ・チョコレート」です。カカオ豆に含まれるカカオポリフェノールによる美容・健康効果が注目されたことで、一気に人気に火が付きました。
ハイカカオチョコ製品のほとんどはカカオ含有量がパーセンテージで表示されています。私自身も毎日ハイカカオチョコを食べていますが、最初は88%だと苦く感じたため、しばらく70%にしていました。しかし、しばらくたってから88%に挑戦すると、以前のような食べづらさは感じなくなりました。「舌がカカオ慣れする」という感覚は、ハイカカオ習慣の面白いところです。
ハイカカオチョコレート
苦節20年、ブームまでの長い道のり
急成長を続けるハイカカオチョコですが、チョコレート市場をけん引するまでの道のりは険しいものでした。
先のグラフでチョコレートの市場規模をみるとわかりますが、チョコレート市場が急増するのは2010年以降になってから。ハイカカオチョコのファーストペンギン的存在である明治「チョコレート効果」の発売が98年、森永「カレ・ド・ショコラ」は2003年発売ですので、ブームとして火が付くまで10年を要しています。さらにスーパーやコンビニで定番商品になったのはここ数年のこと。ハイカカオチョコが本格的に消費者に浸透するまでに20年以上もの歳月を要しているわけです。
なぜ、定着までそれほど時間がかかったのでしょう。それは、かつて日本人に根付いていた「チョコレート=不健康」という強烈なネガティブイメージがあったからです。
- 「甘いものは太る」
- 「食べすぎるとニキビができたり、鼻血がでる」
こうした先入観を、メーカー各社が地道な研究とプロモーションによって「むしろ健康に良い」というイメージへ塗り替え、ついに払拭したわけです。メーカーの並々ならぬ努力には頭が下がります。
ハイカカオチョコ人気が一時のブームで終わらない4つの理由
ハイカカオチョコレートがけん引する今のチョコブームは、単なる一時のブームではなさそうです。理由を見ていきましょう。
【理由1】中高年齢層の「切実な健康ニーズ」に合致
言うまでもなくハイカカオチョコの最大のウリは「健康効果」です。「血圧低下」「動脈硬化予防」「脳の活性化」など、カカオポリフェノールの効能は健康不安を抱える世代に強く響いています。発売当初は美容やダイエットに関心のある若者層がハイカカオチョコに注目していたようです。しかし、カカオポリフェノールの健康効果が浸透するにつれ、中高年齢層の関心を集めるようになりました。
下のグラフはチョコブームが始まった2010年以降のチョコレート支出額を年齢別に追ったものです。突出しているのが60代と70歳以上の支出額です。チョコブームを支えているのは中高年齢層であるのがよくわかります。
コロナ禍では、巣ごもり生活による運動不足とストレスなどで中高年を中心に健康被害が増えました。美容やダイエットを目的とした健康意識とは違う「切実な健康ニース」はブームが永続する強い根拠となります。
年齢別チョコレート支出額の推移
【理由2】「美味しさ」が格段にアップ
「健康効果をうたった食品ブームは長続きしない」とは食品業界でよく聞かれる声です。理由は単純に「美味しくないから」です。いくら健康に良いと言われても口に入れるものである限り、美味しくないと長続きしないのは当然です。はじめは我慢して食べていても美味しくないものを食べ続けるのは苦痛でしかありません 。
先にみたように、ハイカカオチョコがこれほど普及したのは、メーカーが20年以上かけて「苦くて食べにくい」というイメージを払拭したからです。特に最近のハイカカオチョコはどの商品も香りとうまみがアップしているように感じます。「健康のために我慢して食べるもの」から「健康によいだけでなく、嗜好品として純粋に美味しいもの」へと進化を遂げたわけです。
【理由3】チョコ習慣で「季節を問わないスイーツ」へ
「冬場に売れる商品」──こう言われてきたチョコレートですが、その常識が大きく塗り替えられていいます。今もチョコレートは気温が低くなるほど売れる商品ですが、暖かい季節でもチョコの売上が落ちなくなっているのです。
下のグラフは気温とチョコレートの支出額の関係をプロットしたものですが、気温が下がるほどチョコ支出額が大きくなる傾向が確認できます。しかしこのグラフを注意深くみると、気温25度以上の夏場でもチョコ支出額が増加しているのがみてとれます。07-14年と15-22年で期間を分けると、07-14年より15-22年のほうが気温に対するチョコ支出額が増加しています。一つ下のグラフは気温25度以上のチョコ支出額を時系列にしたものですが、2016年頃から大きく伸びているのがわかります。
これは、メーカーが提唱する「チョコ習慣」が浸透した結果です。「健康チョコ習慣」は明治が健康に良いチョコを毎日摂ってもらうよう付けたキャンペーン文句ですが、ねらい通りの展開になっています。最近は冷やしておいしい夏限定の「夏チョコ」がどんどん投入されています。夏場のチョコは今後も伸びる可能性大でしょう。さらに、冷やして美味しい「夏限定チョコ」の投入により、季節を問わないスイーツとなっているのです。
チョコレート支出額と気温の関係性
夏チョコ支出額(気温25度以上)の推移
【理由4】「チョコ×コーヒー」でブームの相乗効果
4つめの理由は、チョコの強力なパートナーである「コーヒー」との関係です。言うまでもなくコーヒーとチョコレートは相性抜群。私もコーヒーを飲むときは必ずと言っていいほどハイカカオチョコを食べています。
重要なのは、コーヒー自体が長期にわたるブームを続けている点です。つまり「チョコ×コーヒー」とは2つのブームがかけ合わさったとんでもない組み合わせなのです。
コーヒーとチョコは味の相性もさることながらもう一つ重要な共通点があります。豆の持つストーリー性です。現在、コーヒーブームは厳選された豆と生産地のストーリーをお店で味わうサードウェーブから、自宅で焙煎して自宅で丸ごとストーリーを味わうフォースウェーブコーヒーの流れが来ています。消費者はコーヒー豆の持つストーリー性に惹きつけられているわけです。
チョコレートの原料であるカカオ豆がどのような畑で作られ、どのようなプロセスを辿ってチョコレートになってきたのか。生産プロセスの光景そのものがストーリーとなって商品価値を高めるはずです。こうしたストーリー性は他のスイーツにはないチョコレートだけが持つ強みだと言えます。
カカオ豆はまだコーヒー豆のような豊かなストーリーを持つには至ってません。しかしハイカカオチョコの人気とともにカカオ豆に関心を持つ消費者は確実に増えています。ショコラティエ(Chocolatier)と呼ばれるチョコレートの専門職人が日本でも増えているようですので、今後はこうした専門職人がチョコストーリーの伝道師となってストーリー価値を高めていくことが期待できます。
まとめ
ここまで、ハイカカオチョコレートがなぜこれほどまでに支持され、成長を続けているのかを紐解いてきました。その成長を支える柱は、大きく分けて以下の4点です。
- 高まる中高年齢層の「健康意識」──切実な健康意識に、カカオポリフェノールが合致。
- 「美味しさ」が格段にアップ──20年の歳月をかけた改良が、「苦い」という先入観を払拭。
- 季節を問わない「通年スイーツ」への進化──夏チョコの定着により、冬限定イメージを打破。
- 「ストーリー性」の高さ──コーヒーと同様、豆の産地や背景を楽しむ文化の萌芽。
今後、チョコレート市場がさらに進化する上で重要なカギとなるのが、4つめの「ストーリー性をいかに引き出せるか」にあるでしょう。コーヒー豆と同様、カカオ豆にも作り手の想いや豆本来の魅力を伝えるストーリー性はあります。「どこで、誰が、どのように作ったか」という背景を伝えることは、消費者の心に響く強力な付加価値となります。
チョコ市場は1個30円の「ブラックサンダー」のような手軽な商品や「チョコパイ」のようなチョコ菓子まで多種様々な商品がそろっています。そこにカカオ豆のストーリー性を持ったハイカカオチョコレートが加わることで、チョコレート市場はより豊かで強固な「生態系」を持つ市場に育つでしょう。
お菓子の枠を超え、健康を支え、感性を豊かにしてくれるハイカカオチョコレート。次は一体どんな驚きや美味しさを私たちに届けてくれるの。これからの新商品、そして市場の進化が楽しみでなりません。
【補論】チョコ人口とアイス人口、どっちが多い?
お菓子のジャンルではありませんが、チョコレートと比較する上で欠かせない商品の一つがアイスクリームです。日本アイスクリーム協会によると、2022年度のアイスクリームの市場規模(販売金額)は5,534億円です。これはチョコレートの市場規模5,750億円をやや下回る水準です。一方、世帯当たりの月次支出額を比較すると、2022年はチョコレート9,006円、アイスクリーム10,847円でアイスクリームがチョコレートを上回っています。
市場規模ではチョコがアイスを上回るのに、世帯当たり支出ではアイスがチョコを上回る。この逆転現象をどう理解したらよいのでしょう。ここで市場規模を分解すると、
市場規模(①)=世帯当たり支出額(②)×消費人口(③)
となります。①と②の数値を上記式にあてはめて③の消費人口を算出すると、
- チョコの消費人口:6,385万世帯
- アイスの消費人口:5,102万世帯
となります。チョコの消費人口はアイスの消費人口より1,200万世帯も多いという結果になります。結構な差だと思いませんか。つまり、世帯当たり支出額はアイスが上回るのに市場規模ではチョコが上回る原因は、「アイスよりチョコを食べる世帯数が多いから」です。アイスクリームは広く親しまれているスイーツですが、チョコレートはそれ以上に多くの人が口にする大衆スイーツなのです。