消費はいつ戻る?
新型コロナウイルスによる経済活動の低迷を受け、消費は蒸発に近い状況が続いています。消費低迷はいつまで続くのでしょうか。
過去の経済危機と比較しても、消費がこれだけ落ち込むことはありませんでした。下のグラフにあるように、消費の落ち込みが危機前の水準に戻るまでの期間は、
リーマンショック時:約2年
東日本大震災時:約1年
2014年4月の消費増税ショック時:約3年
です。
では今回の新型コロナウイルスによる消費ショックはどうでしょう。危機から1年以上経過しても前年の消費水準に到達する気配がありません。メディアでは3度目の緊急事態宣言でも人流を抑制できないと報道しています。人流が戻ったのなら消費活動も戻っているだろうと思いきや、実態はそうはなっていないのです。
私は新型コロナウイルスによる消費ショックは過去3回の消費ショックを上回る震度だと感じています。消費が危機前の水準に戻るまで少なくとも3年以上はかかるのではないでしょうか。
実質消費支出(指数)の推移 ~コロナ前の水準に届かない
今必要なのは「応援消費」
3.11の経験に学ぶ
私は決して悲観論者ではありませんが、このままでは健全な企業(特に中小企業)さえ生き残っていけない事態になることを危惧しています。
2020年のGo Toキャンペーンを巡る混乱が象徴するように、感染拡大が続く中で前向きな消費活動を喚起するのはそう簡単ではありません。
ここで思い起こしてほしいのは、2011年の東日本大震災(3.11)にみられた「応援消費」という現象です。当時は被災者に対する後ろめたさから、震災直後の消費は自粛モードになりました。しかしその後、「被災地を元気にしよう!」という機運が沸き起こり、その熱量が応援消費となって消費はわずか1年で元の水準まで回復しました。
重要なのは意味的価値
応援消費とは何か。「価値」という視点から少し整理しましょう。
企業が生み出す価値には2種類あります。1つは、商品やサービスが役に立つかどうかが重視される「機能的価値」。もう1つは、商品に込められたストーリーや意味付けが評価される「意味的価値」です。
飲食業界で例えると、機能的価値の代表は手軽で便利なファストフード店、意味的価値の代表はママとの会話を楽しむスナックと言えるでしょう。困っているママを助けようとする気持ちは意味的価値に相当します。
つまり応援消費とは意味的価値を生む活動と言い換えることができます。
機能的価値と意味的価値の違い
コロナ禍でも応援マインドは健在
応援消費を引き出した「ポケマル」
困窮する飲食店や旅館に対する応援マインドはあるはずです。ただ今は消費の背中を押す理由がないために前向きな消費が生まれにくい。それを打破するには意味的価値を伝える企業の力が必要です。
実はコロナ禍でも意味的価値をばねに応援消費を引き出した企業があります。
ポケットマルシェ(通称ポケマル)です。
ポケマルは農家や漁師がインターネット上で生産物を出品し、利用者が直接対話・購入できる直販アプリを運営している会社です。同社はコロナ禍で苦しい状況にある生産者のストーリー(意味的価値)を伝えることで今も利用者数と出品数を伸ばしています。
「真鯛5670」プロジェクト
ポケマルが引き出した応援消費の例を紹介します。
新型コロナの影響で、三重県の友栄水産の養殖真鯛が行き場を失いました。養殖鯛は成長しすぎると売り物にならなくなります。その窮状を知ったポケマルは、販路を失った養殖真鯛の直販に挑むプロジェクト「真鯛5670」を立ち上げました。5670という数字にしたのは、「売り切ればコロナ(567)がゼロ(0)になる」との願いが込められています。
同社は、アプリやSNSなどでプロジェクトの意味を発信します。友栄水産代表で漁師の橋本さんが奮闘する姿を掲載すると、注文が殺到。現地まで買いに訪れる顧客も少なくなかったようです。その結果、2020年4月上旬に始まったこのプロジェクトは6月19日に目標の5670匹を完売したそうです。
「食べチョク」の応援チケット
ポケマル以外にもコロナ禍で応援消費を引き出そうと必死に活動している企業があります。
産直サイト「食べチョク」を運営するビビットガーデンです。同社はコロナ禍で厳しい状況に追い込まれている一次生産者を応援しようと様々な取り組みを行っています。
厳しい状況にある一次生産者に追い打ちをかけたのが 21年8月の大雨です。食べチョクは8月14日、大雨の被害を受けた生産者を応援するためのプログラム「被災生産者 応援チケット」を立ち上げました。被災した生産者の商品を対象に、1購入につき300円を食べチョクが生産者に寄付する仕組みです。食べチョク代表の秋元さんは被災状況をSNSで発信することで、応援の必要性を訴えています。
食べチョクはもともと生産者を応援する目的で作られたサイトですので、こうしたプログラムは顧客にも違和感なく受け入れられているようです。
意味的価値を持つ企業を潰してはいけない
ポケマルや食べチョクの例は、真正面から消費者に向き合って窮状を訴えればコロナ禍でも「応援消費」を十分引き出せることを示しています。
商品の機能だけで差別化することが困難な時代において意味的価値を持った企業は「宝」であり、1社たりとも潰してはいけません。
私が心配しているのは、意味的価値を持つ企業や店舗は得てして地域に根を張る中小企業が多いということです。財務基盤が弱いため、休業状態が長引くとひとたまりもありません。
霧はやがて晴れて消えるように、どんな危機もいずれ過ぎ去ります。
霧が晴れる前に大切な「宝」がなくなっていたということがないよう、少しでも応援消費を引き出して消費を回復させなくてはいけないでしょう。