SNSで誹謗中傷する「中高年男性」
SNSでは連日のように、不適切な動画や不祥事に対するバッシングが吹き荒れています。
- 回転寿司店での迷惑行為
- コンビニ店店員の悪ふざけ
- タレントの不倫報道
――こうしたニュースが出るたびに、「絶対に許せない」「徹底的に罰しろ」とばかりに、SNS上では怒りの投稿でタイムラインが埋め尽くされまます。当事者と面識があるわけでもないのに攻撃的な言葉を浴びせ、完膚なきまでに叩きのめそうとする。その姿はとても尋常な姿とは思えません。
一体どんな人がSNS上でこのような誹謗中傷を繰り返しているのでしょうか。最近の調査で明らかになってきたのは、誹謗中傷の主導層が若者ではなく「中高年男性」に多いという事実です(下図)。弁護士ドットコムの調査によると、「ネット上で誹謗中傷をしたことがある」と答えた人の割合は、若者より中高年、特に中高年男性に多いことがわかっています。
中高年男性による誹謗中傷の動機で最も多いのが、「正当な批判・論評だと思った」です。つまり、本人は誹謗中傷をしている自覚がないのです。正義中毒という言葉があるように、「自分にとっての正しさ」が脳内を支配し、正義の制裁を加える自分に酔っている状態。本来備わっているはずの冷静さや自制心、思いやりなどが消し飛んでいる姿が浮かび上がります。
「ネットで誹謗中傷したことがある人」の年代分布
増える中高年男性の「傷害・暴行」
近年、感情を抑えきれずにトラブルを起こす「キレる中高年」が社会問題となっています。
「キレる中高年」の増加はデータで確認できます。警察庁「犯罪統計書」によると、2024年の刑法犯総数は人口10万人あたり154.9人で、ピーク時(2004年)の304.7人から半減しています。しかし、傷害・暴行数に関して増加傾向にあり、1996年の人口10万人あたり21.4人を底に、2024年は36.2人に増えているのです。全体の犯罪数は減少しているのに、暴力事件は増えているのです。
傷害・暴行の急増をもたらしているのが中高年層です。下のグラフが示すように、2024年の人口10万人あたりの暴行・傷害検挙人員は、全体で92年から1.5倍の増加であるのに対し、60歳以上になると8.5倍という異常な急増を見せているのです。
中高年層による暴行・傷害の原因として、これまでは「加齢による前頭葉の衰え」など身体要因が指摘されてきました。人間は年齢を重ねると脳の萎縮が進み、理性を司る前頭葉が衰えることで怒りが制御できなくなるという説です。
しかし、身体的理由のみでは、「なぜ近年になって暴行・傷害が急増しているのか」は説明できません。最近の高齢者の脳だけが急激に衰え始めたという事実はないからです。
高齢者10万人あたり暴行・傷害検挙人員
中高年男性を追い詰める「4つの孤立」
中高年男性を誹謗中傷や暴行・傷害に走らせているのは「孤独感」です。本来、人は年齢を重ねるほど寛容になるはずですが、強い孤独感が自制心を奪ってしまうのです。彼らを攻撃的にさせる「4つの孤立」について解説します。
①家族からの孤立
中高年男性の孤立、ひとつめは「家族からの孤立」です。農村社会・村落社会が中心だった50年代頃までは「一緒に働いて、一緒に住む」が当たり前でした。
節目が変わったのが60年代以降です。高度経済成長に伴って地方の農村から都市の工業地帯へと大規模な人口移動が進み、そこから家族の形が大きく変わります。地方から都市部に移住してきた人々は結婚を機に郊外に移り住み、夫婦と子供からなる「核家族」を形成します。一方、親族という形で一緒に住んでいた高齢者は取り残され、「単身高齢者」となって孤立していきました。
65歳以上の全世帯に占める単身世帯の割合は、00年の約20%から20年には約30%に増加し、今後も増加が見込まれています。「無縁社会」という言葉に象徴されるように、家族から地理的に離れた単身高齢者は、孤独死や無縁遺骨といった深刻な社会問題を生んでいます。
②友人からの孤立
2つめの孤立は友人関係です。国際比較調査グループISPPの調査によると、中高年は若い世代と比較して、悩みごとを相談できる友人の数が少ないことがわかっています。
悩みごとを相談できる友人とは、すなわち親友です。「年を取ると友人を作るのが難しくなる」と言われるように、社会人になってからできる友人は限られ、親友となるとさらに厳しいでしょう。
距離の問題も重要です。多くの人は小学校や中学校の頃に親友ができます。しかし地方から都市に移住してきたことで、かつての親友と疎遠になってしまい、結果として友人が少なくなっている可能性があります。
さらに「男は弱音を吐かず、一人で生きるべき」という古い価値観が壁となり、寂しくても周囲に助けを求められない心理的な壁も存在します。こうした社会規範の影響も問題を深刻にしています。
悩みごとの相談相手がいない人の割合(年代別)
③職場での孤立
3つめは職場での孤立です。高度成長期からバブル時代までを経験した中高年サラリーマンは、自宅から電車を乗り継いで都心に仕事に行き、家には眠りに帰るだけの生活を送ってきた人が多い世代です。それだけ「モーレツ」に働けたのは、終身雇用制によって企業が社員の生活保障の多くを担ってきたからです。
しかし、その安定はもはや過去のものとなっています。バブル崩壊後、年功序列や終身雇用制が崩壊、右肩上がりだった給与は減少に転じ、リストラで失業する人も急増しました。会社というシェルターを失った中高年サラリーマンは強いストレスにさらされ、職場で孤立する人が増えています。
昨今の働き方改革も中高年サラリーマンの孤立に拍車をかけています。中高年サラリーマンの武器「飲みニケーション」はアルコールを飲まない人も多い今の若い社員から敬遠される傾向にあります。
このように今の中高年サラリーマンは職場の中でつながりを見出すことが難しくなっているのです。
④地域コミュニティでの孤立
中高年男性は地域コミュニティの中でも孤立を深めています。毎日自宅と会社の往復を続けてきた中高年サラリーマンにとって地域は、ただ寝るためだけの場所となり、近所の人と会話する機会などほとんどありません。近所付き合いがないと、祭りや町内会などの地域イベントに参加するのも億劫になり、地域とのつながりはどんどん薄くなっていきます。
地域とのつながりの希薄化が顕在化するのがリタイア後です。60代男性の「地域デビュー」が自治体の課題になっているように、地域コミュニティと関わってこなかった人がある日突然、地域の人とつながろうとしてもうまくいくはずがありません。結果、リタイアと同時に自宅にひきこもる「孤立の完成形」に陥ってしまいます。
「顔の見えるつながり」を取り戻すために
家族、友人、職場、そして地域──。あらゆる居場所から切り離された中高年男性は、「顔の見える強いつながり」を失った状態にあります。
スマホで孤独は解決しない
行き場を失った中高年男性のそばに「誰か」はいませんが「スマホ」はあります。SNSで誰かに「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、一時的に寂しさを忘れることができます。こうして次々と罰する対象を探し求めてはSNSで誹謗中傷を繰り返すようになります。しかし、それは依存性の高い刺激に過ぎません。「寂しさを紛らわすための攻撃」では、孤独の根本解決にはなりません。
では、ネットを閉じて外に出れば解決するのでしょうか。若い人はオンライン・サロンや地域限定SNSなどを入り口として、そこからリアルな強いつながりを作っている人もいます。しかし、デジタルに不慣れな世代や、長く孤立してきた人にとって、そのようなバイタリティはないでしょう。それができるならそもそも孤立などしていません。
一歩ずつ「つながり」を再生する
では、どうしたら顔の見えるつながりを取り戻せるのか。孤独の解消に特効薬はありません。まずは身近なところから、少しずつ他者との接点を増やしていく「ステップ・バイ・ステップ」で進めるのがよいでしょう。
- 「趣味」で人間関係を広げていく──自分の好きなことを通じて、共通の話題を持つ人と関わる。
- 職場で「聞き役」に回る──若い世代の意見に耳を傾け、対話のきっかけを作る。
- 「外」に出て顔を売る──ウォーキングを習慣にし、近所の人と顔を合わせる機会を増やす。
- 「馴染みのお店」を作る──馴染みのお店で、店員さんやお客さんと一言二言、言葉を交わしてみる。
- 「過去の縁」をたどる──久しく会っていない友人に思い切って連絡してみる。
身近にできるところから少しずつ人とのつながりを取り戻す──。孤独感が和らぐと自己肯定感も高まります。心に余裕が生まれれば、画面の向こう側の他者を叩く必要もなくなります。「自分は社会とつながっている」という実感こそが、攻撃性を抑え、本来の寛容さを取り戻す鍵となるはずです。