地方から「老舗」が消える理由|チェーン店と共存共栄するための「ほどよい距離」の法則

街の風景が消えていく「地方の無色化」

  • 「昔からあるあのお店が、いつの間にか消えている──」
  • 「ふと気づくと、周りはどこかで見たような大手チェーン店ばかり──」

こんな光景を目の当たりにし、寂しさを覚えたことはありませんでしょうか?自分が記憶している街の風景がいつの間にか消えていく「地方の無色化」が各地で進行しています。地域に根付いた老舗企業と、利便性の高い大手チェーン店。両者はどうすれば共存できるのでしょう。

深刻化する「老舗企業」の倒産

日本は世界有数の「老舗大国」であり、業歴100年以上の企業が4万社を超えます。しかし、その存続はかつてない危機に瀕しています。

業歴100年以上の「老舗企業」の倒産は、2024年に145件に達し、前年から約1.5倍に急増しています(下図)。元来から経営が厳しいなか、コロナ禍のゼロゼロ融資返済に物価高や後継者不足が追い打ちをかけ、耐え切れずに市場退出を決断したケースが多かったとみられます。

伝統を守り伝承してきた老舗企業は、地域の歴史と文化そのものです。それらが市場から退場することは、地域の「景色」そのものが失われることを意味しています。

老舗企業の倒産件数

(出所)帝国データバンク

次々オープンする大手チェーン店

老舗企業が消えた跡地には、決まって全国展開の大規模チェーン店がオープンします。結果として、地方では、どこへ行っても同じ看板、同じサービスが並ぶ「無色化」が進行しているのです。

「経営努力不足の企業が淘汰されるのは市場原理として当然」「「保護政策で延命してきたゾンビ企業は退出すべき」というシビアな意見もあります。しかし、住民にとっての「喪失感」は、単なる経済論理では片付けられません。

「行こうと思った時は、もう遅い」

大手チェーン店は、便利で安く、品揃えも豊富です。地域の消費者は、普段はそうした利便性を求めてチェーン店を利用します。しかし、だからといって地元店が嫌いになったわけではありません。

住民が望んだわけではないのに老舗企業が消えていくのはなぜでしょう。まず地域に大手チェーン店が入ってくると、消費者は珍しさも手伝って、安くて品揃え豊富なチェーン店に流れていきます。とはいえ、「安くて品揃え豊か」だけで通い続けるほど地域の消費者は単純ではない。心のどこかで「あの慣れ親しんだ味」「地元の名店」を必要としている自分に気付きます。しかし、いざ足を運んだときには、すでにその老舗店はなかった──。地元店が消えていく様は概ねこのようなものです。

この「行こうと思った時は、もう遅い」という喪失感こそが、地方の無色化が人々に与える最も深い痛みといえます。「メジャーリーグの試合に夢中になった後、久しぶりに野球がしてみたくなって草野球に戻ったらチームはすでになくなっていた」という感じです。

老舗店とチェーン店は「土俵」が違う

チェーン店によって老舗店が追い出される──こうした事態はなぜ起こるのでしょうか。原因は老舗店がチェーン店の土俵で戦わされていることにあります。

冨山氏が指摘する「G」と「L」

背の高い生き物も、背の低い生き物も、それぞれの環境に相応しい適応の仕方がある──ダーウィンの自然選択から導かれる結論です。これと同じことを著名コンサルタント兼経営者の冨山氏はこう説明します。

事業や産業には、それぞれが持っている経済特性がある。この経済特性は、自然科学の世界における物理的法則に近い。
冨山和彦「なぜローカル経済から日本は甦るのか-GとLの経済成長戦略」PHP新書

世界で勝負するグローバル企業(Global)とローカル企業(Local)を同じルールや政策パッケージで回そうとしてもうまくいかない。GとLはそれぞれ持っている特性が異なっているため、両者はそれぞれの特性に応じた世界で実力を発揮すべき──。冨山氏はGにはGの、LにはLの規範があり、両者を同じルールや領域で戦わせてはいけないと警告します。

老舗店とチェーン店の関係もこれと同じ構図です。Gは全国チェーン店、Lは老舗店に置き換えられます。チェーン店の参入で老舗店が追い出されるのは、老舗店(L)が、チェーン店(G)の「土俵」に引きずり込まれ、本来の強みを失っているからです。

チェーン店は「競争」、老舗店は「共存」

ではチェーン店と老舗店の土俵とは何でしょう。チェーン店の土俵はずばり「競争」です。全国・グローバル市場を舞台にイノベーションを起こし、ライバル企業との熾烈な競争に打ち勝つ。野球でいうと大谷選手のようなメジャーリーグでチャンピオンを目指すのがチェーン店です。

一方、老舗店の土俵は「共存」です。地域経済を一つの生態系のように捉え、ときに地元企業と手を取り合いながら地域住民や従業員の生活を支える存在。こうして地域の歴史と文化を紡いできたのがL企業です。野球に例えると老舗店は草野球です。魅力的なスタープレイヤーはいなくとも、選手と観客が一緒になって野球を楽しめるような場をつくってきました。

目指すは「ほどよい距離」

チェーン店は「競争」、老舗店は「共存」──。老舗店がチェーン店に追い出されるのは、老舗店がチェーン店の土俵で戦わされているからです。草野球の選手がメジャーリーグの試合に入ってボコボコにされているようなものです(下図左)。

  • 「勝ち負けにこだわらず皆で野球を楽しむ草野球」と「最高のプレーでチームの勝利を目指すメジャーリーグ」
  • 「変わらぬ味で地域住民から愛される老舗店」と「安くて便利な商品を提供してくれるチェーン店」

──両者が同じ地域の中で共存共栄するには、互いの土俵を尊重し、「ほどよい距離」を保つことが重要です(下図右)。

チェーン店と老舗店の距離感

筆者作成

老舗店が生き残るための「アップデート」戦略

では老舗店とチェーン店が「ほどよい距離」を保つにはどうすればよいのか。「公正な競争」の世界では、チェーン店を排除することはできません。公正な競争の中で老舗店が生き残るには、「チェーン店とは別の価値」を磨き、ほどよい距離を保つ「強さ」を身につける必要があります。消費者が安易にチェーン店に流れないよう、老舗店の土俵に立ち戻って自らの価値をアップデートすることです。

そのためのキーワードは、「連続性に非連続性を加えること」です。老舗店の土俵(強み)は、長年培ってきた地域の歴史、文化、信頼、伝統の味──連続性にあります。しかし連続性だけでは目新しいチェーン店のサービスに飲み込まれてしまう。そこで連続性の中に新たな1頁を加える非連続性が必要なのです。連続性と非連続性を掛け合わせることで、老舗店は「昔ながら」という武器を保ちつつ、現代の消費者にも選ばれる店に生まれ変われます。

  • 商店街のアップデート:古民家や古い店舗をカフェ、土産物店、交流拠点へと改装し、地域の文化を再発信する。
  • 地産地消のブランディング:地域の素材(農産物や伝統技術)を活かしたクラフトウイスキーや限定商品を作る。
  • 体験価値の提供:単なる買い物だけでなく、「地域の歴史や物語を体験できる場所」として店舗を再定義する。

こうした新しい取り組みが求められています。幸い、若い世代を中心にこのような動きが各地で広がりつつあります。流れは来ている──私はそう感じています。

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