コロナ禍の外出制限がようやく緩和されたと思ったら今度は物価高。個人消費は未だコロナ禍前(2019年)の水準まで回復していません。しかしそんな中でも順調に拡大し続けている市場があります。家具・インテリア市場です。
- なぜ家具・インテリア市場の一人勝ち状態が続いているのか
- 企業は多様化する家具需要にどう対応しているのか
- コロナ禍が終息しても家具・インテリア市場は拡大し続けるのか
こうした疑問について考えてみたいと思います。
一人勝ち状態の家具・インテリア市場
家具市場はコロナ禍以前から拡大基調に
下のグラフをみると、家計の支出の中で最も高い伸びを示しているのが家具・家事用品です。2020年以降はコロナ禍の巣ごもり需要によって持ち上げられている面はありますが、注目すべきは過去10年以上に亘って拡大基調が続いているという点です。家具・インテリア市場の好調さは一過性の現象ではありません。
家計の品目別支出額の推移(2007年=100)
人口減でも世帯数が増えれば家具需要は拡大
家具・インテリア市場が長期に亘って堅調に伸びている背景の一つに「世帯数の増加」があげられます。人口が減っても世帯数が増えれば家具・インテリアの需要は伸びます。リビングのソファは2人家族なら1台で足りますが、2人世帯なら2台分の需要が発生するからです。
日本はソロ化が進行しています。単身世帯の増加で世帯数は増え続けてますので、結果として家具・インテリア市場が押し上げられているのです。
世帯数の推移
家具需要は「部屋単位」で発生する
上のグラフをみると、増加基調にある世帯数もいずれは減少に向かう見通しです。それに伴って世帯数増加による家具需要の押し上げ効果は剥落していくでしょう。
しかしです。後述するように、コロナ禍で生まれた「リモートワーク需要」「映え需要」といった新たな家具需要は世帯数が減少しても家具市場を下支えする可能性があります。特に若者を中心とする映え需要は個人単位すなわち「部屋単位」で発生します。2人世帯の場合、以前はリビングに1台ソファがあれば十分だったのが、今後は2人の部屋それぞれにソファを置くようになるかもしれないからです。
コロナ禍で生まれた家具・インテリア需要
コロナ禍で生まれた新たな家具需要について少し整理しておきましょう。
リモートワーク需要
コロナ禍の家具需要と聞いてまず想起されるのがリモートワーク需要でしょう。コロナ禍で外出自粛を迫られるまで、ほとんどの人は自宅で仕事をするような事態は想定してなかったはずです。慌てて机や椅子などを購入する人が急増したのは周知のとおりです。
くつろぎ需要
リモートワーク需要は必要に迫られたものですが、コロナ禍ではよりポジティブな意味の家具需要も発生しています。くつろぎ需要です。
家具・インテリアは部屋にいる人にやすらぎや心地よさをもたらすものです。外出自粛を強いられるコロナ禍では「せめて自宅でゆっくりくつろぎたい」というニーズが増加しました。家具の買い替えや照明などのインテリア用品を購入する動きが増えたのはこうしたニーズを反映しています。心地よさをもたらす家具・インテリアは外出自粛によるストレス緩和にも効果があったとみられます。
映え需要
コロナ禍の家具需要で特に特徴的だったのが、他人から見られることを意識した映え需要です。
リモート会議やオンライン飲み会では家の中が人目に触れることになります。もちろん見られたくなければバーチャル背景に設定すればよいのですが、毎回バーチャル背景だと相手にどう思われているかだんだん気になってきます。「人に見せられないような部屋なのか?」と。
洋服と同じように「センスの良い部屋だと思われたい」という意識は強まっています。コロナ禍で特にソファの売れ行きが好調だったのは、ベッドやテレビ台と違ってソファがより画面に入り込みやすいという理由もあるはずです。
ストーリー需要
作り手の姿や製品が出来上がるまでのプロセスを知ることで、その製品が紡ぎ出すストーリーを味わいたい。こうしたストーリー需要はここ数年で顕著に見られるようになりましたが、コロナ禍でさらに強まったような気がします。
コロナ禍では毎日顔を合わせていた職場の同僚や仲の良い友人と直接会う機会が制限されました。顔の見えるつながりや手触り感を求める思いが家具のストーリー需要につながっています。豊かな里山と職人の想いが形となった木工家具がコロナ禍で売れ行きを伸ばしているのは、手触り感を求める人が多いことの表れなのかもしれません。
家具・インテリア市場は「家まるごと市場」へ
リモートワーク需要や映え需要が意味するもの。それは自宅をより快適で心地よい空間にしたいという消費者ニーズです。家具業界もこうした空気を感じ取っており、対応に動き出しています。空間に紐づけられた消費者ニーズを満たすには、家具やインテリアだけでなく家にあるすべての製品との組み合わせ、すなわち「家まるごと」で考える必要があります。
それを如実に物語る動きが業界の垣根を超えた合従連衡の活発化。「家まるごと」をプロデュースするには自社だけでは不十分だからです。業界トップのニトリホールディングス(以下ニトリ)による合従連衡のケースをみながら家まるごと市場の開拓に向けた動きを見ていきます。
ニトリ×エディオン(家電)
ニトリは22年4月に家電量販店大手エディオンに10%出資すると発表。5月にエディオン株主のLIXILから発行済株式の8.6%を、残りの1.4%は市場で取得しました。
エディオンとの資本提携業務の最大の狙いは「家電の品揃え強化」にあります。ニトリは高機能な家電製品の品揃えが弱く、大手メーカーの製品を希望する来店者のニーズを満たせていませんでした。そこでエディオンが扱う家電製品のラインアップがあれば家電の品揃え不足は解消できると考えたわけです。
メリットは家電だけにとどまりません。エディオンは09年にリフォーム事業に参入、13年には建材・設備機器の製造・販売のLIXILと資本業務提携しています。ニトリもリフォーム事業を手掛けてはいるが規模はまだ小さい。リフォーム事業の強化は「家まるごとプロデュース」の実現に一歩近づくことになります。
ニトリ×島忠(ホームセンター)
家まるごとプロデュース実現に向けたニトリの異業種連携で印象深いのは、20年12月の島忠に対するTOB(株式公開買い付け)です。
一般消費者向けに住生活全般を扱う島忠はニトリにとって親和性が高い。同じホームセンターでも農業用品に強いコメリや作業着・工具などプロ向けが定評のジョイフルホンダは家まるごとのコンセプトとは相容れません。
もうひとつのメリットは島忠の店舗立地。島忠の店舗は首都圏に集中しています。イケアジャパンが都心の小型店舗を強化しているように、アクセスが良く気軽に立ち寄れる店舗は身の回りの日用品を売る空間として見直されています。郊外大型店が多いニトリにとって島忠の販売チャネルは魅力的なのです。
ニトリ×ビームス(アパレル)
「映える家具」に必要なのはセンスとデザイン力です。便利で丈夫なだけでは映える家具になりません。そこでニトリは21年4月、セレクトショップ大手「ビームス」と家具シリーズ「新しい暮らし方のためのツール by BEAMS DESIGN」を共同開発しました。
デザイン性と機能性を両立させた机や棚など5品目をニトリの一部店舗で販売。結果は予想以上に好評で、22年1月から取り扱い店舗を当初のニトリネットおよび首都圏6店舗から18都道府県46店舗に拡大しています。特に若い30代~40代の購入者が増えたようです。家具市場に乗り出したいビームスとデザイン力を強化したいニトリの思惑が一致した成功事例です。
家まるごと市場がもたらす明るい未来
家具・インテリア市場が家電や衣服などを巻き込んだ「家まるごと市場」に移行する。自宅という空間価値を高める「家まるごと市場」は今後も拡大し続けると考えるのが自然ではないでしょうか。
家まるごと市場は、安くて便利で高い機能性を提供する商品サービス(機能的価値)と製品ひとつひとつに込められた意味やストーリーを味わう商品サービス(意味的価値)によって構成されるでしょう。
機能的価値の主役はニトリやヤマダをはじめとする大手メーカーです。家まるごとプロデュースを目指すべく異業種提携を繰り返しながら安くで便利で機能性の高い製品を提供してくれるはずです。
意味的価値の主役は大手とは真逆の地域の中小家具メーカーです。地域の職人が地域の木材を使って作る木工家具は高いストーリー性をもっています。SNSやVRを活用して海外顧客を取り込むことも不可能性はないでしょう。
機能的価値の「まるごと」と意味的価値の「ニッチ」が合わさった家具・インテリア市場の未来は明るいと言えるでしょう。