大塚家具の迷走はいつまで続くのか - 久美子社長辞任の背景を探る

久美子社長の辞任

大塚家具の久美子社長は12月1日付で辞任すると発表しました。本人から申し出があったと言われていますが、親会社のヤマダホールディングスによる事実上の更迭というのが本当のところのようです。

久美子社長は2009年に社長に就任しましたが、創業者である父・勝久氏と意見が対立し、一度は社長を解任されました。その後2015年に社長に復帰、勝久氏との経営権をめぐる委任状争奪戦で勝利します。当時は「お家騒動」として新聞等で頻繁に取り上げられました。

久美子社長は会員制販売の廃止や小型店の展開などを進めましたが、それががかえって顧客離れを深刻化させます。資金繰りに窮した同社は昨年12月にヤマダの出資を受け入れて経営再建を進めてきましたが思うような結果を出せず、今回の久美子社長の辞任となったわけです。

大塚家具の売上高と営業損益

結論から言うと、大塚家具の不振の根源は「自社のポジショニングを見失った」ことに尽きます。リーマンショックや少子高齢化などを受けて経営環境が急激に変化する中、これにうまく対応したニトリやイケアの活躍ぶりに目を奪われ、自社の本来の強みを見失ってしまったのだと思います。

なぜここまで迷走したのか

大塚家具はなぜ自社のポジショニングを見失ってしまったのでしょうか。そこにはいくつかの要因があります。

(要因1)縮小する家具市場

大塚家具の苦難のはじまりはバブル崩壊です。下のグラフにあるように、国内の家具市場はバブル崩壊後の1991年をピーク(2兆7千億円)に縮小トレンドに入り、これにリーマンショックが追い打ちをかけます。

家具市場は25年で6割が減少し、家具小売を営む事業所数の約8割が消えていきました。バブル崩壊とリーマンショックという2大ショックが大塚家具をはじめとする家具業界に与えた影響は計り知れません。

家具小売業の売上高と事業所数

(要因2)ライフイベント需要がなくなる

バブル崩壊やリーマンショックのようなマクロ的なショックから逃れられる企業はいませんが、競争力があれば時間とともに再び舞台に立てるようになるものです。財務基盤に問題があれば金融支援やM&Aで再建できる企業も多いです。

しかし大塚家具の場合、バブル崩壊やリーマンショックから時間が経過してもまったく再建の見通しが立ちませんでした。その大きな理由が「ライフイベント需要の減少」です。

家具の需要(特に大型家具)は顧客のライフイベントと密接に関わっています。入学・卒業、就職、結婚などは住居移動を伴うことの多いライフイベントです。親元から遠く離れた大学へ入学、地方の大学を卒業して都市圏の企業に就職、結婚してマイホームを購入など、ライフイベントには家具需要が発生します。「嫁入り3点セット」(整理ダンス、衣装ダンス、洋服ダンス)は最大のライフイベント需要でした。

しかし近年は、卒業しても親元から離れなかったり、晩婚化・未婚化も進んでいることから、人の移動自体が少なくなっています(下図)。移動がないということは転居に伴う家具需要も発生しないということです。

ライフイベントに伴うまとめ買い需要を取り込むことで成長してたのが大塚家具です。ライフイベント需要に依存する限り、景気が回復しても売上げが伸びないのは当然です。

市区町村間移動世帯数と婚姻件数の推移

(要因3)取り付け家具の普及

3つ目の要因は住宅構造の変化です。80年代半ば頃までの日本の住宅構造は和室中心で、マンションの和室の収納は幅一間程度の押し入れのみという設計が一般的でした。マンション暮らしの人でも婚礼3点セットのような大型収納家具が必要とされたのです。

しかし近年のマンションは洋室中心でウォークインクローゼットが設けられるなど、収納家具がすでに取り付けられた状態で売り出されています。私もマンション購入時に買った家具と言えば食器棚くらいです。

東日本大震災以降、安全性への配慮からこの傾向はより強まっているようで、住宅購入者が大型収納家具を購入する機会は少なくなっています。下のグラフにあるように、大型家具の代表であるタンスの購入数量は90年代以降急速に落ち込んでいるのがみてとれます。

たんすとベッドの購買数量の推移

(要因4)モノを持たないシンプル志向の増加

4つ目の要因は消費者の価値観変化に関するものです。断捨離やミニマリストといった言葉が流行したように、昨今はモノを多く所有しないシンプルな暮らしを志向する人が増えています

特に家具の所有意欲は低く、ディノス・セシールの調査(2017年9月)によると、衣類収納を所有したいと答えた人は4割にとどまります。モノを持たないシンプルライフ志向の人にとって婚礼家具は無用の長物となります。所有から利用という流れの中、貸倉庫やレンタル家具といった利用価値のみを享受するサービスへの関心が高まっています。

勝久氏と久美子氏それぞれの誤算

こうしたマクロ環境や消費者志向の変化を受け、大塚家具は自社のポジショニングを見失っていきます。

勝久氏の誤算「ライフイベントへの依存」

バブル崩壊以降の市場低迷に対して先代社長の勝久氏がとった策は高級路線です。92年から会員制を導入し、接客重視の高級路線を推し進めました。様々なジャンルやスタイルの家具を豊富に取り揃え、売り場をまたいで一人の販売員が住空間をトータルに提案するスタイルです。

この策は一つは正しく一つは誤っています。正しかったのは販売スタイルです。安売りをせず徹底した対面重視で顧客と向き合うスタイルは、利便性と効率性を追求するニトリやイケアとの差別化につながるからです。 

見誤ったのは顧客ニーズの変化です。勝久氏は相変わらずライフイベントに伴うまとめ買い需要を見込んでいたようです。店内に様々なジャンルの家具を豊富に揃えるのはライフイベント需要を想定していた証左です。

対面販売そのものは顧客とのつながりを強化する有効なアプローチです。しかし販売員はライフイベントというフィルターを通じて顧客と接するため、どうしても顧客ニーズとズレが生じます。顧客はライフイベントで来店しているわけではなく、家具の素材や作り手についてもっと知りたいと思っているかもしれないからです。

ライフイベント頼みの限界が露呈していたにも関わらず、従来の方法を変えようとしなかったこと。これが勝久氏の誤算です。

久美子氏の誤算「カジュアル路線」

新生大塚家具を担った久美子氏はライフイベント頼みの限界を察知しました。そこで高級イメージの象徴だった会員制を廃止し、幅広い層の顧客が来てくれるよう気楽に入れる店作りを目指しました。商品も若者層が好むようなラインナップを増やし、大幅な値下げを行うなど「カジュアル路線」を進めます。

「ライフイベント依存からの脱却」という久美子氏のねらいは正しかったと思います。しかし選択したポジションが誤っていました。カジュアル路線への進出は同時にニトリやイケアと同じポジションで競争することを意味します。大塚家具にはニトリの製品と差別化できる何かが必要でしたが、その何かを生み出すことが出来ませんでした。

ニトリの「お、ねだん以上。」には、自社工場を持ちながら地道に製品の品質向上を図ってきた自信が裏付けにあります。消費者は大塚家具のカジュアル商品に「お、ねだん以上。」とは感じないでしょう。

ヤマダ電機とのコラボ販売もニトリやイケアを意識したカジュアル路線を感じます。家電と家具が同じフロアに並ぶことは顧客に生活空間をイメージさせる効果がありますが、同時に個々の家具の魅力を伝える力が弱まるというデメリットもあります。

家具のキュレーターとして作り手のスト-リーを伝える

大塚家具に再建の道はあるのでしょうか。

繰り返しになりますが、一番大事なのはポジショニングです。久美子氏はポジショニングをカジュアルエリアに切り替えました。しかしそこに待っていたのはニトリやイケアといったカジュアル製品のプロです。

カジュアルエリアの競争力を左右するのはPBです。PBには高い製造技術が必要ですが、大塚家具がニトリを上回る技術力を身に付けられるとは思えません。結果的に取り得る策は大バーゲンくらいという事態になりかねません。

であれば、従来のように製造は高い技術力のある製造メーカーや職人にまかせ、自社は販売のプロとして徹底的に顧客と向き合うべきではないでしょうか。

この点で勝久氏の目指した対面販売は正しい選択だったと言えます。しかし今の顧客はライフイベントで家具を購入する人は少なくなっているため、顧客との向き合い方を変える必要があります。

作り手の魅力にあふれた家具であれば多少高くても躊躇なく購入する人は多いです。売る側としては、ライフイベントのような外発的な動機を前提とするのではなく、純粋に家具の魅力を伝えることに注力すべきです。作り手の技術や考え方への共感を呼び込むような販売スタイルです

その点、大塚家具の販売員の家具や作り手に関する知識の深さは素晴らしいものがあります。大塚家具の販売員と少し話をしただけでその知識の深さに驚かされます。その深い知識を作り手のストーリーを伝えることに傾ければイケアやニトリにはない強いポジションを構築できるはずです。

世界には素晴らしい技術力と考え方を持った職人がわんさかいます。SNSを使えば直接作り手と会話することも可能です。大塚家具の再建の道は、作り手のストーリーを伝える家具のキュレーターにあるのではないでしょうか

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